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Urei 1176ほど多くのエンジニアやプロデューサーに評価され、長年にわたって使用され続けているスタジオ機器はない。1176の無いスタジオを探す方が難しいくらいだろう。シンプルで分かりやすいインターフェース、高速なアタックタイム、さらに本機特有の美しいサチュレーション、レシオの同時押しなどの裏技、リビジョンによるサウンドキャラクターの違いなどなど、コンプレッサー/リミッターの名機と呼ぶにふさわしい逸品だ。
WesAudio “ng76″は、レコーディング機器のレジェンド「Urei 1176LN」に多くのアップデート加え、さらにデジタルリコール/プラグインコントロールを追加したモデル。音声信号は完全にアナログ回路しか通過しないが、その全パラメーターはDAWのプラグインからのデジタル制御が可能。1176の伝統的なアナログサウンドはそのままに(さらに幅広く!)、リコールやオートメーションといったプラグインと同じ利便性を活用できるようになる理想的な「1176」だ。
ここ日本でも高い評価を得ていた1176レプリカで先代モデルのbeta76を大幅に強化した “ng76″を開発するに至った経緯、さらにアナログ回路のデジタル制御や設計へのこだわり、使いかたのヒントとなるTIPSまで、WesAudioの回路デザイナーであるミハエルとラディックに日本独占インタビューを実施。WesAudioのプロフェッショナルな製品開発や新しいアプローチについてたっぷりとマニアックに語ってもらった。
メインのコンセプトは、好評だったBeta76を別のレベルに引き上げることでした。また、1176系コンプレッサーの市場はすでに飽和していたこともあり、フレッシュで新しいものが必要な時期だと感じていました。単にFETコンプレッサーの生まれ変わりとしてではなく、このデザインをより多くのマテリアルで活用できるような、新しい機能をお客様に提供したかったのです。
私たちはBeta76の設計を小さなセクションに切り分けながら、デジタル制御回路にどのように適合させることができるかを分析していきました。確かに時間はかかりましたが、Beta76を狙い通りにng76へとトランスフォームさせ、あらゆるワークフローに最適化された、極めて高い柔軟性と利便性を両立できたと思います。
Beta76と同じ基本回路を維持することが最優先でした。そのため、同じ方法で最適な分解能でのボリュームカーブを実現するために、非常に高精度で高品位な2個のデジタル・ポテンショメータを直列に使用することにしました。
INPUTとOUTPUTの各ゲイン・ステージに2つのポテンショメータを使用する設計によって、(Beta76と)同じ可変スケールを維持するための多くの分解能とアナログ・ステップを得ることができました。市場に出回っているポテンショメータの多くは、いわゆる「ジッパー・ノイズ」を発生させるため、これは本当に難しいチャレンジでしたが、私たちはどうしてもこの影響を避けたかったのです。
残りの回路は、ほとんどのコントロールがサイドチェイン回路に由来するため、それほど難しいものではありませんでした。ベースとなるFET回路が完成し、すでに評価されていたBeta76のデザインが固まった上で、新たな機能の追加をしていったのです。
ユニットの精度に影響を与える要因はいくつかあります。 最初に、どんな状況であっても、デジタル上のパラメーターとアナログ領域と同じ値に一致させるための管理システムを構築する必要があるのです。私たちは、デジタル制御のアナログ・ポテンショメータのような、高品質コンポーネントに依存するだけでなく、その他の部品においても公差の小さい高精度コンポーネントを使用することで、それを実現しています。もちろんこれらのコンポーネントは高価ではありますが、最高の品質を達成するためにはとても重要なことであると私たちは常に考えています。
FETコンプレッションのコントロールは、たった1mVの違いでもゲインリダクションに大きな誤差となっていまいます。また、高品位な回路を実現する上では、この信号を干渉やノイズの混入がないよう適切に管理する事は極めて重要です。変換に誤差があると全体的な動作の不安定さにつながるからです。
音質こそが常に最優先であり、私たちはそれにフォーカスすることから始めます。私たちの機材はフルデジタルコントロールですが、トランスフォーマーや真空管などの管理しにくいものであっても、それらを採り入れることを躊躇しません。私たちはこれらの機材が単なるスタジオのユーティリティツールになるのではなく。「ソウル(魂)」を持ったものに仕上げたいのです。
製品に対するテクノロジーを選択した後の次のステップは機能の選定になります。これはとても重要なステップであり、すべての側面が機器のサウンドに貢献すると考えています。これは例えば、ng76のデザインにサイドチェイン・ハイパス・フィルターを追加するようなことです。ユニットをより多機能にし、機能がユニットのサウンドに貢献します。
コンプレッサーにとって、このような機能はとても重要で、様々な状況でこれらのツールを利用することができるでしょう。機器を開発するとき、私たちは決まりきったシナリオに限定されないようにしています。あらゆる分野をカバーしようとしているので、私たちのユニットはミキシングでもレコーディングでもライブコンサートでも、どんなシナリオでも同じように機能します。
ビンテージFETのアプローチを私たちの回路に反映させることを目標に、そのキャラクター再現を第一に開発しましたが、その雰囲気はとてもよく保たれていると思います!
