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WesAudioは、名機1176をリファインしサウンドメイクを大幅に向上させたBeta76などのアナログアウトボードをはじめ、アナログハードウェアとプラグイン・コントロールを融合させ、現代の音楽制作には欠かせない利便性とサウンドを両立させたngシリーズなど、WesAudioは魅力的なコンセプトを持った製品を開発し、すべてを手頃な価格で提供し続けています。
2021年2月号の“Sound & Recording”マガジンでは、WesAudioの創立者であるRadek氏とMichael氏へのインタビュー記事が掲載され、メーカーのヒストリーやデザインへのこだわり、ngシリーズにかける想いについての話や、ファクトリーの様子、WesAudioを長く愛用していただいているユーザーへのインタビュー、さらに“ngシリーズ”の全機種紹介を網羅した大特集になっております。
インタビュー全文を含む記事のすべてを「サンレコの公式Webサイト」で無料で読むこともできます! 詳しくは以下のURLにアクセスしてご覧ください!
https://www.snrec.jp/entry/product/the-beautiful-world-of-wesaudio
今回は、ステレオバスコンプレッサーに多くの機能を追加し進化させた形で発売した「ngBusComp」に焦点を絞り、“Sound & Recording”マガジンの特集記事では語りきれなかった製品開発の経緯やコンセプト、魅力的な各機能、そしてngシリーズの「アナログ回路のデジタルコントロール」の手法や融合性などについて、Radek氏とMicheal氏に改めてインタビューを行い、深く掘り下げて語っていただきました。
- プラグインコントロールが行えるバスコンプレッサーでは_DIONEがラインナップされていますが、ngBusCompの開発に至った経緯やコンセプトについて教えてください。
バスコンプレッサーというコンセプトは、間違いなく私達を多大にワクワクさせるものでした。デジタルリコールを備えた最初の製品は、500シリーズの形式にのみ収まるもの(ng500)でしたが、実際は開発の初期からサイズなど技術的な制約に縛られず、更に洗練されたデザインを行うプランがありました。
_MIMAS、_DIONE、_HYPERION、_PROMETHUS、_CALYPSOといったng500シリーズを設計する間、アナログ回路をデジタルでマネジメントするアプローチをたくさん実験しました。こういった経験がラックフォーマットのスタンドアロンな機器を設計するのに大いに役立ちました。今回はどうやって小さいサイズに収めるかを考える必要はなく、最高の製品をデザインすることだけに集中できました。それは素晴らしいキャラクターや音質だけでなく、エルゴノミクス(人間工学)にも現れています。
今回なぜ私達がVCAベースの製品を開発したのかに話を戻しましょう。個人的に_DIONEは素晴らしい製品と感じていますが、私達の目標、またはターゲットとしているのは、ミックスバスでどんなマテリアルにも使用できることでした。そのため、様々な機能を追加したのです。_DIONEがあったことは、VCAバスコンプレッサーのキャラクターにおいて幅広い汎用性を獲得する大きな助けとなったと信じています。私の耳には、クラシックなロックやアコースティックな素材のみに向いてるようには聴こえません。実際は、EDMの素材にも最高にマッチします!
