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ペダルタイプのアコースティック楽器用プリアンプである、GRACE Design BiX。
これを活用する上で、こんな質問がありました。
BiXをプリアンプとして導入しようと思うが、持っているエレアコには既にプリアンプ?が内蔵されている。そこにBiXを繋ぐと二重にプリアンプが通ることになるけど大丈夫?BiXを導入するならエレアコに内蔵されたプリアンプは外すべき?
そう言われると確かに考え込んでしまいますが、それぞれのプリアンプの役割の違いを理解できれば、答えは見えてきます。結論を言うと、エレアコ内蔵プリアンプとプリアンプペダルは役割が異なるため、これらの同時使用は全く問題ありません。十分なメリットが得られる使用方法といえます。
そう、異なる役割を持つのに、「我こそがプリアンプである!」と色んなものが同様に名付けられたことが、話をややこしくしているのです。ならば現在の我々が正しく認識する必要があります。使用目的や用途を正しく理解し、これらのプリアンプたちを有用に使いましょう。
現代で「プリアンプ」と呼ばれるものは色々あって、混同しがちです。このコンテンツにおいての説明を円滑にするために、「〇〇プリアンプ」と独断で分類していきます。一般的な呼び方もありますが、基本的にはこのコンテンツだけで通じる分類・呼称です。
①プレーンなプリアンプ②オンボードプリアンプ
アクティブギターやアクティブベースに搭載されたプリアンプ。筐体を持たず基板だけの形態を取るものが多いので、オンボードプリアンプと呼ぶことにします。バッファー的なもの、ミッド/トレブルブースト、さらにEQ付きだったり、多種多様。これらをひっくるめてアクティブサーキットとも呼ばれます。
③アクティブPU
アクティブPUには音量や音色の補正に用いられるプリアンプが内蔵されています。基本的にコントロール系はなく、プリアンプの存在も特段感じられません。分類は回路というよりPU、これらはアクティブPUと呼ぶことに。
⑤プリアンプペダル
ペダルにもプリアンプはある。多数のノブを有し、ギターアンプと同様に細かく音色を追い込める物もあれば、単にシグナルの増幅だけを行うタイプもある。これはプリアンプペダルとしておきましょう。
⑥アコースティック楽器用プリアンプペダル
プリアンプペダルの中でも、アコースティック楽器に特化した機器をアコースティック楽器用プリアンプと分類します。冒頭のGRACE Design BiXはこれ。専用設計された機器ではラインレベルまで増幅し、トーンを調整、バランス出力できるものもあります。高品位な増幅と安定したシグナル伝送を実現し、楽器とPA/レコーディング機器の間を取り持つ機器といっても良いでしょう。
⑦マイクプリアンプ/ヘッドアンプ(HA)
レコーディング機器ではマイク用のプリアンプが存在しています。微弱なマイクレベルの信号を、ラインレベルまで増幅する電圧増幅が主な役割です。ミキサーやオーディオインターフェイスに搭載されていたり、それを主な機能とする単体のアウトボード機器も多種あります。これはマイクプリアンプ、ヘッドアンプ、HAなどと呼ぶのが一般的。色んなメーカーが各々のコンセプトにおいて設計・製造しているため、種類が多くどれも個性があり面白い。
⑧インピーダンス変換アンプ
コンデンサマイクにもプリアンプが搭載されており、主にインピーダンス変換としての役割となる。いわゆるバッファーアンプです。基本的に増幅度は持っていないので、前述したマイクプリアンプが必要です。ダイヤフラムから音声信号を取り出すためのアンプ、その役割からインピーダンス変換アンプと呼ぶ事にしておきます。
⑨インラインプリアンプ
ダイナミックマイクとマイクプリアンプの間に設置するプリアンプ。直接マイクに取り付けたり様々。伝送ラインの一部のように考えられるのでインラインプリアンプと呼ばれることも。コンデンサマイクのインピーダンス変換アンプと、マイクプリアンプとしての役割を半々で受け持つようなアイテムです。
⑩プリメインアンプ
ハイエンドオーディオの世界では、プリアンプは入力切り替えや音量調整を行うセクション、またはそれの単体機を指します。パワーアンプと一体となったプリメインアンプとして存在することも多いので、識別のためにハイエンドオーディオでのプリアンプについてはプリメインアンプと呼ぶ事にしておきます。
⑪その他のプリアンプ
他には、電波を受信する無線機器やセンサーを伴う家電や医療機器、さらには宇宙観測機器など、信号を増幅する用途があればプリアンプと名が付く回路や物が存在します。
このようにプリアンプの名を冠する回路や機器は非常に多く、楽器やオーディオに限っても、多様なプリアンプが乱立しています。用途が異なるため、複数のプリアンプを同時に使うシチュエーションももちろんあります。良い音が出れば良いという考え方もありますが、理想の音に早くたどり着ける基本的な考え方をシェアしますので参考にしてみてください。
トランジスタやIC、真空管といった増幅を行う能動素子は、副産物として残留ノイズと呼ばれるホワイトノイズを付加してしまいます。能動素子で増幅するのであればこのノイズは避けられないため、シグナルとノイズの比率(S/N比)を最大限に有効に使うことがベストです。
