私はかれこれ20年以上にわたりFender Mustangを愛用しているのですがその理由を聞かれるととても困ります。なぜならムスタングを弾く理由はそのほとんどが「見た目」と「ショートスケールギターの弾きやすさ」であり、そのオリジナルサウンドがはっきりいってしまえば「好きでない」からです。それでもこんなに長い間弾いているのはそれほどその「外見」が好きだからなのか・・自分でもはっきりとした答えがないのですが、「ギター何弾いてるんですか?」と聴かれたら「ムスタング一筋です」と答えています。多分ムスタングの憎めない感じの不完全さが好きなんだと思います。

つい最近では酔っぱらって一切の記憶なしに(うっすらとした記憶が翌日あったが夢だと思っていたんです・・)デジマートでムスタングをポチっと購入してしまいショックでした(笑)。酔って購入したムスタングは家に持ち帰ると家の人に怒られそうなのでずっと事務所に置いたままであり、仕事中もずっとこの愛器を抱えながら仕事をしているほどの自称ムスタングフリークです。なのにその音がまったく好きでないとはけしからん話ですが事実。音に関しては私は完全にストラト派です。ムスタング入手前は長い間ハイエンド系のストラトを弾いていたし、今でもエフェクターの検品やサウンドチェックにはSadowskyのなかなか良いストラトを使っているのです。ストラトはやはりトーンのバランスが良いし、嫌味のないボトムエンド、ギラっと艶っぽい高域が気持ちいい。対してこのムスタングというギターは高域も低域も中途半端、さらに中域に妙なクセがありポコパコしている。このポコパコが多分ムスタングの最大の特徴であるのだと思うが、この中域は私は結構好きである。嫌なのは高域のジャラ~ン感の無さだ。つまりストラトで言う所の「ギラっと艶っぽい高域」がなく、ローポジションの開放コードが好きな私には物足りない。コードがしっかり主張したサウンドにまとまるストラトに対して、ムスタングは尻切れトンボのような欲求不満サウンド、さらにチューニングもビシっとは合いませんので更にコードが響かないっ!そんなに文句があるのなら弾かねばよいではないか!という声も聞こえて来ますが、それでも弾きたいムスタング。

さてこれが私の愛器1966年製の赤いムスタングです。1993年くらいにLAで買ったものです。このムスタングは(やっぱり音がイマイチなので)何度もピックアップを交換したり、中の配線材を変えてもらったり、オクターブが合わせられるブリッジにしたりしました。ピッチが良くなったり、使い勝手は良くなったりしましたが、やっぱりイマイチサウンドからは抜け出せず・・でした。しかしある日、現アンブレラカンパニーの技術部長の宿澤氏にトーンコントロールは使わないのでバイパス、レースセンサーピックアップをプリアンプ回路なしでつけてもらった所、ノイズレス&中域のクセ半減、高域の伸びやかさプラスで中々気に入ったサウンドになりました。また従来の状態ではエフェクトのりが悪く、特にオーバードライブ系のペダルは綺麗に素直に歪まない・・・変なクセやピークが嫌味な音になってしまって気になっていましたが、この改造であまり気にならなくなりました。購入した当時に比べて木材もいい感じなのか最近はボディ鳴りがよくなってきて、握ったネックにもグワ~ンと響きが伝わり、なんか弾いてる快感が強いギターで気に入っています。

そしてこいつが最近酔っぱらって購入してしまった青いムスタングです。ムスタングは2本は絶対いらないと決めていたので予想外の2本目でした。やはりビール→ワイン→焼酎という無理のある飲みの流れと乱れが敗因であったと思っています。これは無改造です。
そんなこんなで最近(酔っ払って間違えて購入した)ムスタングが会社にやってきたので、何かと弾いていたわけですが、DemeterのPRS-2(トレブルブースター)がたまたま入荷し、いつものようにストラトでサウンドチェック(検品)していたわけです。ふと思い立ってギターをムスタングに変えてみると「こっ、これはぁ!」。なんか理想のサウンドが飛び出したというわけです。私が「こっ、これはぁ!」と思ったのはPRS-2を通すとあのストラトの高域のジャラ~ン感、「ギラっと艶っぽい高域」がムスタングで得られたからです。今までもアンプのプレゼンスコントロールや高域のEQつまみを引っ張るとトレブルブーストなどの小技があれば必ず試してきましたが、PRS-2のような充実した高域のエンハンス感はなかなか得られませんでした。ギラギラっとした高域の気持ちよい響きが加わったムスタングのサウンドは感動的。焦点があったというか、嫌みがないというか、ストラトっぽいナチュラルでバランスの良いトーンになっています。正に捜し求めていた質感に近かったので感動してこの記事を書いているという訳です。
それではということで、翌日自宅の赤いムスタングを事務所に持ち込み、更にテストしてみました。
やはり同じ印象と方向性。この赤いムスタングはレースセンサーピックアップなどの改造もあり底そこムスタングらしからぬトーンになっていたのですが、さらに良くなっています!
まずはこの「魔法の箱」PRS-2(Presence Control)の技術解説を弊社技術の宿澤氏に依頼、いろいろ詳細の計測データーをだしてもらいました。
Demeter Presence Control 技術解説
周波数特性のグラフ