ngBusCompは、私達のデザインの中でも最も進化したものであるべきで、そのアプローチを制限するすべてを取り除こうとしました。最初の大きな変更は、トゥルーステレオまたはデュアルモノのコンプレッションの実現です。また可変式THDの搭載で、2ステップと比較して非常に幅広い用途へ使用できます。これらは特にミックスバスで使用する上で、非常に重要な要素です。
出力のトランスフォーマー(IRON)は、リレーカスケードを介してマネジメントされるカスタムメイドのIRON PADを備え、ロー/ローミッドのサチュレーションを与えつつ度合いを完全に制御でき、優れたキャラクターを付加します。もちろん、私達は最も重要視した汎用性についても忘れていません。ngBusCompはアタックとリリースの各コントロールやMID-SIDEプロセスモードを用意しています。
これらの主要な機能はすべて、ngBusCompの優れた音響特性を裏付けており、オーディオ・ハードユニットとしての最も重要な側面であると言えます。
一方で、デザインにおいて同様に重要視したのが、ユニットのエルゴノミクスとUX(ユーザーエクスペリエンス)でした。このようなデバイスを操作する際は、楽しく、喜びにあふれているものであることが大切です。今回はサイズに大きな制限がなかったので、プロセッサやフロントパネルの設計に広い選択肢を持つことができ、私達は異なるアプローチを試すのに膨大な時間を費やしました。この設計で新しく使用されるプロセッサーは、エンコーダー(ノブ)の動きへの追従性が非常に優れており、このことはユーザーの実際の操作感覚に大きく影響しています。
またチャンネル・パラメーターのリンクを相対的にコントロールできるパラメーター・リンクも便利です。例えばMID-SIDEを使用したとき、パラメーター・リンクを無効にすれば、それぞれのチャンネル(MID,SIDE)で個別の調整を行えますが、パラメーター・リンクを有効にすると、両チャンネルのパラメーターをコントロールできます。設定したレベル差を保ったまま両チャンネルのパラメーターを可変できます。メイクアップゲインは両チャンネルで相対的に調整されることが求められますので、このパラメーター・リンクで使いやすくなっています。
- SSL Gシリーズのバスコンプから、敢えて設計を変更した箇所はありますか。
SSL G バスコンプレッサーはその設計だけでなく、使用方法もとてもシンプルです。機能的な違いについては、前の質問で多く説明しましたが、各ブランドには独自の哲学があり、それがデバイスに大いに現れるはずです。私達はngBusCompを新しい次元のコンプレッサーとして使えることを目標にしたので、汎用性は重要なキーでした。
以下の3つがクラシックなバスコンプレッサーとngBusCompを区別するメインの機能となります。
・THD ・選択可能な出力(電子バランス / IRONトランスフォーマー・バランス - PAD付き) ・コンプレッションモード: デュアルモノ / ステレオ(リンクまたはリンク無し)/ MS
これらのコンセプトにより異なるコンプレッションのオプションを提供するだけでなく、2種類の独立したサチュレーション回路も備えています!
- メインのVCAが4基のパラレル構成となっていますが、これによって得られる利点は何ですか?。
このアプローチによる利点は、以下のようにまとめられます。
・ヘッドルーム ・ダイナミックレンジ ・THD
4基のVCAアプローチは、高いヘッドルームとダイナミックレンジ、低いノイズフロアを達成できます。THDについては、VCAをオーバーロードさせて得る独自仕様のものが使われており、4つの独立したセクションからディストーションを生成しています。これにより音響上いくつかの利点を得られるだけでなく、誰もが愛する複雑なアナログの歪み感を付加できるのです!
- アナログ回路のデジタル・コントロールは、どのような手法で実現されているのですか?
様々な方法があるので、一言で説明するのは難しいです。多くの場合、デジタル・インターフェースを持つシンプルなデジタルのポテンショメータを、ソフトウェアといった外部ソースから変更するのが一般的です。設計のうち大部分を占めるのはコミュニケーションレイヤーで、極小の電子部品の動作を変更するような指示を送ります。これはシステムで重要な部分ですが、私達はパフォーマンス上の理由から既存のプロトコルを使用しませんでした。イーサネット(ネットワーク)やUSBといった物理的な層を簡単に設定できる独自のプロトコルを開発しました。
私達が最初の製品をリリースした当初、多くのユーザーがこのようなカスタムメイドのソリューションは、始めたばかりの小さいカンパニーには大規模すぎて不安に思ったようです。しかし私達には、このようなコンセプトを持つ製品のプロトコルの開発経験が多大にあり、達成の障害となる知識のギャップはありませんでした。これらはすべて、私達のユニットをパフォーマンスやレイテンシーの問題なく、ユーザーが瞬間的にコントロールできるためのものです。ユーザーは、USBまたはローカルネットワークどちらからも操作ができます。
アナログ回路のデジタル・コントロールに話を戻します。
機能的な側面で言うと、一般的にはデジタル・ポテンショメータか、DACから管理できるVCAを使うのが主流です。ですが、これにはシグナルパスにzipper noiseといったデジタルの影響が出てしまいます。これらを完全に取り除きたいと思ったときが、本当に面白いところのスタートです!