デジタル通信ノイズは、主にICの通信ラインのクロック周波数に起因するものです。ng76は私たちが過去のさまざまな段階で開発したハイエンドなソリューションをベースにしています。簡単に説明すると、各デジタル通信ラインはアナログ処理ラインから丁寧に絶縁されており、さらに、信号への影響を防ぐために、デジタルラインに数段階のフィルタリングを適応しています。
私たちは、デジタルとアナログのそれぞれの利点を融合し、改善するための開発に何年も費やしてきました。これらが素晴らしいものであると私たちは確信しています!
全体的なコンセプトに基づいて電源回路の設計を行う際、デジタル回路とアナログ回路の電源を分離することに細心の注意を払っています。デジタル回路がアナログ処理に干渉することは絶対に避けなければなりませんが、実際にこれを達成するのは大変な作業なんです。
私たちは過去の開発製品を通じて、開発プロセスをより迅速で信頼性の高いものにするために、多くのコンセプトを開発してきました。ng76のコンセプトも同じで、アナログとデジタルのラインは物理的なレベルで分離され、それらのラインが悪影響を受けることなく共存できるように、多くのフィルタリングステージが設けられています。
レシオを無効にするか、サチュレーション・モードを選択することで、信号はコンプレッションされなくなるため、これでもバイパス状態は作れます。ですので、バイパス機能にはトゥルー・バイパスを選択しました。
サチュレーション・モードとレシオの無効化によって、コンプレッション処理をすることなく、ただユニットにオーディオを通したいというシナリオをカバーできます。トゥルー・バイパスは、ユニットをチェーンから完全に外したい場合にも対応できますからね。
この2つの手段によるバイパスを使い分けることで、ng76を大変便利に活用できます。ミキシング・シナリオではチャンネル・プロセッシングにハードワイヤリングしておきながら、コンプレッションを完全にバイパスしたり、コンプレッションをオフにすることができます。あるいはサチュレーション・モードで、アナログのサチュレーションだけを信号に付加することが簡単にできます。これにより本機をとても多目的に使用することができるようになります。
インプットモードは、トランスバランス回路と電子バランス回路のいずれかを選択する事ができます。ng76では、1176の「F」と「G」の2つのリビジョンを簡単に切り替えることができるのです!
一般的に、電子バランス入力はよりハイファイでクリーン、パンチのあるサウンドになります。トランスバランス入力はレベル的にどのくらいハードヒットされるかによってサウンドが変化しますが、基本的にはトランジェント・レスポンスは遅めで、低中低域に特有のサチュショーンが加わります。
時代がデジタル中心となってからは、多くの人がトランスフォーマーの(倍音の多い)サウンドを好んでいますが、MODERNモード(電子バランス入力)も驚くほど多くの場面で役に立ちます。このアプローチもまた、私たちの設計哲学に沿ったものです。私たちは、機材が幅広く使用され、楽しんで使える事を望んでいるのです!
