Powered by

クリエイティブな音楽機材の
メディアサイト

アイキャッチ画像
アイキャッチ画像
アイキャッチ画像
アイキャッチ画像
Interview column インタビュー&コラム

Grace design "m905" Eben&Michael Grace 「日本独占インタビュー」

真のモニターコントローラーとしての価値を徹底的に追及したGRACE design m905について開発責任者であるEben & Michael Graceの両氏にお伺いしました。 カタログスペックにはないディープな開発ストーリーや回路やパーツの詳細、なんとDSDネイティブ再生の新情報まで(!)、徹底的にm905モニターコントローラーを解剖解説していただきました!

-Q01) お話できて光栄です。

回答者=Eben Grace: 日本の皆様こんにちは。私たちGRACE designは日本の方々の長年にわたるサポートにいつも感謝しております。日本のマーケットで私たちの製品をご利用いただけることは、私たちの誇りでもあります。

-Q02) GRACE design 製品が、他のメーカーと比較して明らかに違う点はどのようなところでしょう。どんなコンセプトで製品開発を行っていますか?

回答者=Eben Grace: すでに多くの人たちが気づいているように、プロオーディオ市場は現在とても成熟していて(お客様から見て)とても良い状態にあるのではないか思います。たくさんのメーカーが本当に革新的で芸術的な製品を開発しようと日夜奮闘しています。私たちがこのような活気あるコミュニティの一部でいられることは、たいへん心強いことです。

GRACE desigtnの製品が明らかに他と違う点は、プロ業界で活躍するオーディオ・プロフェッショナル達が本物の価値を感じられる「オーディオ・グレード」というものを徹底的に追及している点ではないでしょうか。

私たちの製品開発のゴールは、いつでも芸術的な「パフォーマンス」を正確に、芸術性を一切失うことなしに伝えられる機器を設計することです。音楽を正確に伝えるために余計な色付けは一切排除し、ピュアな音だけを追求しています。私たちは全ての音楽の美しさというものは、そのパフォーマンスに由来すると考えています。つまりそれらをキャプチャーしたり再生するための機材は、そこに存在している「芸術的な美しさ」というものを、パーフェクトで揺るぎない「忠実性」を持って伝えるべきだと考えているのです。

多くのメーカーではその音に歪みやコンプレッションを加えることで、サウンドをエンハンスしたり、新たなトーンを表現する手法を取っていますが、私たちGRACE designでは本来の音楽が持っている「正直な表現」だけを求めて製品開発を続けているのです。

またGRACE designの製品を使用することで、全てがストレートで直観的になると信じています。私たちの製品と、それを使うユーザーとのエルゴノミック(人間の身体や動作にとって最適な操作が可能であるようにデザインされた)な関係は、常にシンプルで満足度の高いものであるべきです。

最後にGRACE designの製品は決して時代遅れなものにならないよう心がけてデザインされています。一生をかけて使っていただける製品であり、GRACE designの製品が現在のユーザーの子供たちにまで受け継がれることを私たちはいつも願っているのです!

-Q03)  モニタリングコントローラー m905は現在の市場においてどんな点が特別でしょうか?

回答者=Eben Grace: m905は市場において「最も進化したモニターコントローラー」だと言えると思います。私たちはm904/m906モニターコントローラーを10年にわたり販売してまいりました。そしてこの10年間の間、私たちは常に次期モデル、つまりm905の開発を続けてきたのです。ユーザーの求めているデザインや、さらに良くしていける事について十分な時間を費やすことができました。全てのm905の機能やサウンドはとても長い時間をかけて考え抜かれ、磨き上げられたものです。プロオーディオ業界自体の進化、ユーザーの求めている使い勝手や機能や音質、そしていかに私たち自身のデザインをより良いものにしていけるのか、それらを長い時間をかけて完璧なものへと仕上げていったのです。m905は高品位なスタジオモニタリングにおいて、真の価値のある進化を遂げたと信じています。

-Q04) m905は旧モデルによるm904とどこが違いますか?

