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Technotes 技術ノート

アンプは"フラット"にできる? ~センド&リターン解説番外編~

*この記事はBUZZ PRESS 2025-2026掲載の記事、『HOW TO センド&リターン』の番外編です。BUZZ PRESS 2025-2026は、吉祥寺にオープンしたGizmo Music Storeなどで頒布中です!

本当にフラットは不可能?

文中でギターアンプの周波数特性はフラットではないと書きました。ギターアンプのトーンコントロールはノブが全て5でも全て10でもフラットにはならず、どれかを回せば他の帯域にも干渉し、その変化はとても複雑です。そしてEQのようにフラットになるポジションは基本的にありません。それがギターアンプであり、そのアンプのキャラクターを決めています。

しかし、ギターアンプは本当にフラットにはならないのか?!これを検証してみたくなりました。もしフラットにできるなら、フラットに再生したいアンプシミュレーターで作ったサウンドを鳴らすのに最適。フロントのインプットならボリュームノブも効くし、使い勝手はリターン挿しよりも良いはずです。それに他にも有用な使い方があるかもしれません。

アンプのクセつよな特性の理由

まずは社内にあるギターアンプの特性を確認してみました。EQ設定はJCM800がBASS=5 MIDDLE=5 TREBLE=5、JC-22もTREBLE=5 MIDDLE=5 BASS=5です。

左がJCM 800、右がJC-22

どちらもクセつよです。この設定では意外にもJCのほうがドンシャリ。本題に行く前に、なぜギターアンプはこんなにもクセつよなトーンシェイプになっているのか?これほど強烈なクセを持たせているには訳があるはず、まずはその理由を考えてみたいと思います。

Fender や Marshall といったポピュラーなギターアンプ/キャビネットでは12インチのスピーカーユニットの採用が多く見られます。12インチという大型で、かつ強度も必要なコーン紙はぶ厚く丈夫に作られています。さらにそこにボイスコイルが取り付けてあり、可動部分の質量は20~50gとそこそこの重量になってきます。

FluxTone Guitar Speaker Model 11Aの部品(一部)。左上の大きいものがコーンで、取り付けられている筒のようなものがボイスコイル。

このような大型のスピーカーのコーン紙は、空気抵抗やその質量の大きさから素早く振動することができません。つまり高い周波数の再生は苦手であり、概ね3~5kHz あたりから再生能率が低下しはじめ、10kHz あたりのエネルギーは1/10程度にもなってしまいます。

なのでスピーカーでの高域の低下を補うべく、プリアンプで高域を持ち上げるカーブがギターアンプにおいてのデフォルトとして用いられていると考えられます。そして、各メーカーはスピーカーとのマッチングを踏まえ、このカーブを研究・デザインし、プリアンプのトーンコントロールを設計、これがアンプの個性を決定づけているのです。

さらに脱線すると、アンプシミュレーターで完璧にギターアンプサウンドを再現するためには、プリアンプの電気特性を再現するほか、スピーカーユニットの特性、キャビネットに実装したときの音響特性の変化も含めて再現する必要があります。もちろん多くのアンプシミュレーターはキャビネットシミュレーター含めたプロセスを実装しています。アンプの音、スピーカーユニットの音、キャビネットの音、これらを組み合わせてアンプシミュレーターは構成されています。

しかし、まだアンシミュとしては不完全と言えます。ギターアンプで鳴らしたサウンドを再現する事に加え、それをラインで出力しなければいけません。

これを実現するためには“スピーカーにマイクを立て収音しプリアンプでラインレベルまで増幅する工程”をも再現する必要があるのですが、さて困った、その手法の選択肢の幅広さ。マイクの種類は?マイクで狙う位置は?マイクの角度は?部屋鳴りの割合は?マイクプリアンプの種類は?設定は?組み合わせは無限です。IR技術で再現しているのか?プログラム上の演算で再現するのか?もうあの箱の中で何が行われているか、アンシミュメーカーの熱い情熱と積み上げられた素晴らしい技術は尊敬するのみです。

“フラット”を目指す

かなり脱線しましたが、本題の“プリアンプでフラットな電気特性を実現できるのか” を検証していきましょう。もしプリアンプでフラットにできたのなら、スピーカーの音響特性に依存して高域が低下する再生システムとなるはずです。とりあえずはこれで当初の好奇心を満たす事としましょう。

そのためここからの“フラット”が意味するのは、プリアンプ部の電気的な入出力特性についてに限定されています。スピーカーユニットやキャビネットの構造などにより、プリアンプ部以外もこれまた特有の周波数特性を持っています。再生システムとしてフラットな特性とはイコールにならない事はご承知おきください。

ここからは、周波数特性を計測しながらフラットになるようにトーンを調整していきます。まずはJCM800から。

【JCM800 BASS=3.5 MIDDLE=1.5 TREBLE=0】中域のピーク/ディップが小さくなる設定です。-3dBとなるポイントは50Hzと13kHz、まあまあ広い範囲でフラットレスポンスにできましたがガッツリかまぼこ形状です。特にローエンドが物足りない感じは大きいです。

【JCM800 BASS=10 MIDDLE=2 TREBLE=0】少々のディップを許容するとこのようにできました。25Hzくらいから16kHzあたりまでで誤差3dBの範囲に収まっています。可聴帯域で考えれば4dBの乱れという事になり、完全なフラットにはまだまだですが良い感じではないでしょうか。JCM800ではここが限界のようです。ここで選手交代、次はJC-22です。

【JC-22 TREBLE=1 MIDDLE=10 BASS=4】けっこう頑張りました!20Hz~20kHzの可聴帯域を誤差2dBでカバーできています。スピーカーの周波数特性の乱れより小さいくらいなので、なかなかフラットにできたと言えそうです。ちなみにJC-120でもやってみました。だいたい同じでしたがBASSは4だと少し出過ぎ、JC-120はBASS=3.5のほうがフラットに近い結果でした。

自分なりの正解を!

結論、基本的にはギターアンプを完全なフラットレスポンスにするのは難しいが、機種によってはけっこう頑張れることが分かりました。ただし、スピーカーの周波数レスポンスには目をつぶる、これは今回の検証における前提条件です。

ここで得られた結果は、あくまでプリアンプの電気的な特性についての話です。スピーカーを含めて再生装置としてフラットにできたと言う事とイコールではない事は、誤解がないようにもう一度書いておきたいと思います。

スピーカーでの周波数レスポンスの変化を取り入れる事で、ギターアンプらしさをギターアンプを使って演出する、何を言ってるのかよく分からなくなってきましたが、こんな使い方も結果的に有効な場合もあると思うので色々試して自分なりの正解を探してみてください。

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