マイクやPUを音の源流とすると、源流に近いところは上流、音を出力するスピーカ―は下流となります。マイク信号のような微弱な信号は大きな増幅を必要とし、可能な限り源流に近いポジションで増幅するのが理想的です。上流で適切な増幅ができていれば、下流側での音量の上げ下げでノイズも一緒に上下します。つまりシグナルとノイズは一定のレベル差をキープしたままとなり、これこそがS/N比が一定に保たれるということです。S/N比は最初の増幅、最初のアンプ回路で決まるといっても過言ではなく、そのためプリアンプの仕事が重要なのです。
例えばミキサー卓のシグナルレベルの扱い方を見ると、まず入力された信号はプリアンプステージでラインレベルまで増幅されます。その後はEQで音色調整を施し、音量レベル、パンニングの定位を決めてミックス。そしてマスターボリュームで出力レベルを決め、ライン出力します。ミキサーで最も上流に位置するのはプリアンプ、ここで十分にシグナルを増幅しておけば、以降の回路での調整は音量を下げる方向での操作で済むので、S/N比を悪化させる事はありません。
プリアンプでの増幅が十分でないとシグナルのレベルが小さくなり、辻褄を合わせるため追加の増幅を下流のどこかで行わないといけません。中途半端に増幅されたシグナルは中途半端に付加されたノイズを含みます。下流での増幅はこのノイズも含めて増幅してしまうため、S/N比を悪化させてしまいます。
これが顕著に現れるのは、微弱なマイク信号を扱うシチュエーション。楽器の信号はマイク信号と比較すると大きいので、そこまでシビアになる必要はありませんが、これを理解して機器を操作できるほうが音質にとってプラスになるはずです。
楽器の出力信号は、それを受け取る機器の入力インピーダンスと正しく適合していることが重要です。インピーダンスが適切でないと、レベルの低下や音質劣化を引き起こします。例えばエレアコをライブのステージで使うなら、PAミキサーにエレアコの信号を送る事になりますが、これらを直接つなぐことはできません。レベルだけ見たらミキサーのプリアンプで十分に対応可能ですが、入力インピーダンスが適切ではないのです。そのため、DI(Direct Injection)BOXやエレアコ専用プリアンプが必要になります。
アクティブPUにもプリアンプは入っていますが、実は出力インピーダンスはそれほど低くなく、パッシブPUと比べれば低いという程度。というのも多くは乾電池を使用した駆動なので、電池の寿命も考慮した省エネ設計となっています。なので出力電流も最小限に抑えるために出力インピーダンスをあえて高めに設定していると考えられます。これに関してもミキサーに送る場合はDIが必要です。
エレアコのピエゾPUやコンデンサマイクのダイヤフラムは、非常に高いインピーダンスで受けてあげないと上手く動作してくれません。ピエゾPUは1MΩ(メガオーム)~10MΩ といったところが推奨され、コンデンサマイクはそれよりもはるかに高いGΩ(ギガオーム)クラスの設計が必要。これをそのまま引き回す事はノイズに対して無防備すぎるため、インピーダンス変換のためのバッファー回路を内蔵することが一般的。特にコンデンサマイクでは必須です。ビルトインプリアンプやインピーダンス変換アンプの目的は、伝送の際の音質劣化を防ぐ信号形態にすること。そのためポジションについても、源流での使用が大きな意味を持っています。
ギターアンプのプリアンプやプリアンプペダルにおいては、カッコいい音が出る使い方が正解で良いと思います。歪ませるためのゲインアップはノイズだって覚悟の上。トーンスタック回路を備えたプリアンプペダルを通し、トーンスタック回路があるプリアンプにブチ込んだって良い。カッコいい音が出たのであれば、どんな使い方も正解です。
長くなりましたが冒頭の質問に戻りましょう。冒頭でも書きましたが、エレアコ内蔵プリアンプとBiX(ペダル型プリアンプ)の同時使用は問題なく、実用的なメリットがある使用方法と言えます。
楽器に内蔵するオンボードプリアンプの多くは、電源に9Vの乾電池を使用します。9Vという限られた電源電圧範囲内での動作、また稼働時間にも気を使い設計する必要があり、やはりどこかを妥協せざるを得ません。これらの条件から大きくゲインを稼ぐ使い方には不向きと言えますので、インピーダンスが高いピエゾPUの信号を伝送に強い状態にするための、バッファーとしての役割をメインに設計されている物が多いと思います。
一方BiXのような専用設計のプリアンプペダルでは、電源は内部で昇圧していたり、高品位パーツを使ったりと、魂を込めた設計のプリアンプ回路。ゲインを稼ぐ事に特化し、きめ細かいサウンドメイクやフィードバック対策、PA機器との橋渡しとしての仕事をこなします。
・ピエゾPUの出力をバッファーして出力するオンボードプリアンプ
・ラインレベルまでの増幅とサウンドメイク、そしてPA機器へ送るためのバランス出力を作るBiX
このように仕事内容がそれぞれ異なるので、一緒に使うことで音質向上を狙うことができます。なので内蔵プリアンプはわざわざ外す必要はありません。そのまま使ってみてください。EQの設定だけは一度フラットにしてお試しいただく事をお薦めします。
★Grace Design BiXについて詳しくはこちら!
https://umbrella-company.jp/products/bix/