回答者=Eben Grace: まず最初に言いたい大切なことは、m904はいまだに素晴らしいパフォーマンスを持っているということです。製品に対するサポートも万全です。この先もm904は第一線で活躍し続けることができます。そして私たちはm905でそれ以上のものを作り上げたということなのです。

m905での大きな進化については沢山の書くべきことがあります。m905は全くの新しい設計になっており、ベストな機能と最新のアナログ&デジタル技術を駆使したデザインになっています。

もしハイレゾリューション対応のUSB/PCプレイバックが必要であれば、m905はもちろんその期待に応えることができます。I/O構成も拡大され、3系統のスピーカー切り替えやサブウーハー用の出力にも対応しました。また完全にあたらしいRCUのデザインは特に特別な進化だと言えるでしょう。見た目の良さはもちろんですが、考え抜かれた直観的な操作性とパワフルな機能の数々には目を見張るものがあるでしょう。

-Q05) m905は様々なサイズの音楽制作スタジオ、映画やポストプロダクション、ブロードキャストなど幅広いスタジオにフィットする製品だと思います。GRACE design社としてはどんなターゲットを想定していますか?

回答者=Eben Grace: そうですね。私たちはm905をどんなタイプのスタジオであってもプロフェッショナルにご利用いただけるようデザインしています。音楽、映画、ポスプロ、放送などいかなるシチュエーションにおいてもパーフェクトなモニタリング環境を構築できるでしょう。

また目利きのオーディオファイルのお客様にも使用していただけると考えております。m903はおかげさまで多くのスタジオやミュージシャンのホームスタジオ、そして音楽鑑賞を楽しんでいらっしゃるオーディオファンの方々にも楽しんでいただいております。m905はm903以上のパワフルな機能(とDSDネイティブ再生機能)を備えています。

-Q06)  m905の筺体、そのマテリアル、そしてデザインについて教えてください。

回答者=Eben Grace: m905の筺体はリアパネル以外全てアルミニウムに変更されました。リアパネルに関しては(従来のm904と同じ)ステンレススチールです。アルミニウムはRF干渉に対してより高いシールド効果をもっており、オーディオ的な利点が多いことが変更の主な理由です。またアルミニウムはより軽い素材であり、さらにパウダーコーティングとアルマイト加工を施すことで強度を増しており、ステンレススチールに比較してメンテナンス性も大幅にアップしています。

RCUのデザインは一枚の押し出しアルミニウムでカスタム設計しました。あたらしい1.5インチのカスタム・ボリュームノブはスムースでまるで宝石のようです。トップとボトムのエッジは美しいカーブに削りだされていて印象的なデザインになっています。細部にわたるまで人間が実際に操作しやすく、かつ美しいと思えるデザインに仕上がっています。また傾きを自在に調整できる機能的なティルトベースのデザインには特に時間をかけました。このデザインによってユーザーはリモートコントローラーの操作アングルを自由に変化させることができ、抜群の使いやすさを実感できるでしょう。

-Q07)  m905 のリアパネルのコネクションについてのアップグレード点を教えてください。

回答者=Eben Grace: 新しいm905 は3系統の独立したステレオスピーカーを接続することができます。さらに2系統のMONO(または1系統ステレオ)のサブウーハー出力も装備されました。このサブウーハー出力はメーター出力やDACのダイレクト出力としても利用することができます。メーター出力として使用する場合は、固定レベル、もしくはm905のボリューム通過後のレベルを(メーターに反映させられるよう)キャリブレーションメニューで設定することも可能です。

-Q08) m905の技術的な進歩について詳しく教えてください

回答者=Michael Grace: 開発者のマイケル・グレースです。 特に重要なテクノロジーについて詳細を説明していきましょう。

* USBテクノロジー すでに発売中のm903のように、m905ではハイスピードのアシンクロナスモード採用のUSBリンクを採用しています。この技術によってm905本体がUSBインターフェースのクロックマスターとなることが可能になります。結果PLLを必要とせず、USBバスからのジッタも皆無となるのです。

