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Interview column インタビュー&コラム

はみ出すことの重要性: Ohmaは貴方が知るマイクの常識を変えるためにある

この記事は2023年7月24日に、音楽とテクノロジーが交わるウェブメディア、MusicTechにて掲載された記事を翻訳したものです。楽器機材や制作に関しての興味深い記事が多数掲載されているMusicTechも是非ご覧ください!

Words by William Stokes

カスタムメイドのカプセル、聡明で大胆なデザイン、そして大衆から抜き出ようとする衝動。LAを拠点とするこのブランドは、一般的なマイクメーカーとは一味違う。

2022年12月、Ohma Worldのウェブサイトに「Say Goodbye To Imposter Syndrome」と題したブログ記事が掲載された。Ohmaの共同設立者であるCharlene Gibbsによって書かれたこの記事では、オーディオクリエイターに対し自分の業績を認め、助けとなる仲間たちと交流し、それを受け入れることでインポスター症候群に陥りがちな内なる声を食い止めるよう促している。

Gibbsは確かに、オーディオ業界を取り巻くゲームの中で一肌脱いでいると言えよう。

Image: Simon Vinall for MusicTech

マイクロホンの市場は、音楽テクノロジーの中で最も新規参入が難しい分野の一つだ。Neumann, AEAやTelefunkenといった重鎮が何十年にもわたって名を馳せており、アルバム全体の方向性を決定し、あるときは尊敬を集めるレコーディングスタジオのお守りのようにも使われてきた。新人開発者がインポスター症候群に陥る可能性があるのも、無理はない。

これは斬新なアイディアが受け入れられない閉鎖的な業界であることも一因だ。スタジオ用マイクの設計思想と美学は、初期のイノベーション以降比較的ほとんど変化がない。少なくとも、有名な設計のクローンが次々に市場に現れることが、それを証明していると言える。これはつまり、マイクロホンに関わるビジネスにおいては、未来を見るより過去を振り返ることが成功につながるということでもある。近年発売されたTeenage Engineering CM-15でさえ、同社の型破りな製品群の中では控え目に見える。

Image: Simon Vinall for MusicTech

これはスコッチウイスキーや葉巻に似ている。ブランドや文化が頑固なまでに伝統的なものに執着するため、真新しいデザインは興奮を呼び起こすより、懐疑的な目を向けられることが多いのだ。同じくOhmaの共同設立者であるSammy RothmanはGibbsとともに、サンフランシスコとロサンゼルスから笑いを交えて語ってくれた。

「正直に言うと、これは私達にとって当たり前のことだった」とGibbsは説明する。「Sammyと私はアートを愛し、デザインを愛し、ファッションを愛している、そして私達の個性、興味、生まれつきの部分は、どんな形であれ確かに私達の製品に活かされている。自分たちを否定することは出来ないし、それは健全とは言えない」

「私達は最も印象的な外観を持つマイク会社で働いてきました。だから"おっ、こんな見た目のマイクは初めてだ!"って言われることには慣れてる。そして実際に使ってみると、"うわ、見た目以上にいい音だ!"って驚かれるんだよね」

Image: Simon Vinall for MusicTech

「こういう時代錯誤な業界では、居心地の悪さを感じることもあるよ」と彼らは続ける。「でも私達は、この業界がしがみついてきたようなやり方を遥かに超えたデザインをパッケージにできると、確信していたんです」

「まさに白紙のからの挑戦ですよ。再出発。クィアであることを主張することも大きな役割を果たしたと思います。オーディオの世界でそんなことはあり得ないからね」

Ohmaは2種類のマイクを提供しているとも言えるし、無限に近い数のセレクションがあるとも言える。同社は現在、リボンマイクとラージダイアフラムのコンデンサーマイクを1種類ずつ提供しており、どちらも全く同じボディデザインで提供されている。しかし、Ohmaのパターン化されたマグネット式のマイクスクリーンは完全に交換が可能で、両者のオールラウンドなデザインに独自のキャラクターを与えることを目的としている。

現在ラインナップにある5種類のスクリーンは、何十ものデザイン候補から絞り込まれたと謳われており、その結果がこの大胆なトーンシェイプウェポンだ。Motif、Holes、Stripes、Scales、Windowsというシンプルな名称のスクリーンは、この2種類のマイクの可能性を最大限広げる、最もトーンレスポンスの高いサウンドを約束する。

Image: Simon Vinall for MusicTech

例えばスクリーンのHolesはローエンドを減衰させブライトさを強調し、Stripesはエレキギターのような中域のフォーカスに最適。Scalesはダイナミックマイクのようなレスポンスを与え、ニアフィールド・レコーディングにも対応する。