様々な状況に適応できるようにするためです!とても高速なアタックとアグレッシブでがっつりとしたコンプレッションを特徴とするクラシックな1176LNは、素晴らしいツールですが何にでも最適という訳ではありません。この追加機能により、ng76はより多くのシナリオに対応できるようになりました。
MIXノブの搭載は私たちにとって必然でした。なぜなら、私は1176 FETコンプレッションのオールボタンモード(レシオボタンの4つ押し、全押し)の大ファンですが、大げさすぎて使えない時もあります。本当に素晴らしいサウンドなのですが、いくつかの素材に対してはアグレッシブすぎる時があるのです。
MIX ノブがあればng76 をよりアグレッシブ方向に設定しながらも、MIXノブで少しずつ原音に戻していくことができて、とても楽しく役に立ちます!
これも従来は不可能だったことですが、現在ではすべてのテクノロジーが整っているため、元の音響特性に影響を与えることなく、この機能を簡単に組み込むことができます。これもまた、私たちエンジニアにとってさらに楽しいことなんです!
ng76は、私たちの他の製品とは大きく異なっています。ここではFET回路を再構成してよりサチュレーション感を高めています。ボタンを押すだけでダーティまたはクリーンな1176を再現することができます。これはとても便利な機能で、音源にどれだけのサチュレーションを追加するかをセレクトできるのです。このような機能を利用できることは、レコーディングだけでなく、ポストプロダクションにおいても有益だと考えています。サチュレーションが大きくなればなるほど、処理された素材に存在感と全体的な倍音が増していきます。
サイドチェイン回路に3つのハイシェルフを設け、ソースのハイ/ハイミッド・コンテンツを管理できるようにしました。サイドチェイン フィルターによって、コンプレッサーはより高い周波数にフォーカスするようになり(設定値より低い周波数への反応を鈍らせる)、その結果、フォーカスされた周波数がより積極的にコンプレッションされるようになります。
例えば、アコースティック・ドラムのグループをコンプレッション処理したいとします。パラレル・ドラム用の独立したトラックはなく、ステレオ・トラックをステレオ・ペアのNG76で処理するようなシチュエーションです。MIXノブでコンプレッションを緩めて行くのは有効なサウンドエディットの手法です。しかしながら、ドラムのシンバルをパラレル・コンプレッションされた信号から自然に調整するのは難しく、結果的にはシンバルがトラックからピークアウトしがちになってしまうでしょう。
そこでハイシェルフを2kに設定することで、コンプレッサーはこれらの周波数をうまく調整できるようになります。コンプレッションは少しダークな印象になりますが、ディエッサーとダイナミックEQの中間のようなものとも言えるでしょう。FET特有の反応の速さによってダイナミックな仕上がりになるはずです。
さらに、少し耳障りなボーカル トラックにサイドチェインのシェルビング・オプションを活用すると、EQ よりもはるかに優れたソリューションとなる可能性があり、常にそれを試してみる価値があるでしょう。
サチュレーションモードのコンセプトは、INPUT ノブと OUTPUT ノブを互いに逆動作の関係にリンクさせることです。つまり、INPUT を上げるとOUTPUT が下がる、その逆も同様です。
これにより、FET 回路とアンプがとても強くヒットによって過負荷となり、内部クリッピングによるオーディオ的な副作用が発生します。 このエフェクト効果はソフトクリッパーなどと呼ぶこともできるでしょう。
ここで、さらに多くの倍音(ハーモニクス)を生成するために、このコンセプトをさらに深く掘り下げ、内部 DAC から高周波の正弦波を生成し、それがユニットのサイドチェーン回路にリダイレクトされています。
これにより、FET 回路に一定のコンプレッション (約 10dB) が常にかかった状態になり、そこに信号を通すことで FETサチュレーションが発生するのです。10dB のリダクションは、出力ポテンショメータとアンプステージによって自動補償され、ユニティゲインを維持します。
このように、ng76はサチュレーションモードではトラックにわずかな温かみを追加したり、さらにはクリッピングを経て、最終的にはディストーションに至るまで、幅広い用途に使用することができます。
正直に言うと、私たちはある意味でクラシックであり続けたかったのですが、どうしてもというわけではありませんでした。 INPUTメーターやOUTPUTメーター、GR(ゲインリダクション)メーターなど、私たちが足りないと思った機能を盛り込みたかったのです。これらは同時に確認することが非常に重要です。これは特にレコーディングの間に、設定の変更が正しいかどうか判断する際の助けになるものです。
全体的なデザインに関しては、ユニットの中心部分にすべての主要な機能を配置したいと考えていました。そうすることによって全てが明確になり、コンプレッサーを使うことに親しみやすくなります。 すべての追加機能を備えたユニットの中央セクション以外の部分では、誰もが知っているクラシックな1176となるため誰にでも使いやすく、すぐにロックできるようになります!