また、m905は10chものオーディオをコンピューターに送ることができます。8chのADAT入力とAES/TOSLINK/SPDIF の2chのオーディオです。つまりm905はコンピューターのデジタル・オーディオ・インターフェースとしても機能するということになります。

m905はとてもパワフルで多くの機能をもつ製品です。そしてその機能をUSB2 DFU経由でのファームウェアーでアップデートすることができるよう設計されています。今後発表していく予定の新しい機能やパフォーマンスのアップグレードが、PCを通じたシンプルな操作で可能になるのです。

* クロック・テクノロジー m905のUSBモードでは極めて安定したロージッタのクリスタル・オシレーターを使用することができます。またs-Lock PLLを使用して外部ワードクロックでオペレートすることも可能です。この場合にはm905は究極に安定したs-Lock PLLを使ったワードクロックにロックし、さらにアシンクロナスUSBモードを使用することができるのです!

-Q09) m905のDACチップには何を使用しましたか?またその理由やアドバンテージについて教えてください

回答者=Michael Grace: m905はBurr-Brown PCM1796 DACチップを採用しています。DACとしてはとても高い解像度と音楽的なサウンドを持った優れたDACです。このDACはカレントアウトプットを持っているので、私たちのIVコンバーター(カレント → ボルテージ・コンバーター)と一緒に使用することができます。これは、たいへん低ノイズのトランスインピーダンスアンプ(カレントフィードバックアンプ)です。ハイスピードのカレント・フィードバック設計では、一般的なボルテージ・フィードバックのオペアンプIVコンバーターのように、スルーレートによるリミッティングが問題になることが全くないのです。

※スルーレート ・・・ 立ち上がり時間が0の波形を入力した時の出力波形の遅れを表す指標。単位は[V/μS]単位時間あたり何ボルト変化できるか、理想値は無限大。実際には電圧の変化に時間がかかってしまい、出力波形に傾きが生じる。カレント・フィードバックで設計されたアンプ回路も実際には傾きを生じるが十分に高速度で動作できるため音声帯域の数倍の周波数帯まで余裕で追従する性能を持つ。

-Q10) 同じくm905 のヘッドホンアンプにはどんなICが使用されましたか?

回答者=Michael Grace: m905のヘッドホンアンプは、m903よりも新しいヘッドホンアンプに仕上がっています。Burr-Brown TPA6120が採用されています。これは実際にはTHS6012 ADSLラインドライバーですが、オーディオ向けには違う型番となっています。

最も注目すべきはこのICが極めて高出力電流のトランスインピーダンスアンプになっている点です。私たちはこのタイプのアンプ設計を全てのGRACE designのヘッドホンアンプ製品(Model901、m902、m903)に貫いてきました。なぜならこのデザインではサウンドの細部までクリアーに、表現力の極めて高いサウンドを達成できるからです。トランスインピーダンスのアンプ設計では、音楽が持つ複雑なハーモニック構成に完全に追従しながらもサウンドがハードになったりメタリックになるような事が一切ないのです。TPA6120はとても低歪で、たとえ5オームのロードでも問題を起こすことがありません。

さらに大事な事は、ヘッドホンアンプをとても低い出力インピーダンスにデザインすることです。高い出力インピーダンスではヘッドホンを接続したときに歪みを発生してしまいます。m905のヘッドホンアンプに使用されている低い出力インピーダンスにより、高いダンピングファクターを得ることができるため、低い周波数においてもヘッドホンのトランスデューサーをとても優秀にコントロールすることができるのです。

※TPA6102 ・・・ テキサスインストゥルメンツ社製、ヘッドホンアンプとしての専用設計のIC。強靭な出力回路により十分な余裕を持ったヘッドホンの駆動が可能。ハイスピード・広帯域カレント・フィードバック方式。内部の電源をL/Rで分離、高いチャンネルセパレーションを実現している。