入念に練られた大胆なコンセプト、魅力的なネーミング、そして非常にキュートかつ高級感あふれる外観。しかし実際の音は説得力があるものか?それはGibbs、Rothman、またさらなるOhmaの共同設立者であるNathan Bowersが、R84、R92、そして誰もが知るステレオR88などの名高いマイクロホンを製造する伝説的メーカー、AEAで働いた経験から始まる。

「そこでは多くのことを学べた」とRothmanは説明する。「N8が私達の最初の本格的なプロジェクトだね。世界中をみても、今でもかなり気に入っているマイクの一つです。だけど私達の本当の発明は、KU5Aでした。退社後、私達は"自分たちだけのものを作り出したい。そして自分たちのマイクを見て、これは楽しい、これはクールだと感じてもらいたい"と思った。素敵なギターのようなルックスにしたかったんだ。人はギターの色にこだわるけど、マイクにもそうするべきと思っていた。だから、なにか違うことをしてみたかった」

Image: Simon Vinall for MusicTech

当初はこのバラエティに富んだデザインは考えられていなかった。初期の設計ではマイクとして標準的なメッシュが使われており、この部分を美しく再設計するというプロセスが、スクリーンを交換するアイディアに繋がったという。

Rothmanは続ける。「Charleneは"ねえ、もうワイヤーメタルは見飽きたよ。違うデザインは試せない?ベクターパックはどうかな。他とは似ていない、いい感じのものを1つでも見つけられないか、試してみよう"って言ったんだ。それで40個のデザインを作り、リスニングテストを行った。30は全然ダメだったけどね」

マグネットを使うというアイディアは、手間のかかる修理を嫌ってのアイディアだったという。「とにかくネジが嫌いなんだ」とRothmanは告白する。「見た目も最悪だし。AEAでの、特にRCAマイクの修理はみんなが嫌がってたよ。ネジを外すのがとにかく面倒なんだ!」

「磁石があれば、ネジを外す必要はない。それだけでくっつく。そして別のアイディアも思いついた。"まてよ、ネジがないんだから1つのスクリーンにこだわる必要もない。5つあったっていい。全部のスクリーンに愛すべきところがある!マイクのポリアモリーだ!"ってね笑」

Image: Simon Vinall for MusicTech

そのため、Ohmaは1つのボディデザインと2種類のトランスデューサーの設計だけに集中することが出来た。しかしOhmaが言うような多様性を実現するためには、マイク内部に様々なバリエーションが必要ではないだろうか?実はそうではないらしい。

「AEAでいうと、すべてのリボンマイクはR44と同じリボンを使っています」Rothmanはいう。「多くの会社が数個のカプセルのバリエーションのみを使っており、リボンにおいてもそれは同様です。ですが実際はマイクの前にある素材が異なるので、サウンドも変わってきます。それでいて価格も様々です。AEA R84、R92、N8、N22、R88、R44...これらはすべて同じリボンなんです」

製品を決定づける核となるパーツは、もちろんコンデンサーマイクの世界でも一般的だ。Neumann U47のクローンはたくさん存在するが、その半分は同じカプセルを使用している。Rothmanは説明する。「すべての会社は、言うならば6社くらいある工場からカプセルを購入しているんです。主な違いは、メッシュ、ボディ、回路に現れます。もちろんトランスデューサーも音に影響しますが、最もインパクトが強いのはメッシュです」

Image: Simon Vinall for MusicTech

これらの信条は控えめに言ってとても重要だが、驚くほどあまり知られてない。この交換可能なスクリーンは、皆がマイクに何を求めるべきか、またサウンドを追い求める際にマイクの物理特性がどれだけ影響を与えるのか、効果的に教えてくれる手法の一つだと言える。Ohmaにとって、教育も身近なテーマなのだろうか?

「もちろん」Rothmanは答える。「カプセルかリボンのための小さな部屋のようなものだと考えてください。この部屋はきっと残響が多いかも。でも吸音パネルを貼れば、それを変えられる。これはマイクでも全く同じで、スクリーンを通れば全く違う音になるということなんだ。すごく単純な話だよね。交換可能なスクリーンがあるっていうことはとても価値があることと思うけど、本当にクールなのはこんな設計を今まで誰もマイクでやったことがないということ。つまり100%ユニークなんだ。」

「マイクロホンの微細な音響構造は、確かに音に影響を与えます」Gibbsが加えて話す。「一般の人はマイクを見ると"なんでこんなにいっぱいあるの?なんでこんな見た目なの?"って言います。それは、実際にマイクの音が異なるからですよね。見た目の違いが、そのままキャラクターになる。私達はその要素を、スリムで扱いやすいパッケージに収めたかったのです。そして、その考え方をコンデンサーマイクにも適用しました」

