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2015年に活動をスタートさせたCooper FXは、エフェクターブランドとしては比較的新しい存在ながら、今や新世代のブティックペダルを代表するブランドとして認知されています。デジタル処理ならではの音質劣化や独特のアトモスフィアを愛し、あえて「ローファイ」な方向へ舵をとることで、唯一無二の音世界を表現し続けています。世界中のペダルフリーク達がCooper FXの動向に注目しつつも本人はマイペースに活動を続けており、生産ロットも極小なのもありソールドアウトが続くほどの人気を誇っています。
Cooper FXビルダーのTomと、愛犬のCooper。
そんなCooper FXの評価が一躍高まったのがGeneration Lossのリリースでした。VHSメディアの特徴的な音質劣化からインスパイアされ、ランダムなピッチビブラート、フィルタリング、ビットクラッシュ、ノイズのブレンドなどを組み合わせてあらゆるローファイな音像を再現するこのペダルは、今でこそ似たようなローファイな音像を再現するコンセプトのデバイスはいくつかありますが、当時は全くユニークなもので一気に注目の的となりました。
Generation Lossは以前は少数のロットが不定期に制作されていましたが、ここ数年は完全に生産が止まっていました。その後数々の機能を追加したV2が発表されたことは記憶に新しく、待望の再生産もあって世界中でソールドアウトしてしまいました。本国のInstagramを見るとまだ生産を続けるようで、少しずつ新しいロットが出荷されていくようです。V2をお探しの方は気長にお待ちいただければと思います。
さて、Cooper FXにはオリジナルシリーズの他にもう一つのGeneration Lossがあります。Arcades: Generation Lossカートリッジです。Arcadesはレトロなゲーミングコンソールのように、実際にカードを差し替えることがエフェクトが変化する新世代のエフェクトプラットフォーム。カートリッジへエフェクトを変化させるアイディアにはいくつかのブランドがチャレンジしてきましたが、Cooper FXの高いエンジニアリング技術により最も実用的なカタチが達成されました。現在リリースされているエフェクトカートリッジは8種類、その中には伝説のGeneration Lossからインスパイアされ更に発展させた"Generation Loss Card"も含まれています。同じ名前を冠する2つのエフェクター(カード)を、今回比較レビューいたします。
まずは重要なのは、カートリッジはオリジナルのGeneration Lossからインスパイアされたものであり、完全な再現を目指したものでは無いということです。そのため全く同じサウンドが出るわけではありません。ただカートリッジにはオリジナルの再現に寄せたプログラムもあり、近いところまでの再現は可能と感じました。それぞれのモデルが持つ世界観があり、どちらも甲乙つけがたい最高の内容です。
ローファイなキャラクターを決定づけるランダムなピッチビブラートは、WOWとFLUTTERで設定していきます。このようなタイプのローファイなエフェクトはピッチが右往左往するような、やり過ぎなくらいエクストリームな設定にできるのもの多いですが、V2は気持ちよく揺れる範囲に調整幅が限定されています。とにかく気持ち良いところを目指したという、Cooper FXの自信の現れにも感じられます。
またハイパス/ローパスフィルターの効きがかなり良く、ノブをスイープさせて得られるキュワっとしたサウンドはまさにフィルター!という感じでテンションを上げてくれます。ハイパスとローパス、2つを搭載することで積極的にサウンドメイクができ、理想とするローファイサウンドにスムーズに到達できるのが素晴らしい。音像を曇らせたり、低域をリダクションしてスカスカにしたり、誰もが想像するあのローファイな音像です。とにかくチューニングが素晴らしく、どの様に設定しても破綻しない、とにかく気持ちよく響き非常に音楽的な要素を感じさせます。
ピッチビブラートとフィルター、この2つでもかなり心地よい音像となりますが、更にビットクラッシュやホワイトノイズのブレンドも可能です。これらは厳密にはVHSのサウンドのシミュレートとは異なりますが、また違うテイストのローファイサウンドの再現を後押ししています。ピッチビブラート同様ビットクラッシュもサウンドが崩壊しすぎない、あくまで味付け程度になるよう操作幅が狭められています。以前リリースされたChase Bliss x CooperのGeneration Loss Limitedは、ピッチビブラートもビットクラッシュもかなり強い効きまで設定ができたので、あえてここは変えてきたと想像します。