これら 2 つのコントロールには多くの配慮を注いでいます。まずはすでに述べたようにオリジナル機と同じボリュームカーブを再現するために、各コントロールに高精度/高品質のデジタル制御のアナログ・ポテンショメータを使用しました。
私たちはクオリティに関してとても高い基準を持っているため、このような基準は当社のすべてのソリューションに非常に関連していると考えています。 これら 2 つのポットを直列に配置することで、アナログ ポテンショメータを使用したBeta76 のボリュームカーブを完璧に再現することができました。デジタル領域でアナログステップに再現するには多くの段階の演算がありましたが、私たちは本当にそれをうまくやったと確信しています!!
このソリューションのもう 1 つの側面は、ゲインステージングが常に同一であるため、ステレオペアの製作が容易になることです。1176ユニットをステレオ コンプレッサーとして使用できることはとても役に立ちます。キャリブレーションについても心配する必要はありません。ステレオプラグインで接続するだけで準備は完了です!
すべての組み合わせが可能です。 これらはソフトウェアによってコントロールができますが、実際には普通のアナログボタンですから、スイッチのコンビネーションに追従するのも容易です。 フロントパネルだけで A/B のセッティングを切り替えできるようになったことで、2 つの設定の比較がさらに簡単になっているのは大きなアドバンテージです。 可変抵抗器のボリュームカーブについても先述の通り再現できています。
そうですね、ng76 はアナログプロセッサです。 プラグインを使用するとさまざまなワークフローを支援できますが、結局は通常のアナログオーディオ信号プロセッサーであるため、プラグインがなくてもさまざまな状況で活用できます。
私たちは出荷されているすべてのNG76ユニットをキャリブレーションして同一の品質を保証しています。これを行うには、INPUTとOUTPUTを個別にキャリブレートする必要があります。これは1176 - 1178のステレオバージョンでも同様です。
クラシックなアナログポットを使用する場合には許容差が非常に大きいことを認識する必要があります。したがって、2つの1176ユニットを合わせることは相当に難しい作業になります。
次の問題は、数ミリボルトレベルの変化がコンプレッションの動作に大きな変化をもたらすことです。デュアル・モノ・コンプレッション(ディテクターがリンクされていない)に関しては、INPUT/OUTPUT/ATTACK/RELEASEのコントロールが同じであれば、各ユニットが同じコンプレッションを維持するようにキャリブレーションされているのではるかにシンプルです。しかし、ディテクターをリンクさせると、1つのユニットから別のユニットへ送られる数ミリボルトの違いにより、数dBの大幅なゲインリダクションの問題が発生します。
ここで私たちのテクノロジーである「Dynamic Link Technology」が威力を発揮します。この回路は、ステレオで使用される互いのユニットに送る前に、各ユニットのサイドチェーン信号を調整するために導入されています。個別のRATIOに限らず、例えば4:1 / 4:1 with 8:1 / 8:1 with 12:1 with 20:1 / All buttonなど各RATIOの組み合わせについてもキャリブレートし、事前に設定されたレベルシフトにより補正するのです。
これにより、互いにまったく同じゲインリダクションを維持できます。これは本当に素晴らしい機能です!
★ WesAuduio ng76 日本語製品ページ https://umbrella-company.jp/products/ng76/