「たくさんのマイクを買い揃える余裕が無かった、若い頃の自分たちへのオマージュでもあります」彼らは続ける。「1本のマイクしか持ってなくて、それですべてを録音しなければいけなかったこともあった。同じ周波数が重なって塗りつぶされてしまうことを、当時は認識してなかったんです。このスクリーンを使えば、1本のマイクで様々なオプションを持つことができる」

親しみを込めて"Debby"と呼ばれるOhma謹製のコンデンサーマイク用カプセルは、マイクロホンの世界では珍しいオリジナルデザインだ。リード線はカプセルの端に取り付けられ、中央チャンバーが無いため、不要な高域が軽減される。その結果同じタイプのラージダイアフラムコンデンサーに期待するよりも、よりスムーズなレスポンスが得られる。Rothmanはマイクメーカーが自社でカプセルを設計・製造することの意義を熱心に伝えているが、実際にサウンドを聴くとすぐ納得できるはずだ。

「世界のおよそ95%のマイクは、基本的に3種類のカプセル設計を使っています」とRothmanはいう。「私達がカプセルの製造を決めたとき、なにか他とは違うオリジナルなことをしたいと思ったんです」

ヒントとなったのは、ミッドセンチュリー時代の業界紙に掲載された手書きの設計図。そこから何年もかけて設計を微調整し、ようやくカプセル設計をテストする準備が整う。

「ヴィンテージがら最近のものまで、50本以上のマイクを1週間かけてレコーディングし、私達のカプセルと比較しました」Rothmanは振り返る。「クールだったのは、私達のカプセルはどのヴィンテージのマイクとも全く異なっていたこと。でも、それはただ違うだけだった。そのときこそ"誰がなんと言おうと、自分たちだけのカプセルを作るんだ”と決意したときですね」

「殆どの企業が自社でカプセルを作っていないのは、その方法を知らないからだね」と彼は続ける。

「ネットで少し探してすぐ出来るようなものではなく、しっかりとやり方を学ばなければならない。僕達は何年もかけて、自分たちで研究してカプセルについて解明しようとした。そして信頼できる師匠と呼べる人に何人か出会って、ようやくやり方を学んだんだ。僕達は自社の中で自分たちで作る方法を知っているから、マイクのコストも想像以上に下げることが出来るんだ」

そしてもうお気づきだろうが、Ohmaのマニフェストにおいて「色」もかなり強い説得力を持っている。

Ohmaのマイクロホンはセラミックをベースに、多種多様なカラーリングと仕上げが手作業で施される。また頻繁に限定カラーも発表し、あらゆる面をカスタマイズできるカラースキームも用意している。希望すれば自分のOhmaに好きなロゴをいれることだって出来る。

GibssはOhmaのウェブサイトで"色彩と、生命力に溢れたマイク"と宣言している。「マイクにおいてカスタマイズ可能なカラーオプションを提供する理由は、まさにそこです。自分が何者であるか、何を支持するかという表明なのです」

Image: Simon Vinall for MusicTech

LGBTが経営する企業であることに誇りを持っているOhmaは、ビジュアルのカスタマイズや自己表現は製品のおまけではなく、必要不可欠な要素として捉えている。

先月のLAのPride Paradeでは、アメリカ人アーティストのJanelle MonaeがACLU(American Civil Liberties Union、アメリカ自由人権協会)をテーマにした、トランスフラッグの鮮烈な青、ピンク、白をあしらったOhmaマイクでパフォーマンスを行った。更にOhamaは現在、クィアアーティストの音楽にスポットを当てる独自のビデオシリーズを展開している。

「私達は、ユーザーが本当に特別と思えるものを作り出し、その価値観やアイデンティティが反映されていると心から感じてほしいのです。」Gibbsは続ける。「ノンバイナリーであることを自認する者として、Ohmaのマイクが提供する流動的な価値観は、私にとって大きな喜びでありやりがいです」

実際に目にすると、とても清々しい。Ohmaはスタジオのマイク棚へだけでなく、レコーディング文化そのものにポジティブに貢献すること重視している。製造工程ででた端材をジュエリーへアップサイクルするビジネスも行っている。これは控えめに言っても、今までのマイクメーカーからは全く見られなかったことだ。

Ohmaは未知への一歩を踏み出したが、これこそが今後来たるべきものの形なのかもしれない。そうであるなら、マイクロホンの未来は過去と同じくらい、尊いものになるだろう。

  • Words by William Stokes
  • 元記事:https://musictech.com/features/interviews/ohma-world-microphone-interview/
  • Ohma Worldブランドページ:https://umbrella-company.jp/brand/ohma-world/
  • Ohma Condenser製品ページ:https://umbrella-company.jp/products/ohma-condenser/
  • Ohma Ribbon製品ページ:https://umbrella-company.jp/products/ohma-ribbon-microphone/
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