私達の_HYPERIONなどいくつかの製品でも、この問題解決しようと何年も試行錯誤し、それは今でも大きなチャレンジです。もしアナログのハードウェアをオートメーションさせるなら、それは本当にノイズレスであるべき、というのが私達のポリシーです。これはユニット上のオートメーションできる殆どのパラメーターに当てはまりますが、THDやバイパスボタンといった例外もあります。これらは可変式のパラメーターではないからですね。一般的な機械式スイッチを想像してみてください、それらも同じ様にノイズを発生させるはずです!
_HYPERIONの実演動画。周波数、Qやゲインなど、可変式のパラメーターの設定変更時もノイズレスで非常にスムースなコントロールが行える。
- アナログ回路なのにとても精密なコンプレッション動作をしています、この精度はどのようにして実現しているのですか?
まず、このユニットはピュアなアナログ回路によって作られていることを忘れてはいけません。ngBusCompで使われている各チャンネル500個、合計で1000個近くのパーツは、それぞれ個体差があり、トランスフォーマーにも違いがあります。一部のユニットでは、様々なレイヤーを作成しキャリブレーションを何度も反復して行う必要があります。ngBusCompについては、トリマーによるアナログなキャリブレーションを精密に行うことが可能です。そういったハードウェアのキャリブレーションに加えて、ユニットの内部メモリに書き込まれたいくつかのパラメーターもあり、これでTHDなど一部のコンポーネントの調整を行うことができます。
アナログとデジタル、2つのアプローチでのキャリブレーションを行うことで、ステレオセットアップ時に最高の解像度を得られるのです。私達の工場では、各ユニットを適切にキャリブレーションするために多くの時間が費やされますが、このアプローチはユーザーへ最良の結果をもたらすと信じているため、間違いなく価値があるものと思っています!
- アウトプットトランスによる奇数次倍音、THDコントロールによる偶数次倍音の2つの倍音を操る機能がとても興味深いです。ユーザーからも、これまで苦労してプラグインで作ろうとしていた質感が、この機能によって非常に簡単に作ることができたと高く評価されています。ngBusCompのように自在に倍音の質と量を操作できる機器は、他には知りません。この機能についての拘りを聞かせてください。
THDの搭載は、このデバイスを本当に特別なものにしてくれたと思います。サウンドソースの素材に基づいて、素晴らしく存在感を高められるのです。ハイミッドレンジにサチュレーションを加えることで、すべてのサウンドがより前のめりになり、存在感を増します。
出力トランスは、ローとローミッドを中心にサチュレーションが加わります。通常の出力レベルでは、かなり微細な変化となりますが、大きなレベルでトランスをドライブさせることで、効率的に倍音を引き出すことができます。
しかし、このままだと出力が大きすぎて後段の機器でレベルオーバーになってしまいます。ここでIRON PADの出番です。IRON PADはリレー・カスケードを介してマネジメントされる、高精度な抵抗器のアッテネーターのネットワークです。
トランスフォーマーの直前はMAKE UPゲインであり、20dBまでの極めて高いレベルで大幅なブーストを生成できます。好みに合わせてトランスフォーマーをドライブすることができますが、大きくなりすぎた出力信号をIRON PADがアッテネートすることで、次の機器に最適なレベルで出力できます。もしngBusCompに+26dBuのヘッドルームを加えたなら、ローとローミッドにフォーカスする、完璧なトランスフォーマー・ベースのサチュレーション・ボックスとなるでしょう。
ngBusCompは、トラックの存在感を制御する素晴らしいTHDコントロールを備え、ロー/ローミッドのサチュレーションをMAKE UPゲインとIRON PADで簡単に調整が出来る、フレキシブルなサチュレーションボックスでもあります。私達が常に強調しているのはngBusCompは単なるコンプレッサーだけでなく、2種類の独立したサチュレーション回路を備えたコンプレッサーなのです!
- USBやイーサネットの通信系統を含む、コントロールセクションのデジタル回路、そしてシグナルパスを含むアナログ回路、これらを統合する際は、ノイズなどの面でとても気を遣うと思います。この点で工夫したことなどあれば教えてください。
アナログとデジタル回路を別々に制御することは、私達が何年にも渡ってマスターしてきた技術です。私達には、これによる問題を検出する様々な方法や、解決へのソリューションを数多く用意しています。私達の知識が完全に整っており(習得に何年も掛かりました!)、かつngBusCompはサイズの制約がなかったため、全く問題ではありませんでした。私達は複数のフィルタリング・レイヤーを使って、正確な回路の分離を行っています。そのためシグナルパスにはまったく影響を与えず、問題がないと断言できるのです。
- レコーディングスタジオやホームスタジオに導入する場合、どのように使っていただきたいですか?
