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今回のインタビューでは、音響業界で長年の経験を持つSplash Sound Studioのオーナー兼チーフ・エンジニアである株式会社レディファインの代表 淺野浩伸さんに、GRACE design製品との出会いや、それに伴うスタジオの進化、そしてm908の導入についてお話を伺いました。GRACE designのモニターコントローラーがどのようにして作業環境を変えたのか、そして新たに作られたSplash Audio Suiteでのm908の使い心地や作業効率の向上などについて詳しく語っていただきました。
淺野 浩伸
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スタジオジャイブ、サウンドスカイスタジオを経て、1994年 株式会社レディファインを立ち上げ。レコーディングエンジニアとして、ノンジャンル、マルチフォーマットでの活躍を続ける中、2010年末には恵比寿を拠点にSplashSoundStudioを開業、コンパクトながら響きを重視したブースと多機能を有するスタジオとして好評を得ている。
エンジニアとしては近年、配信&Blu-ray音源への注力が目立ち、サラウンドMix、イマーシブMixへも意欲的に取り組んでいる。
株式会社レディファイン:https://www.redefine.co.jp/suite/
GRACE design製品との出会いは、2000年代前半にワークルーム用の5.1対応のモニターコントローラーを探していたときに、株式会社エスアンドアールの栗城さんからGRACE design m906(5.1対応サラウンドモニターコントローラー、販売終了)を紹介してもらったのがきっかけです。
他のモニターコントローラーとも比較しましたが、m906は非常に気持ちの良い音で、高域まで音がダイレクトに聴こえることに衝撃を受けました。すぐに採用を決め、ワークルームでm906を使うのであれば、自宅のモニターコントローラーもGRACE designで揃えようと、m903(DAC内蔵ヘッドホンアンプ、ステレオモニターコントローラー、販売終了)を導入しました。因みに、現在事務所で使用中のProtools用のモニターコントローラーもm900です。
2010年に3リズム+αのレコーディングが行えるPro ToolsスタジオとしてSplash Sound Studioの営業を開始したのですが、引き続きm906を使いながらレコーディングやミックスを行っていました。
アナログEQなどを使って音決めをしやすく、アシスタントエンジニアと連携しながら快適にオペレーションができるように、2018年にAMS NEVEのコンソール「Genesys Black G32」を導入しました。このコンソールには、現行の1073のHAが16チャンネル分、88RコンソールのEQが実装されたチャンネルモジュールが搭載されていて、5.1のモニターコントローラーも装備されています。デジタル制御のアナログコンソールでリコールにも対応することで、Pro Toolsとの連携が取りやすくなり、作業が効率的に進められるようになりました。
それまでクリアさや解像度の高さが気に入っていたm906からコンソールのモニターコントローラーに切り替わったことで、モニターの音も変わりましたが、自分がもともとNEVE V3コンソールのスタジオ出身だったので、当時のコンソールでモニターしているような音に感じて、懐かしい感覚が蘇ってきました。
その後も、コンソールなどに何か問題が起きた時にm906に切り替えられるように待機させていましたが、一度ミックス作業でコンソールを使わずにm906を使わなければならないことがあって、その際にGRACE designのモニターコントローラーの音の良さを再確認できました。
Apple MusicがDolby Atmosに対応したことやAVID Pro ToolsがDolby Atmos Rendererを内蔵したことをきっかけに、Dolby Atmosの規格に合わせた7.1.4のミックスが行えて、またSplash Sound Studioと同等のレコーディングのクォリティを保ちつつ、コンパクトなバジェットに対応した歌入れや楽器のダビングも行えるスタジオを同じフロアに新たに併設することにしました。
常設のスピーカーでDolby Atmosに対応した7.1.4や5.1、ステレオの3つの作業を行うことを想定して、他社製品も含めてモニターコントローラーを調査しました。スタジオに初めて来られるエンジニアの方でも、直感的に使えるコントローラーの使いやすさはもちろん、AESベースの入力系統が備わっていることや、どのデジタル入力系統でも同じDAを使用することで、音質の統一感が得られることを条件としていました。
m906を長年使用して信頼していることもあり、m908の柔軟性と使い勝手の良さが気に入りましたが、特に「操作系も音の経路も変更することなく、同じ条件で3つのサウンドフォーマットを切り替えられる」という希望を満たすことができたので、m908の採用を決めました。
ステレオ、5.1、7.1.4の3系統は、AVID MTRXからAES経由で入力しています。また、Wi-Fi接続したiPhoneなどの試聴ができるように、AirMac Expressから光デジタル(ステレオ)で入力しています。さらに、外部のエンジニアが持ち込んだMacをUSBでm908に接続し、最大でDolby Atmosのミックスにまで対応できるようにしています。
直感的に扱えますね。例えばSOLOやMUTEの機能も、緑と赤のスイッチの色で確認できるので、視覚的に分かりやすいです。基本的な機能はすべてパネル上にスイッチが配置されていて、通常のオペレーションにおいてわからない機能はほとんどありません。現在アクティブなモニターシステムや、どのチャンネルに信号が入力されているかも、RCUの画面で視覚的に確認できます。この機能はm906にはなかったもので、とても分かりやすいです。
エンジニアがストレスなく作業を進めるために、m908のモニターコントローラーは非常に理想的な選択肢だと思います。このパネルを見て基本的な使い方を教えてほしいと尋ねる人がいないほど、シンプルで使いやすいですね。
m906よりさらに高精細になった印象です。m906で使っていたシステムで聴いた印象よりも、m908を使ったモニタリングの方が、音がより見えやすくなりました。もちろん、スタジオのモニタースピーカーの配置がより精密になった分、相乗効果でモニター環境が向上したとも感じます。
導入当初は使用を想定していなかったのですが、USB接続で24チャンネルのマルチチャンネル入力が可能であることが非常に便利に感じています。Dolby Atmosのミックス作業でも、外部のエンジニアの方が持ち込んだMacBookをUSBで接続するだけで作業が行えるので、m908を導入して良かったと改めて感じました。
スタジオの機材も定番のものを揃え、接続なども奇抜なことはせず、初めて来るエンジニアの方でもすぐに快適に使用できるスタジオにしたいと思っていたので、その目標がより実現されたと感じています。
GENELECのスピーカーは長年愛用しており、SplashSoundStudioでも使用しています。スタジオモニターという性格上、何処でも同じ音が実現できるのが利点ですので(GLM制御による)、様々なスタジオの仕様に実現が左右されるAES入力ではなく、敢えてアナログ入力で使用しています。m906でもm903でも、Pro Toolsの信号をAESで入力し、アナログでGENELECに接続して使用していました。GRACE designのD/Aコンバーターを信頼しているので、今回も同様にMTRXからAESでm908に接続し、DA変換を行いたいと考えました。
もしm908がなかったとしたら、接続系統まで理想とするシステムを満たしてくれるモニターコントローラーは他にないので、Splash Audio Suiteは作れませんでした。完成してみて、目論見通りにSplash Sound Studioの上位互換になったと思っています。
協力:株式会社エスアンドアール
GRACE design m908製品ページ:https://umbrella-company.jp/gracedesign-m908.html
淺野さんとスタジオマネージャーの半田実穂さん