-Q11)  m905に搭載されているs-Lock について詳しく説明してください。

回答者=Michael Grace: m905では、新しいデザインのs-Lock PLL技術を搭載することができました。 USB以外の入力の場合はリカバリされたクロック(ワードクロックを含む)最初の高速ロックデジタルPLLでロックされます。このデジタルPLLは1Hzの帯域幅でデジタル·ループ·フィルタを備えています。次に0.4Hzの帯域幅を持つ当社の超低ノイズVCXOベースのPLLにルーティングされます。これら2つのPLL回路は結合され、ASRC(非同期サンプルレート変換)などを使用せずに1kHzで100dB以上の入力ジッタの減衰を与えます。同様に新しいS-ロックVCXO PLLは、新しい低ノイズ·チャージポンプ位相比較器を使用し、さらにクロック·ジッタを低減しD / A変換器に送信しています。

-Q12)  アシンクロナス、クラス2のUSBプレイバック技術について詳しく教えてください。

回答者=Michael Grace: アシンクロナス再生はとてもシンプルな発想で、極めて高い効果を得られます。アシンクロナスモードによってUSBバスのクロックのスレーブになることはなくなりました。USBバスから誘導されるジッタを完全に排除することができます。つまりm905がUSBバスのクロックマスターになれるということです。もちろんUSBバスに対してm905のインターナルクロックを使用することも、外部のワードクロックを使用することも可能になります。これは多大な音質的なアドバンテージがあります。

※USBからのオーディオデータを、M905の高品位なクロックでDA変換できるばかりか、外部ワードクロックを使用してのDA変換も可能。また、S-Lockの使用をON/OFFする事もシステムセットアップから設定できます。

-Q13)  アシンクロナス、クラス2 USBプレイバックの恩恵をPro ToolsなどのDAWシステムでどう活用していくと良いでしょうか?

回答者=Eben Grace: アシンクロナス、クラス2 USBプレイバックを使用することでm905をDAWのプレイバック・インターフェースとして利用することができるようになります。それに加えてm905では10chの入力チャンネルをADATとSPDF/AES入力からDAWに送ることができるので、つまりm905をDAWのシンプルなI/Oデバイスとして使うこともできるということなのです。

このセッティングではMac OSXとWindowsでは多少セットアップが異なります。Macでは一切のドライバーなどのセットアップは不要です。m905を'aggregate device'設定でセレクトして、DAW側で詳細の設定を行うだけでOKです。Windows(98-Win7)では'ASIO4ALL'ドライバーを使用すると良いでしょう。このドライバーはI/Oデバイスのセットアップオプションを持っていますので、そこでm905を選択します。

このアシンクロナス・プレイバックのセットアップで重要な事は、システムクロックとクロック・ルーティングを注意深くセットアップする必要がある点です。特に他のI/Oデバイスがm905と同じUSBバスにある場合には注意が必要です。

両者のオペレーションシステム(Aggregate または ASIO)を使用してのI/Oのセットアップの場合、一つのオーディオストリームはサンプルレートが変換され、オーディオクオリティーを損ねる可能性がある。このような理由から、他のDAW I/Oを同時にI/Oデバイスとして接続している時には、その同じバスにあるUSB I/Oのいずれかを専用の設定にするべきです。

しかし、m905をDAWのプレイバック専用のアウトプットデバイスとして使用する場合はとてもシンプルで難しいことを考える必要はありません。DAWシステムにUSBを介して接続するだけでアシンクロナス・インターフェースとしての素晴らしいサウンドを体感することができます。正にリファレンスと呼ぶに相応しい、全ての情報が余すことなく音に変換されたサウンドになります。編集やミキシングにおいてUSB接続でのオーディオ・モニタリングを行うことを強くお勧めいたします!

