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オーストラリアのハンドメイドエフェクターメーカー、Bondi Effects(ボンダイ・エフェクツ)。オーガニックなテイストのSick As Overdrive、トランスペアレント系のBreakers Overdrive、オートモードを搭載した2026 Compressorなどハイクオリティで個性を引き立てるエフェクターが揃うが、今回リリースされた新作は初の空間系!アナログ・ディレイのART VAN DELAYだ。
まずはダークなピンクの筐体がとても目を引く。アナログ・ディレイでこのカラーだと、BOSSやMAXON、IBANEZあたりの80年代のアナログディレイペダルを思い浮かべるが、影響を受けているのは間違いなさそう。ペダルボードに入れても映える素敵なカラーだと思う。
このディレイにはモジュレーションが搭載されているが、ひとまずオフにしてディレイトーンのみチェック。リピート音が甘く飽和していくなんとも言えない気持ちよさ。電子的には劣化して出力されているはずのリピート音が、不思議と心地よいと思ってしまうのは何故なんだろう?リピート音のトーンをコントロールできる機種も多い現代、飽和感の強いディレイトーンのみで勝負してくるのは相当の自信がある証拠。気に入ったら手放せない中毒性が有り、唯一無二の音である。
次に目玉機能でもあるモジュレーション。DEPTHとRATEのコントロールで、リピート音に軽いコーラスから、ピッチベンドを伴うようなビブラートまで調節して掛けることができる。これが言葉にできない浮遊感、心地よさ。特にビブラートの領域まで踏み込むと、テープヘッドが汚れてピッチが不安定になったテープディレイのようなトーンになり、これが「まどろみ感」や「たゆたい感」としか言いようが無い、メランコリックな雰囲気を持っている。
イメージしたのは、ブランド名の元になっているオーストラリア・シドニーのBondi Beachでの浜辺の様子。ジリジリと照りつける太陽、陽炎の向こうで揺れるパラソル、溶けていくソフトクリーム。海でゆらゆらと漂い、現実と夢の境界が曖昧になっていくような。
Chill Wave/Glo-Fiなどと呼ばれるジャンルのアーティスト、Washed Outの音像とこのペダルが目指す世界観にどこか共通点があるように感じた。どちらにも「酩酊」「まどろみ」「ノスタルジー」といったキーワードがぴったり合うと思う。
更にこのペダルの凄いところは、懐古的とも捉えられるアナログ・ディレイペダルを現代の音楽シーンに対応できるよう様々な機能を拡張しているところだ。ディレイタイムは1200msまでと、アナログディレイペダルとしては最長クラス。TAPスイッチで瞬時に目標のテンポに到達できるし、プリセットも2つまで設定できる。MIDIを介してのコントロールにも対応し、その場合は32個にプリセット数が拡張。エクスプレッション・ペダルや外部タップスイッチも接続可能で、すべてのノブからどのノブをエクスプレッション・ペダルで操作するか選ぶことができる。また、外部タップスイッチを接続すると本体のタップスイッチはプリセット切り替えになる、ユーザー目線の仕様。
TAPスイッチを長押しするとFEEDBACKノブがどの位置設定してあっても瞬間的に最大にすることができ、セルフオシレーションまで持っていける。甘いディレイフレーズの中に発振音をスパイスとして加えるなど、イマジネーションを刺激してくれる。TIMEノブの設定によってはなかなか発振しないようにもでき、その場合はリピート音がストレッチしたような雰囲気に。フレーズの合間を埋める使い方も良さそう。
ペダル名の「ART VAN DELAY」はおそらく、海外ドラマシリーズ「となりのサインフェルド」に登場する「ART VANDELAY」(アートヴァンダレイ)が元ネタだろう。登場人物の一人ジョージ・コスタンザは、実際は無職なのに初対面の女性にはよく見られたいので、「自分ではART VANDELAYという建築家で、ART VANDELAY CORPORATIONという会社を経営している」という嘘をたびたびつくエピソードがある。ユーモア溢れるネーミング!
Bondi EffectsのART VAN DELAYは唯一無二の甘いアナログディレイトーンだけでなく、酩酊感をコントロールするようなモジュレーション、そしてモダンなシーンに対応するよう機能を拡張した、まさに今鳴らされるべきアナログディレイペダルと言えるだろう。