またオリジナルから比べてV2ではよりコントロールが洗練され、サウンドの微調整が細かく可能になっています。特にオリジナルではMIXでの調整からV2はWETとDRYをそれぞれ無段階で設定できるため、エフェクト音と原音の微妙なバランスを追求することが出来ます。これにより純粋なビブラートだけでなく、コーラスサウンドの領域にもアクセス可能になっています。ビットクラッシュやホワイトノイズを混ぜたローファイなコーラスサウンドは、少なくとも今存在するコーラスペダルで同じようなサウンドを出せるデバイスを他に知りません。これだけでもGeneration Loss V2を入手する意味があると思います。
1000台限定で発売されたGeneration Loss Limited。
正直個々の要素を見ていくとスタンダードなものばかりなのですが、それぞれが絶妙なバランスとさじ加減で混ざり合うことで、とにかく心地よく揺れる唯一無二なサウンドを形成しています。同じようなコンセプトのデバイスもいくつか試しましたがGeneration Lossが持つまろやかでとろけるようなローファイサウンドは一線を画するもので、まさにマジックがかかっているように思いました。
ArcadesのGeneration Lossカートリッジ版も、オリジナルのGeneration LossやV2につながる心地よいローファイなバイブスを感じることが出来ます。ただArcadesはメインのパラメーターが4つ+プログラムに共通する裏パラメーター4つとなるので、Generation Lossの一部の機能に集中、または複合的に操作するパラメーターも存在しています。
サウンドの比較としては、どちらも同じバイブスを持ちつつも違うところを目指しているようにも感じました。V2はVHSメディアの再現としつつも、アナログ感のあるシルキーな質感を感じます。そのためレコードならではの音の揺れのような、オーガニックなサウンドを得意としていると思います。パラメーターの可変幅がちょうどいい塩梅のチューニングへ限定されているため、どんな設定でも包み込むようなマイルドな雰囲気が特徴的です。このチューニングが本当に絶妙で、Generation Lossが名機と言われるのを実感できました。 一方ArcadesカートリッジはVHSから発展しつつ、CDなどのデジタルメディア特有の無機質な手触り、冷たくエラーを起こすようなサウンドへ舵を取っているように思えました。これは前述のCLOCKコントロールも大きく影響しています。フィルターの変化もV2と比べるとささくれ立っているような、少しザラついた雰囲気も感じられました。パラメーターの可変幅もより極端な設定にまでアクセスができ、出力できるサウンドの幅広さでいったらArcadesのほうが上だと思います。単なるGeneration Lossサウンドの再現だけでなく、そこから解釈を広げた新しいローファイサウンドまでカバーしていることに脱帽です。 しかしこれはどちらが優秀というわけでなく、完全に好みで選んでしまって良いと思います。どちらも各要素が絡み合い、唯一無二の気持ちよさを形成しているのは間違いありません。どちらのエフェクトもハイパス/ローパスフィルターがならではのサウンド形成に大きな役割を果たしていますが、フィルターをスイープしたときのとろけるような心地よさは唯一V2のほうが少し勝っているかな?と感じました。
cooper fx所有の、今までのラインナップコレクション。
V2で追加された機能にAUXスイッチでのファンクション呼び出しがありますが、これもArcadesでは再現可能です。V2ではAUXスイッチの機能を3つから選んで設定するのに対し、Arcadesでは好きなノブの設定を記憶させてプリセットのように一瞬で呼び出せます。V2のシグナルフリーズ(フィードバックを最大)、文字化けサウンド(ビブラートのデプスを最大)の再現はもちろん、どんな設定もできるのでサウンドの幅広さはArcadesのほうが上です。Generation LossはとにかくCooper FXが理想とするサウンドと機能が詰め込まれており、この音を使え!という自信も感じられます。笑 その他MIDI/EXPペダル操作、プリセット機能などのファンクションはどちらも搭載し、デジタルデバイスに求められるすべての機能は網羅されています。Arcadesのカートリッジは今後もリリースが予定されているようなので、購入後もずっとワクワクが続くのはArcadesかもしれません。
Cooper FXらしくArcadesもGeneration Lossも世界中でソールドアウトしているのですが、実は国内にArcadesはまだ少しだけ在庫があります。Arcades Generetion Lossカードでも、オリジナルやV2が持つ唯一無二の夢心地な揺れ感、ローファイ感は健在ですので、まずはお試しを。どちらも次回納期は未定ですので、ぜひ確実にゲットしてください。