-Q14) 「ビットパーフェクト」について説明してください

回答者=Michael Grace: 「Bit perfect」とはコンピューター、またはAES/SPDF/TOSLINK/ADATからの信号が一切の変化なしにDACで受信されるということです。通常、デジタルレベルコントロール、イコライジング、ASRCを含むシグナルプロセッシングではサンプルビットの値は変化してしまいます。私たちはデジタルビットに関してとても注意深く扱い、変化しないようにケアしています(デ・エンファシスについては別です)。

※AES/SPDF/TOSLINK/ADATなどのデジタルオーディオインターフェイス規格においては伝送のためのフォーマットにエンコード/デコードする必要があり、エンコードエラーやジッタ誘導といったビットを変化させる可能性は0ではありません。USB接続でのモニタリングでは、それらへエンコード/デコードのプロセスは必要がなくDCコンバータのチップが扱える形式にダイレクトでコンバートするため、より完璧なビットパーフェクトを達成できるアドバンテージを持っています。

-Q15) PCの電源に起因するノイズ対策はサウンドに対して重要な要素であると思います。USBプレイバック時の高周波ノイズなどに対しても同様です。m905ではどのような対策を施していますか?

回答者=Michael Grace: m905のシールドとグラウンディングについては特別な注意を払って設計されています。私たちのデザインではPCからのノイズがオーディオやクロックの回路に侵入することはありません。USBからの信号経路はとても短くなっているので、m905内部でノイズをまき散らすようなことも決してありません。

※USBセクションはフォトカプラによるアイソレーションが施されており、電気的な絶縁がされています。これによりm905のオーディオ回路の中にPCからのノイズが混ざるのを防ぎ、クリーンなモニタリングを実現しています。

-Q16)  m905はどんなDACを採用したのでしょうか?またその理由を教えてください。

回答者=Michael Grace: m903ではPCM1798いうDACを採用していますが、m905ではPCM1796を採用しています。このDACはPCM1798に同様のものですが、それに加えてDSDのプレイバックにも対応しています。 これらのDACの採用の決め手は、その低歪性能やハイスペック性ではなく、いかにナチュラルで音楽的なサウンド品質をもったDACであるかということです。プロスタジオで重要な高解像度で正確なモニタリングに十分なサウンドを持ちながらも、そのサウンドは極めて「音楽的」です。長時間のモニタリングでも聴き疲れすることなくプロフェッショナルな仕事のクオリティを保つことが可能になります。

-Q17) DACチップは重要ですが、同じくらいそのサウンドを決定付けているのがI/V変換、クロック、回路設計とPCBデザインなどの要素になると思います。GRACE design m905ではどのようなデザインが行われましたか?

回答者=Michael Grace: I/Vコンバーター: m903と同じI/Vコンバーターが使用されています。低ノイズのトランスインピーダンス・マイクアンプを応用したデザインとなっております。トランスインピーダンスアンプはDACからの電流出力が電圧へ変換されるときにスルーレート・リミッティングの影響を受けないためI/Vコンバーションに最も適しています。

Clocks: サンプルクロックの性能はシステム全体の中で最大限のパフォーマンスを発揮できるよう設計いたしました。クロックのパスは徹底してローノイズで安定している必要があります。m905には私たちにとって3世代目となるs-Lock PLLを採用しています。新しいs-Lockは私たちが今までデザインした中で最も安定したクロックリカバリー回路です。この回路により外部からのジッタも強力に排除することができるのです。

PCBレイアウトにはとても気を使っています。グラウンディングとパワーサプライのディストリビューションは全体の回路の基礎となります。どんなデザインでも最大のパフォーマンスを引き出すにはパワーサプライとグラウンドの品質がとても重要なのです。回路同士の干渉を最小限にするためにm905には16基ものボルテージレギュレーターがあり、そのどれもがローカルレギュレーターとして特定のセクションにパワーを供給するデザインがなされています。

