クリエイティブな音楽機材の
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SMAP、YUI、絢香、mihimaru GT、柴崎コウ、モーニング娘などJ-POPを代表する数多くのアーティストのサウンドプロデュースから、世界に向けて発信されているアニメーションの楽曲制作まで幅広く手がけるサウンドプロデューサーの鈴木Daichi秀行さん。
都内住宅地の一軒家にあるプライベートスタジオ「Studio Cubic」は、プリプロダクションからドラムやギター、ボーカルまでのレコーディングからミックスダウンまでの作業を行えるクリエイティブな空間で、既に数多くの作品を生み出しています。 今回は、Daichiさんの持つ幅広い音楽性とマルチな才能によってサウンドプロデューサーとして活躍されるまでの経緯から、レコーディング機材にも造詣の深いDaichiさんが商用スタジオとは異なるコンセプトで揃えたという充実したアウトボード機材について、そしてその中でもラックに埋め尽くされたChandler LimitedやVintech Audio、Empirical Labsの各機材の導入理由についてお伺いしました。鈴木Daichi秀行 アマチュアとしてBAND活動の後、1995年にConeyIslandJellyfishのメンバーとして、AntinosRecordよりデビューする。 BAND解散後、作曲、アレンジ、オペレート、マルチプレーヤーとしての活動をスタートさせ、現在に至る。 今最も多忙なアレンジャーのひとりであり、プロデューサーとしての手腕も注目されている。★Daichiさんが手がけられた作品はボーカルものからバンドもの、またアイドルからアニメまで、とてもふり幅の広さを感じていて、また曲を聴いてみてもとても同じ人が作っているとは思えないほどアレンジの多彩さを感じますが、仕事を始められるまでにどのような音楽を聴いてこられたのでしょうか? 基本的にバンドが好きだけど、アイドルものも好きだったり幅広く聴いていました。自分の世代的なこともあると思うんですけど、コンピューターも好きだったのでプログラムして何かを作るのが好きで、音楽はジャンルっていうことよりもこの音楽はどうやってできているんだろうっていう分析的な聴き方をしていたので、色んな音楽に興味を持って聴いていたんです。 ★ギタリストでもキーボーディストでもある印象なのですが、最初はどちらから始めたのでしょうか? 最初はキーボードから、シーケンサーを使って打ち込みを始めて、それからギターをやるようになったんですが、シンセも割と好きなんですよ。ギターものもやっているとシンセものもやりたくなるんです。僕の場合はギターものもシンセものも好きだし、色んなエッセンスをアレンジの中に取り入れるのが好きですね。 ★アレンジを依頼されたら、どのようにでも料理できそうですね。 だから逆に仕事で依頼されても何を求めているのかリサーチが重要なんです。割と自分はブリティッシュなロックが好きなんですけどね。アウトボードの機材についても同じような感じで、CDを聴いてかっこいい音があって、真似してやってみたらできたとか、そういう実験をしてきました。 ★この仕事を始められてから、どのようにキャリアを積んで今のような多くの仕事をされてきたのでしょうか? 仕事を始めた22歳くらいの時には一回り上の方が活躍されていて、キャリア的にも内容でも当然敵わないので、スピードで勝負して仕事をこなしていたら、割と急ぎの仕事の依頼が多くなったんです。 あるグループのライブ用のアレンジでも、夜に打ち合わせして次の日の昼には持って行く、みたいなことをやっていました。時間かけて100%作り上げたものを聞いてもらってNGになった場合に、また一から作ってとなると形になるまでにかなり時間がかかってしまうので、ある程度のものを短い時間で作って、そのリアクションで良ければその後に詰めていったりしています。あとは歌詞なども含めて同時作業が多いので、先に大枠のものを渡しておくと時間的にも少し余裕ができたりして、それからちょっとずつ詰めて作っていったり、自分の拘りたいところは細かく直していったりして、皆が納得いく形に仕上げていくのがいいと思って作業しています。 最近はシンガーソングライターの作品に関わることが多いので、アレンジをするのと、あとはプロデュースになると一緒に曲を作ったり、そういうところから関わったり歌録りまで何でもやっていますね。 ★アレンジだけですと大体どれくらいの曲を手がけられるのでしょうか? 世の中に出ていないものも含めると月に10曲以上やっていますね。それこそ、アーティストものだと、その場でプリプロして曲を作って、そのままアレンジして、ワンコーラスのサイズにするからそうすると一日2~3曲やりますね。リリースされたものでも7~8曲は出ていると思います。 ★最近はJun Sky Walkersとも仕事をされてましたが、復活されてからのお付き合いなのですか? そうですね。元々アマチュアの頃にコピーしていたんですよ。(寺岡)呼人さんとツイッターで知り合って、呼人さんは始めは僕がどんな仕事をしてるかはあまり知らなかったと思うのですが、「機材が詳しい人」という印象だったと思います(笑) 機材の使い方を相談されてスタジオに行ったんです。その流れで「ジュンスカ始めるんだけど手伝って」って話になったんです。なかなか面白い出会いですよね。自分が大好きだったバンドに関われるなんて。昔の自分がよく聞いていた頃の曲を録り直すことをしたんですが、シンセが入っている曲などで関わりました。サウンド感的に新しいイメージで作るっていうので、ベーシックを作ってあるものに重ねるものもあったし、一から作ってみるのもありました。 ★サウンドプロデューサーの仕事について、海外と日本の違いなど感じることはありますか? 海外のプロデューサーってエンジニアの場合が多いですよね。エンジニアが作品の決定権を持っている事はとても理にかなっていると思っていて、最終的なアウトプットをわかる人が現場を仕切るっていうのが一番理想的だなって思うんです。 日本の場合は少し特殊でエンジニアは専門職っていうところがあって、更に一つの作品を作るのに昔ほど時間をかけられなくなってきたから、最終的にどうしたいか方向性を把握しているアレンジャーが収めるというやり方が主流になっているんです。 音に関して言えばエンジニアがプロデューサーとして最後までの流れをある程度把握した状態でやれるのは理想的ですよね。こういう音にしたいといった場合に、楽器や機材を知っていると近づけやすいと思うんです。 ただ最近はスタジオ作業も減った分、アレンジャーとエンジニアのコミュニケーションを取る時間が少ないんです。それだとなかなか全てを伝えきれないと思うんですよね。そこは今後の課題だと思うんです。 でも、これからは日本も海外のような作り方も増えていくと思っています。 ★最近の曲制作について以前と比べて何か変化を感じることはありますか? 最近はチームで音楽を作るような流れも増えてきていて、海外でも一曲に対して作詞、作曲に4~5人クレジットされている場合が多いですよね。一曲に対する情報量やアイデアが今までよりも求められているようになっているので、 チームで意見を出しながら作っていく事で結果的に面白いものが生まれると思うんです。ひとりひとりの個性が上手く融合された曲は聞いていて面白いですよね。 ★そうですね。10年、20年前と比べてもジャンル的にも細分化されて、色んな音楽を選んで聴ける時代になりましたが、少なからずそのような制作スタイルの変化から新しいものが生まれているように感じます。Daichiさんが音楽を発信する立場として理想としていることはありますか? これがいいと思ったものがそのままの形で出てくれるのが一番良いと思っていますが、色んな理由で難しいことが多いので、もっと話し合いながらできるようにすれば、いい状態で作った作品を発表していけるんじゃないかと思っています。 面白いアイデアが採用されてそのままアウトプット出来るような攻めの姿勢も大事だと思っています。 ★活躍する世代が変われば、その世代の考え方に少しは変わってきますよね。 そうですね。良くなっていくように。仕組みも変わっていかなくてはいけないと思います。簡単ではないですけど。 ★これからやってみたいと思うことはありますか? 音楽が細分化されて色んなジャンルの作品がある中で本当に好きなものを探して聴くような時代になって、そこで広く浅いようなものを作っていたらやっぱり聴く人が面白くないし、ロックでもその中でジャンルも細かくあって、作る側もそのくらい偏ったものの方が逆に聴く人がいるのかなと思うこともあって、色々な仕事の中でそういうものもやれたらと思っています。 ★こちらのStudio Cubicについてですが、どのような経緯で作られたのでしょうか? 昔は必ずレコーディングスタジオで作業していましたけど、DAWや機材の進化に伴い自宅で出来る作業が増えて行きました。試しに自宅でレコーディングしてみたら結構評判も良くて、それがそのまま作品になったんです。 それから予算や時間的なことで自宅作業場でのレコーディングが多くなってきたので、レコーディングからミックスまで対応できるスタジオにしようと思って8年程前、今の場所へ引越しを機に防音等の設備を整えました。 ★とても居心地の良いスタジオの雰囲気ですが、アウトボードについてはかなり拘りを感じますね。 元々機材も含めて自分で実験できるところを作ってみたいと思っていたので、他のスタジオにはあまり置いていないような個性的な機材を揃えていきたかったんです。ここでしか作れない作品も作れると思ったので。 昔のようにSSLの卓の使い方や機材周りのことを全て理解していないとレコーディングができないという時代でも無くなって来ましたよね。