何度か登場していますが、ngBusCompのサチュレーションの可能性についてはもう一度強調しておきましょう。リリース当初からたくさんのユーザーから私達はフィードバックを受け取っています。VCAコンプレッションとしてうまくフィットしなければ、THDやIRONサーキットを使ってマテリアルに応じたサチュレーションを付加するデバイスとして使えます。これら2つのサチュレーション回路はお互いを補完するように設計されているので、幅広い周波数帯をカバーできます。
- サイドチェインは内部のフィルターのほかに外部の機器を接続できますが、外部機器を使用する場合のアイデアをいくつか紹介してください。
外部のサイドチェイン・フィルターはシグナルの外部ソースであり、正確には外部の機器ではありません。現代最も一般的なハイブリッド・ワークフローでは、オーディオ・インターフェースからの追加のI/Oを使用して、サイドチェインのシグナルを供給するか、シグナルをコンプレッサーの入力へ複製し外部サイドチェイン入力は外部アウトボードで処理されます。
しかし一般的な考え方は、サイドチェインのシグナルを加工してコンプレッサーの異なる動作をトリガーさせることです。殆どの場合は、予め用意された5つのフィルターで事足りますが、より細かい処理が必要な場合(特にマスタリングで)は、自分でサイドチェイン・フィルターを接続することは大きなメリットになります。加工するマテリアルに応じて様々に実験してみてください。ハイミッド/ハイのレンジでベルフィルターを試して、どの様にコンプレッサーに反応するかを見るだけでも、問題解決の助けとなるはずです!
- ngBusCompは、世界中のマスタリングスタジオにも多く導入されていますが、どのような評価でしょうか。
正直にいうと、毎日送られてくるフィードバックにこれ以上にないくらいハッピーを感じています。世界中の素晴らしいスタジオにngBusCompが導入される投稿をたくさん見ることが出来ます。Stuart White (Beyonce、Jay-Z、Sia、Alicia keys)のようなプロフェッショナルも、ngBusCompのコンセプトとサウンド両方を愛しています。彼はJay-Zのスタジオにも導入してくれたんです!
"House of Glass Studio"(http://www.houseofglass.it/)のオーナーであるGianni Biniからも、ngBusCompをどれだけ愛しているかを語ってもらいました。彼は相当気に入ったようで、1週間の内に6つの_MIMAS、_HYPERION、_DIONEを備えた_TITANラックも入手したそうです!
Gianni Bini氏によるngBusCompレビュー
- 最後に、ngBusCompに興味を持っている日本の顧客にメッセージをお願いします!
グレイトなサウンドのVCAコンプレッサー、素晴らしいサチュレーションオプション、そしてフル機能のインスタントなリコール、これらを求めるならngBusCompは貴方の次の相棒になるはずです!
ngBusCompを気に入ってエンジョイしてもらえるなら、とても嬉しいです。
- ありがとうございました!
★ WesAudio ngBusComp製品ページ https://umbrella-company.jp/wesaudio-ngBusComp.html
★ ngBusComp技術解説 https://umbrella-company.jp/contents/wesaudio-ngbuscomp-functions/
★ ngBusComp特長 https://umbrella-company.jp/contents/wesaudio-ngbuscomp-features/
★ ngBusCompサウンドレビュー https://umbrella-company.jp/contents/wesaudio-ngbuscomp-review-ym/
★ グラミー賞ダブル受賞のエンジニア“Stuart White”氏のngBusComp導入コメント https://umbrella-company.jp/contents/wesaudio-ngbuscomp-review-sw/
★ サウンド&レコーディングマガジン WesAudio特集記事 https://www.snrec.jp/entry/product/the-beautiful-world-of-wesaudio
★ サウンド&レコーディングマガジン ngBusComp製品レビュー https://www.snrec.jp/entry/product/wesaudio_ngbuscomp
ngBusCompはデモ機をご用意しております。 ご興味のある方は、お近くの販売店、または弊社までお問い合わせください。 https://umbrella-company.jp/sales.html https://umbrella-company.jp/demonstration.html