-Q18)  電子ボリュームのコントロールに関して説明してください

回答者=Michael Grace: CS3318が電子ボリュームのICに使用されています。とにかくこのICはサウンドが素晴らしい!また+/-9V のパワーで動作するので、入力される信号を減衰させるPADが不要で、かつ出力シグナルも増幅度を高くする必要もありません。このことで従来の+/-5Vのボリュームコントロールに比べて、より拡大したダイナミックレンジをシステムに与えることができるのです。

-Q19)  GRACE designのアナログ回路設計には毎回とても感心させれられます。これは長年の経験や鍛錬によるものと想像されます。m905のアナログ回路の設計に関して少しお話を聞かせてください。

回答者=Michael Grace: 私たちはm905のアナログ回路に関してとても厳しく取り組みました。それらはm904に比較して数値的にも大きな進歩を見ることができます。歪率、ノイズ、コモンモードリジェクション、ダイナミックレンジなど全てにおいて以下の通りの大きな向上を実現できました。

m904との比較:

・THD+N - 6dB低減
・ダイナミックレンジ 6dB増大
・出力ノイズ 9dB 低減

バランス入力アンプはTHAT 社のものです。ブートストラップを用いた入力段により、m905はとても高いコモンモードインピーダンスで動作できます。これによりソースのインピーダンスのマッチングが良くなくても最良のコモンモードリジェクションを保つことができます。

m905の内部では可能な限り全ての信号をバランスコネクションにしています。ボリュームコントロールなどのアンバランスコネクションはとても短く保たれています。このような努力の結果、m904に比較しても大幅なノイズに関する改良を実現することができたのです。

全てのGRACE製品に言える事ですが、私たちは電解コンデンサーを信号パスには一切使用しません。使用するのはとても品質の高いフィルムコンデンサーだけです。またシグナルパスの抵抗には0.5%の薄膜型金属皮膜抵抗(これは日本製の進工業株式会社のものです!)を使用しています。また金メッキ仕様のNeutrikコネクターを使用し長年の使用にも耐久性が得られるよう考えております。

-Q20)  m905のデエンファシスフィルタについて教えてください

回答者=Michael Grace: m905 は(もし信号にエンファシス信号がある場合に)デエンファシスフィルタを適応することができます。これは+/-0.1dB の増幅エラー精度を実現したデジタルフィルタです。m905は自動でエンファシスビットを検知することもできますし、その機能をマニュアルでオン/オフすることもできます。

-Q21)  m905にはあたらしくマイクロホンを内蔵させましたね。またSPLメーターも装備しています。これはよりムービープロダクションやポスプロを意識したものでしょうか?SPLメーターの詳細と共に説明をお聞かせください。

回答者=Eben Grace: まずこの新しいリモートコントローラーのデザインは、多くのコントロールルームのセットアップをよりシンプルなものにするでしょう。トークバックマイクを内蔵したこともその一つの要素です。

またサウンドエンジニアは常にモニタリングレベルを適正に保つ必要があります。マイクを搭載するだけでなくSPLメーターも追加するアイデアはとても便利であると気がついたのです。またSPLレベルを管理することで難聴などを防ぐケアまで管理が可能になります。SPLメーターの搭載はm905ユーザーの仕事をベターに改善し、賢くそして安全に仕事する事に役立つでしょう。

セットアップメニューではメーターの動特性や周波数レスポンス、SPLメーターの機能を調整することができます。ピークモードではメーターのピーク表示を「Hold」、または3.5秒、または10秒間ピークを表示するなどユーザーの使い勝手に最適な調整を施すことができます。

周波数センシティビティは、人間の耳の特性に合わせたAウェイティング、スピーカーの音圧調整などに用いる広帯域なCウェイティングを用意しました。音響の測定において、最も一般的なフィルタセッティングです。

-Q22) SUB出力について教えてください。

回答者=Eben Grace: SUB出力機能ではユーザーがm905にサブウーハーを接続することができます。この2つのXLR出力は、2系統の個別のMONOサブウーハー出力としても、1系統のステレオ・サブウーハー出力としても使用することができます。m905のいずれのスピーカー出力にも設定でアサインすることが可能です。m905をモニターコントローラーとして中心にセットアップして、2.0、2.1、2.2などのスピーカーコンビネーションを実行できるのは大きな利点です。