でも僕自身はエンジニア上がりではないし、スタジオの機材を長い時間かけてじっくり試して育った世代でもないので、機材は自分で買って使ってみないと分からないなと思って、勉強という意味でも機材を揃え始めました。 ★Studio Cubicのホームページを見た時に「ここでしか作れない」という拘りが伝わってきました。 外のスタジオだとなかなか試せる時間もないし、実験自体が難しいじゃないですか。お金もかかるし。自宅スタジオのメリットって心置きなく、時間も気にせず何回も試せるという所だと思うんです。 ★Daichiさんはエンジニアリングもされていますよね。 そうですね。自宅スタジオでの録り作業は自分で行う事が多いです。ミックスの場合、自分の思い描いたサウンド感を表現するなら自分でやるのが一番ですからね。当然スキルは必要ですので日々勉強ですが、全ての仕事でやっているわけではありません。 音楽性や方向性によって、エンジニアさんにお願いする事も多いですし、1つだけのやり方だとサウンドの幅も狭くなってしまいます。自分でミックスまでやる仕事は全体の2~3割位ですよ。ひとりで完結する良さもありますが、色々な人の意見や感性が入った良さもありますし、個人的にもどっちの作業も好きなんです。
Studio Cubic 導入機材リスト(※アンブレラカンパニー輸入ブランド) CHANDLER LIMITED TG1 CHANDLER LIMITED TG2 EMI EDITION CHANDLER LIMITED TG Channel mk2 (x2) CHANDLER LIMITED TG12345 Curve bender CHANDLER LIMITED TG12413 Zener Limiter CHANDLER LIMITED Germanium Preamp (x2) CHANDLER LIMITED Germanium Tone Control(x2) CHANDLER LIMITED Germanium Compressor (x2) CHANDLER LIMITED Little Devil Compressor (x2) Empirical Labs Distressor EL-8 (x2) Empirical Labs Distressor EL-8X (x2) Empirical Labs Lil FrEQ (x2) Vintech Audio X73 (x2) Vintech Audio DUAL72★まずChandler Limitedからお伺いしたいのですが、Daichiさんご自身がブリテッシュロックのファンだったということで、アビィロードスタジオのEMI TGコンソールのレプリカを作っていたChandler Limitedに興味を持っていただいたのでしょうか? そうですね。見た目も格好良くて好きだったんですよ。揃え始めた頃はまだ新しいブランドだったので、スタジオにもあまり入っていなかったですね。最初購入したのがTG2だったんですけど、ギターアンプを録る時に使ってみて良いなと思っていて、NEVEとAPIの間くらいのカラッとした音なんだけど、ちゃんと太さもスピード感もあって使いやすかったですね。それから少しずつChandler製品を増やしていきました。 ギターアンプ以外ではドラムのルームなどにTG2を使っていますね。TG Channel mk2はEQも付いているので、MIXの時に2台使ってドラムの2MIXとかに通して使っています。録りでもEQを掛けて録ったりしています。 ★導入していただいた全てのマイクプリ、EQ、コンプレッサーは全て2chで揃えていただいてますよね。 そうですね。ステレオで使いたくなったらどうしようって不安になって(笑)、揃えておかないとと思いました。 ★TGシリーズでは他にCurve BenderやZener Limiterもお使いいただいてますが、これは主にどのような使い方をされていますか? MIXでトータルに使ったりしていますし、録りでも使っています。この辺りは万能ですよね。Curve Benderはマスタリングスタジオにも入っているし。 ★モノの素材にも使われますか? 使いますよ。キックとかスネアとかに使います。Zener Limiterはドラムの録りでルームに使ったりするんですけど、下のスタジオ(プリプロ、ドラム、ギターアンプ録りなどで使用)にあるTG1って豪快で独特な掛かり具合がいいですよね。Zener Limiterでも設定でTG1のような感じにはできますけど、TG1はもう通すだけでも豪快な音になっちゃう。 TG1はデモの段階でも打ち込みでFXpansion BFDなどのオーバーヘッドやルームとかに使うと相当生っぽく感じます。この使い方はプラグインのコンプでも試しましたけど、TG1でしかあの感じにはできないんです。