Cyanは、コントロールノブFlat(しぼり切り)ポジション
Greenはサイドのスイッチが Mid/Highポジション、ノブは12:00真ん中の位置
Yellowはサイドのスイッチが Mid/Highポジション、ノブは最大Boost位置
RedはサイドのスイッチがHihgポジション、ノブは12:00真ん中の位置
MagentaはサイドのスイッチはHighポジション、ノブは最大Boost位置
Mid/Highポジションは1.6kHzに、Highポジションは4kHzに周波数のピークが見られます。
Boost幅は、最大10dBと控えめにブーストされています。
ハイミッドレンジをBoostすると同時に高域をカットしており、Mid/Highのパンチや明瞭感、アタック感をしっかり出しても、その上のチリチリした嫌な部分は抑えるように働きます。ナチュラルで効率的なカーブを描く、ミキシングエンジニアがEQを設定したかようなギタートーンが、ノブを一つ回すだけで得られます。

PRS-2の素晴らしいところは上の技術解説でも述べられていますが、たった一つのノブでエンジニアが究極のイコライジングを施したような複合的な効果が得られることだと思います。
また最新のバージョンではブーストの種類がMid/Hi、Highの2段階で調整できるようになりました。Highポジションだとムスタングにギラっと高域をアドオンしてくれますが、Mid/Hiポジションにすると今度はとてもエネルギッシュなHOTサウンドになります。本当においしいところを上げてくれるイコライジングの妙、もちろんストラトで試しても音像全体が一皮むけたようなサウンドになります。
酔っ払って買った青いムスタング(無改造)はMid/Highポジションにすると、少しだけムスタング特有の中域と喧嘩する印象で、Highポジションの方が個人的には好きでしたが、これはどちらのポジションもかなりレベルが高いのではないでしょうか?

1966年赤いムスタングはムスタングにしては中域のクセが消えているため、Mid/Highポジションが強烈にあいます。高域のエンハンス具合も理想のストラトに近くなりギラっ、ジャラ~ンと響きます。さらにしっかりとした食らいつきの部分、サウンドの骨格もしっかり感が強調されるようになり最高です。PRS-2はバッファーとしても機能していますからそのバッファー部分としてのサウンド貢献ももちろんあるでしょう。トーンの輪郭が聴きちがえるほど良くなり、オリジナルのモゴモゴしたムスタングサウンドはもはや皆無。長年描いてきた理想のトーンがこのかわいいムスタングからでてくるのはちょっと感動的です。この赤ムスは先にも話したようにトーンコントロールがダミーなので、ここにPRS-2を仕込めるようにDemeter AmpのJamesさんに頼んでみるつもりでいます。同社の
MB-2B(FAT CONTROL、ミッドブースター)はギターに仕込める
MB-2(onboard)が発売されていますから、良い返事も期待できるかも知れません。
というわけで「Fender Mustang(ムスタング)のサウンドをアップグレードさせる方法」は次回に続きたいと思います。次はギターにPRS-2を仕込む篇が書けたらいいなぁと考えております。
Demeter PRS-2の最新バージョン(色=黒でMid/High、High切替トグルスイッチ付)は絶賛発売中です。さすがベテラン・マスタービルダーのJames Demeterと思わせる最高のサウンドメイクが堪能できる逸品です。単純な高域のイコライジングといった趣ではなく、「極めてハイセンスに巧みの技で高域をエンハンスしてくれる」といった表現がまさにぴったり。ハムバッカーの音をP-90っぽくしたり、ストラトのサウンドを更に存在感のある抜けの良いサウンドに仕上げたり・・・どんなギターでもこのPRS-2の素晴らしいサウンドメイクの恩恵を受けられると思います。地味だけど本当に「魔法」のように効くお勧めのトレブルブースター&バッファーです。