私たちの顧客でモニタリングスピーカーに2.1chシステムを採用しているケースは大変増えています。また多くのモニタースピーカーが、オプションとしてサブウーハーを用意しています。このSUB OUTによってm905はより多くの要求やシチュエーションに応えられる製品になりました。

サブ出力は、各スピーカー出力に以下に設定できます。

• disabled – サブ出力は無効です
• L+R Stereo – サブ出力がステレオ出力になります。
• L+R Mono – サブ出力はMONOとなり、2つのXLRアウトに出力されます。
• Mono ->L またはMono ->R – 左右どちらかのサブ出力が有効です

またサブ出力にはレベルオフセットを設定できるのでスピーカーシステム全体のレベルマッチング(+/- 20dB in 0.5dB)を完璧に行うことができます。

-Q23)新しいRCUデザインはグラフィカルなLCDディスプレイを採用していますね。これによって得られるアドバンテージなどについて教えてください。

回答者=Eben Grace: 新しいカラーのLCDディスプレイはQWVGA, 480 x 272ピクセルのディスプレイです。このディスプレイによってRCUの操作性は格段に良くなっています。ディスプレイGUIの設計は視覚性が良いように、とてもスッキリとデザインしたつもりです。操作に関する情報の全てが分かりやすく、美しくディスプレイされるよう設計されています。

-Q24)メーター出力については、m904時代から日本のスタジオで最も要望があった待望の機能です!日本ラウドネスメーター協議会(J-LMA)がスタンダードを設定したことで本機能はとても必要な機能になりました。またデジタルループスルー出力も活用ができます。このマルチモードのSUB / DAC / Meter出力について説明してください。

回答者=Eben Grace: SUB / DAC / Meter 出力はフレキシブルでパワフルです。セットアップメニューで詳細の設定が可能です。

SUB Outは前項で述べたようにサブウーハーへのフレキシブルな接続を実現します。

DAC Outは特定のデジタル入力をアナログ信号にコンバートし常に出力できる機能です。一般的にはこの機能はハイパフォーマンスなm905のDAコンバーターを使用して、アナログのマスタリングデッキや他のアナログアウトボード機材に送出したい場合などに使用できます。

Meter Outはセットアップメニューで固定レベル、またはスピーカーモニタリングレベルを選択することができ、シチュエーションに合わせた使用が可能になっています。

-Q25) m905のあたらしキャリブレーションモードについて教えてください。どんなことができるようになりますか?

回答者=Eben Grace: m904の場合には2行のディスプレイと7セグメントLEDでの操作でしたので、今回のQWVGA ディスプレイの採用は大きな飛躍となりました。より多くの情報を見やすく表示させることができます。m905ではキャリブレーションのナビゲートが明快で簡単になりました。Setupボタンを押すだけでモードに入ることができ、スクロール、選択、エディット、保存など一連の作業は驚くほどスムースに行えます。どんなキャリブレーション・セットアップの状況でもボタン一発で元のオペレーションモードに戻れるよう現場を意識したデザインも優れています。

ここには説明しきれないほどの沢山のセットアップが用意されていますが、ただ言えるのは、m905は想像できる限りの全てのコントロールに対して対応可能なキャリブレーションを備えているということです。またエンジニアの要望があれば新しい機能をファームウェアーのアップデートにて追加することができるようデザインがされていますので今後のアップデートにもご期待ください!

-Q26) GRACE designのプリントサーキットデザインを見ると細部にわたりこだわりを感じることができます。詳細について教えてください。

回答者=Michael Grace: m905のサーキットボードデザインは全て4層のボードです。これにより内部の銅箔レイヤーの全面をグラウンドと電源ディストリビューションの為に使う事ができるのです。信号のルーティングは外側のレイヤーにデザインされています。4層のPCBデザインはハイスピードデジタルデザインにも、アナログデザインにも最適な手法です。

-Q27)  m905のサウンドを決定していく上でどのようなモニタースピーカーやヘッドホンを使用していますか?