もちろん生のドラムでも同じ印象です。Zener Limiterは割と万能ですよね。 倍音足すだけのTHDモード(BYPASS時、ラインアンプ通過)もあるじゃないですか。それもシンセとかをただ通して戻して使うようなこともあります。 ★Curve BenderはTG Channel mk2と比較するとどんな印象でしょうか? Curve Benderは上品な印象ですね。TG Channel mk2はロックな感じですよね。もしかしたら、マイクプリだしHAとの兼ね合いもあるのかもしれないですけど。個人的に好きな機材を集めているんですけど、Chandlerの製品はミュージシャンよりですよね。 ★API 500シリーズのLittle Devil Compressorはどんな使い方をされていますか? 割とナチュラルに掛ける使い方をしています。設定もそんなに細かくないから、質感を足すような感じで使っています。LA-2Aとかそんなイメージで使っています。ベースとかキックにも合いますし。サイドチェインも付いているから、使いやすいです。 ★Germaniumシリーズも2chずつ揃えていただいていますね。ありがとうございます!これはまた音楽的で、良い意味で再現性のない個性的な製品ですよね。 Germaniumシリーズは個性的ですよね。これは取りあえずいじってみる、みたいな感覚がありますね(笑)このGermaniumシリーズはGainとFeedbackで音作りがある程度できてしまうので、音作りのバリエーションがすごい広いというのと、コンプレッサーもベースとかに通すと厚みや粘りが出ていいですよね。 ★Germanium CompressorにはComp Curveなどの個性的な機能などがありますが、Daichiさんはどのようにお使いでしょうか? その曲に合うように色々変えてみますが、バリエーションになるから面白いですよね。あと、Dry/Wetの設定ができるので便利です。最近他の機材でもこの機能が付いてるのも多くなってきたけど、Germanium Compressorが僕にとっては初めてでした。凄い便利だと思いましたね。割と録りの時には掛けて録ったりしていますね。 ★これだけの機材があるということは、録りの段階でかなりハードウェアで音作りをされるのでしょうか? そうですね。割と録りで積極的に音作りする場合が多いですね。もちろんミックスの時にも使いますが、一度録った音に通してまた取り込んでということもします。 特にGermanium Compressorは特殊で、掛かり方も含めて今までのコンプレッサーと違うじゃないですか。大体この辺りをいじったらこれだけ変わるっているイメージができないところの「偶然性のある面白さ」がいいですよね。プラグインは視覚的に細かく音作りができるものも多いけど、Germanium Compressorは耳だけで確かめてっていうのが面白いですよね。そこがGermaniumシリーズの魅力だと思いますね。 ★確かに音楽的という部分は音楽を作る上でとても重要なことだと思います。Wade Goekeの製品コンセプトをよく理解していただいた上でお使いいただいてますね。続いて、Germanium Preについてはいかがでしょうか? LINE入力でパッド系のシンセに使うと凄い厚みが増すというか、広がりも出るし結構凄い効果があります。シンセとかに通すと面白いですね。かなり前に出てきます。Line6 PODなどのギターアンプシミュレーターからGermanium Preに突っ込んでも相当変わりますからね。色付けは結構濃い感じにできます。一度通した音を聞いてしまうともう戻れませんよ(笑 Thickモードも時々使います。アコギにもいいですよね。 ドラムではスネアと相性が良いです。 Germaniumシリーズは、作れる音のふり幅がギターのエフェクターに近いというか、劇的に変えることもできるし。コントロールに慣れは必要ですが、使いこなせるようになれば多彩な音が作れて便利です。 ★このような機材は他に無いので、1台でも持っておくと使い道は色々ありそうですよね。 シンプルにいい音で録れるような機材はビンテージもので沢山あるし、その定番機材を超えるのはなかなか難しいですけど、Germaniumシリーズのように新しいコンセプトでこれにしか出せないような、攻めている感じのものは面白いと思いますね。 ★Germanium Tone Controlも低域はパッシブEQで中高域はアクティブEQと、かなり個性的なEQだと思いますが、これはどんな使い方をされていますか? ベース等にGermanium Compressorとセットで使っています。いい具合に太くなるし、質感が足されるのが大きいですよね。補正とか微調整は幾らでもプラグインでできるけど、質感とか音の変化が欲しい場合にこういうものを使うのがポイントなのかな、と思っています。 ★アウトボードもかなりお持ちですが、プラグインのコンプやEQも普段から積極的使いながら、ハードウェアも使われるのでしょうか? そうですね、プラグインも結構使っています。 ★それは利便性を重視して、それともその音を求めて使うのでしょうか? プラグインはリコールできる利便性は大きいですよね。細かい微調整はプラグインの方ができますし。でもプラグインとハードウェアとの一番の違いは音ですね。前に出てくる感じとか音の太さだったりとか。ハードウェアを通している素材は音の居場所が違う印象なんですが、不思議ですよね。MIXをしていても、もうちょっとベースを出したい場合にボリュームを上げるのではなくて、イーブンのボリュームになるようにして。例えばGermanium Compressorを通すだけでも、メーターでは同じ振れ方でもちゃんと音が前に出てくるんです。それで解決みたいな(笑)それがハードウェアの魅力かと思いますね。 ★それは逆にプラグインでは再現できないですか? そうですね、色々なことをやればハードウェアに近づけることはできるのかもしれないけど、プラグインだと天井が決まっていると思うんです。ハードウェアの場合は何も考えずに通すとそれができちゃうんですよね。 ★ハードウェアの魅力って、回路を通すだけで効果が得られる安心感ですよね。 そうですね。機材のことが分からない人でもプラグインとハードウェアの音の違いに気がつくほど分かりやすい差があるんですよね。聴き比べてもらうと「理由はよく分からないけど(ハードウェアの方が)良い」って言うんです。 ★なるほど。それにしても、Daichiさんはソフトとハードの良さを理解して上手く使いこなされていますね。 元々デジタルが大好きだったんですよ。一時期はPCとソフト音源だけで作っていたこともあったんです。ベースとかギターを録るときだけVintech Audio DUAL72とAMEK 9098DMAを使っていました。10年ちょっと前の頃ですね。割とあまのじゃくなところがあって、その頃はまだレコーディングスタジオでしかできない作業も沢山あって、PCの中でどこまでできるのか追求することに拘ってやっていました。当時からPCの事も詳しかったのでよく使っていたんですけど、スタジオを作って、ドラムを録れるようにしたことで、Digidesign Preを買ってから少しずつハードウェアが増えていったんですが、ちょっとずつ増やして行く度にあからさまに音が良くなっていったんです(笑) それで、録りものはアウトボードがあると全然違うなと思うようになってから少しずつ増えていって、録りだけではなくMIXでも使うようになったんですが、自分は元々エンジニア出身ではないし、スタジオで機材に触れる機会も少なかったんです。 でもまずは本物を自分で触ってみないと、と思ってまずは良く使われる機材は実際に買って使ってみようと思ったんです。 プラグインで出ているエミュレーションものも、本物は実際にどうなんだろうと。でもそうして実機を触るようになって、プラグインの使い方も変わってきて、やっぱり本物の音を知っているとプラグインでどう違いがあるのかとか、 例えばプラグインで補えないものをプラスアルファするとそれに近くなるということもできるようになったんです。これは本物の音を知らないと気がつかないしなかなか対処しにくい事だと思います。 元々シーケンサーで打ち込んでミキサーでハードウェアのシンセも使って、みたいなことをしていたんです。PCだけで楽器もできるし、自分はハードウェアのシンセを使っていたちょうど中間の世代だと思うんです。 ★その頃からそれぞれのメリットを理解して使い分けていたんですね。 でも、本当によく体感して知識があるエンジニアの方は、さっきも話したようにプラグインでも足りない部分を補えるんですけど、逆にプラグインの音しか知らない人ほど、ハードウェアを使ってみることで音に説得力が出るからあまり悩まずに解決すると思うんですよね。 ★それだけ分かりやすい効果があるんですね。 知り合いも同じようなことを言っているんですけど、マイクプリアンプとか単体のハードウェアを実際に使ってみることで、耳も良くなると思うんです。オーディオインターフェースについているマイクプリでも録ることはできるんですけど、やっぱりちゃんとした単体のマイクプリで録ってみると違いが出てくるんです。 周りの知り合いにも実機とプラグインの素材を聴かせるとみんな違いにびっくりするんです。だからハードウェアの良さは大事にしたいですね。手軽に色んなことができる分、何年か経った後でも作品をいいなと思えるようにするために、そういうところにも拘っていきたいと思います。手間は多少掛かっても、色々やって作ったっていう思い出にも残るじゃないですか。作り手側のそういう思い入れも大事だと思うんですよね。 ★販売する側としても、そのようにハードウェアに拘りを持って使い続けていただけると、とても嬉しいです。 今の音楽制作のスタイルって昔よりも時間がかけられなくなってきて、ゆっくり試しながらやりましょうという風潮ではないので(笑)、そういう風にやっていることを気づかれないように制作することがポイントだと思うんですよ。勿論それは自己責任でやっているので、例えばトータルリコールをする場合でも、ハードウェアを使っているからリコールできないっているのは理由にならなくて、戻せるような形でシステムを組んでやらないとなかなか難しいんです。 ★因みにハードウェアのリコールを取る時はどのようにされているのですか? リコールの仕方はアナログ的ですよ。デジカメでツマミの位置を撮って、WifiでDrop Boxのプロジェクトファイルに入れておきます。あとは凄く便利なアプリケーションがあるんですよ。アウトボードのリコールシートみたいなものがあって、それも便利です。あとは、ハードウェアインサートしたものを取り込んでおく場合もあります。 ★続いて、Empirical Labs Distressor EL-8X、EL-8はどんな使い方をされていますか? Distressorはもう定番だし何でも使えますね。見た目と機能はデジタルっぽいけど、音は完全にアナログなのがいいですね。スネアに通した時の前に出てくる感じが独特で、安心できる音です。Urei 1176に近い安心感ですね。例えば倍音を足せるので、音作りの幅も広がるし音決めがしやすいですね。ボーカルにも使っています。1176も作られた時代による質感の違いで揃えていますが、Distressorも同じように質感の違いで使い分けたりしています。 ★LilFrEQについてはどんな使い方をされていますか? LilFrEQは特に補正をしたい場合に便利ですね。EQからの流れが使いやすいですし。これはディエッサーの機能が結構便利なんですよね。スネアのマイクにハットのかぶりが入るときにピンポイントで抑えられます。意外とプラグインのディエッサーのかかり具合に満足していないエンジニアさんも多いんですよね。 ★ディエッサーは特にボーカルなどのメインの素材で使う場合には本当に重要な機能だと思いますが、LilFrEQはそこにしっかり着目して作った製品ですよね。 そうですね。気が利いている感じの製品ですね。使いやすいです。ディエッサーもdBxなどと比べても効きが違うんです。LilFrEQのEQとディエッサーの機能を組み合わせた製品はなかなかないですから、とても便利です。 ★続いてVintech Audioについてお伺いします。オリジナルのNEVEからレプリカものまで多くのNEVEタイプのマイクプリをお持ちですが、その中でVintech Audio X73、DUAL72についてはどのようなイメージを持ってお使いいただいているのでしょうか。 オリジナルのNEVEは経年による枯れた音というか味みたいなのがありますけど、X73は新品のNEVEはこんな音がしてたのかなというイメージですね。枯れ具合とか太さを求めるなら本物のNEVEがいいと思うんですけど、やっぱり今の時代だとちょっとミスマッチな部分もあると思うので、そういう時にX73はNEVEの質感や太さもあって綺麗に録れるような感じなので、使いやすいですね。 X73はボーカル録りにも使いますし、ドラムにも使います。ドラム録りにはNEVE系のHAを使って録っていて、X73はスネアによく使っています。DUAL72はベース録りに使っています。 エンジニアの方でもとりあえずX73をボーカル録りに使う人を良く見かけますので、Vintech Audioはもう定番というか無難に使える位置にきていますよね。昔だったらAMEK 9098DMA、9098EQ辺りが無難だったと思うんですけど、今聴くと9098はクリアだけど少し音が細く感じるんですよね。 ★今日お話をお伺いして、改めてDaichiさんは制作から音作りまでの対応力がもの凄いと思いました。 若い頃は器用貧乏ってよく言われていたんです。で、器用貧乏も度を越えると凄いでしょ!ところを目指しています(笑)当時はもう何でもやろうと思っていました。実際に色んな音楽が好きなので、幅広くやれていますね。自分を前面には出さずにアーティストの世界観をちゃんと広げてあげる、こっちのバンドでやっているのと、こっちのアーティストでやっている音楽が全く違うように、同じ人がやっていると思われない方が僕は嬉しいです。 ★それは曲を聴いていて凄く感じていました。でもそれは偏らず幅広い音楽を聴いてきたからこそできていることなんですね。 そうだと思います。ここでやっている作業のスタイルなどを含めて自分の個性だと思うんです。一緒にこのスタジオで作品を完成させた時に、フレキシブルにできることでみんながやりやすいと思ってくれるので、ニーズが自分の個性と合っているというか。だから色んなことをやれているんだと思います。 ★今日は長い時間お話をしていただきまして、ありがとうございました。