回答者=Eben Grace: 私たちはあらゆるスピーカーとヘッドホンでm905の試聴を行いあらゆるシチュエーションを想定して製品開発しています。Genelec 8050やGrimm LS-1、Vandersteen 2ce、KRKやMackieなどのモニタースピーカー、 Sennhieser HD800 やHD650, ATH-M50ヘッドホンなどは良く使用しています。

最近私たちは新しいリスニングルームを作ったんですよ。より詳細なモニタリングを行い、開発を行うことで仕事の精度を上げています。m905はどんなスピーカーでもヘッドホンでも、完璧にコントロールができるように設計されています。

-Q28)  m905開発の最終ゴールは何でしたか?

回答者=Eben Grace: m905を完成するにあたって、私たちはm904とm906で培った10年以上の経験をフル投入しました。ステレオのモニターコントローラーとして「より良いパフォーマンス」を高いレベルで実現すること、間違いなく市場の中で「最高の一台」を作り上げる、それこそが目標でした。

また、アシンクロナスUSBテクノロジーを完全にプロフェッショナル・スタジオのフォーマットに対して開発することは、私たちの大きな目標の一つでした。

モニターコントローラーは常に近年のスタジオ作業の中心的存在であり、エンジニアは一日中コンピューターのディスプレイと、モニターコントローラーに向かい合うことになるでしょう。そんな中で私たちは、エンジニアがDAWとの「ややこしい」格闘を続けている対極として、m905モニターコントローラーが「シンプル」で「素早く」、「直観的」で何より分かりやすい(心が休まるよう)機器となるよう設計を施しました。m905について操作をしたことのないエンジニアであっても、誰でも簡単に操作が実行できるようデザインされています。

-Q29)  m905に関して何か特別なエピソードはありますか?

回答者=Eben Grace: m905はGRACE designのヒストリー上、最も開発期間の長かった製品になりました。仕様が固まってからも開発とエンジニアリンングは2年以上の年月をかけて進行していきました。たくさんの新しいテクノロジーが確実にGRACE designの品質となるまで、丁寧にそれを達成していったのです。完成した時には真の意味で価値のある、最高の製品を作り上げたと自負いたしました。

また今回日本の皆様がこの発表を最初にご覧になることになるのですが、m905は次のファームウェアーの更新で、DSD64またはDSD128 via Dop Version1.1をサポートすることになります。この技術にはDoP方式が採用され、DSDオーディオをPCMフレーム上で再生できます。近年PCオーディオ関連を中心に話題のDSD再生をm905でも行うことができるのです!GRACE designでもPCからのからのDSDファイルの再生テストを行っていますがとにかく素晴らしいサウンドです!

またこのファームウェアー・バージョンではデュアルワイヤーのAESモードなど更に多くの機能アップデートが含まれる予定です。どうぞご期待ください!

-Q30)  最後の質問です。日本のGRACE designフォロワーにメッセージをお願いします!

回答者=Eben&Michael Grace: 日本の皆様、私たちGRACE designにとって、日本のお客様の強いご指示は成功の大きなパートになっています。私たちは設計とデザインに関して常に向上心を持ち、ベストなプロダクトをお届けできるよう努力しています。そしてその成果を、GRACE designがどのような意図で何をクリエイトしているかを、日本のお客様に誠実に理解していただけることは本当に素晴らしい事です!いつも私たちの会社と製品に興味を持っていただき、注意を払ってくれていることに、私たちはいつも多大なインスパイアを受けているのです。日本の多くの私たちの友がGRACE designの成功に貢献していただいていることに感謝しています。どうもありがとうございます!

 

SHARE

Facebook Twitter リンクをコピー