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日本の業務音楽スタジオには必ずあるといっても過言ではないモニターヘッドホン SONY MDR-CD900ST。これがないと始まらないくらい定番中の定番です。録音スタジオ以外でも900STでしか体験できないモニターサウンドに人気が集まっています。
モニターヘッドホンは良い演奏をするためにたいへに重要なアイテムです。良い音で録音をするにはまず良い演奏ができる環境を作る事が大切です。良いモニターヘッドホンは演奏者が「リズム」・「ピッチ」・「ハーモニー」を正確に把握でき、自分の演奏パートの役割を明確にします。結果、表現力の豊かな演奏が可能となり、楽曲自体のの完成度を高めます。
SONY MDR-CD900STモニタリングヘッドホンはひじょうにフラットで高解像度、モニターヘッドホンとしての条件を高いレベルで満たしています。
900STに少しだけ手を加えると驚くほどサウンドが良くなります。さらにもう少し手の込んだ事をすると、測定値的にも聴感上でも驚くほどサウンドの向上を達成できます。ぜひお試しください!
一つめは装着感の改善。900STは側圧が弱く、ノリノリで演奏しているとずれてきます。
また側圧が弱いため耳に強く押し付けないと低域がでにくい傾向にあります。
ヘッドバンドの金属部分のここを
こうやって少し曲げてあげます、
↑頑張れば手で曲げられます。
これだけです。
下の写真のように、開いていたイヤーパッド同士がくっつきました。
→
この位に調整すると、フィット感が増しずれにくく演奏に集中できるようになります。また音質面でもイヤーパッドの密着度が増すため、ローエンドがしっかり出て周波数特性をより下まで伸ばす事ができます。
二つめのカスタマイズは難易度が上がりますが、かなり効果的で900STの最大の弱点を解消できます。
その弱点ですが、それはヘッドホンとプラグの間のケーブルです。
なぜ弱点か?このケーブルの中身はL chのホット(+)、R chのホット(+)そしてグラウンドの3芯構造です。このグラウンドは両方のチャンネル共通のコールド(ー)となっていて共通インピーダンスが発生してい ます。ケーブルは細く2.5mありますので導体の抵抗値は無視できません。この共通インピーダンスにより電圧降下が生じてL/R間の混信、クロストークの 原因になっています。しかもその極性は逆位相となって現れます。センター定位の音であれば打ち消し合い、L(またはR)いっぱいに定位した音なら逆相の不 自然に広がった音像になってしまいます。一度混じってしまったら分けるのは不可能です。混ざらないようにするためにはコールドも独立させるのが理想です が、プラグの構造上不可能ですのでこのカスタマイズでできる限り共通インピーダンスを無くす努力をします。
4芯ケーブルを用意しプラグからドライバーユニットまでの配線を独立させます。これであれば共通インピーダンスはプラグだけになりますので条件は大きく改善されます。
使用する4芯ケーブルはブッシングを通すために直径4.0mm以下である必要があります、シールドはあってもなくても構いませんがこの時点で使えるケーブルの選択肢はほとんどありません。
QUATTRO 900 4芯ケーブルは900STのリケーブル・モディファイのためにサウンドや構造を最適化し開発されたケーブルです。
900STを分解し、オリジナルのケーブルを外します。
(↓以下の写真はクリックして拡大表示できます)
↑Lch側を分解したところです。
↑拡大するとこのような配線になっています。
↑配線をすべて外しました。電極の島が3つあります。
オリジナルではドライバーユニットの端子を利用してR chへ配線を渡しているのですが、コールドを独立させるために画像のように一部カットします。
↑精密カッターでカットします。
↑カットするとこのようになります。電極の島が4つになりました。カットが完了したら、画像のように配線し直します。
↑リケーブル配線します。
↑Rchへの渡り線を上写真のように配線します
このケーブルでの色使いは
テスターで導通・絶縁を確認したら組み上げ、完成です。
このモディファイの効果は絶大で900STの狭い音場を劇的に改善しワイドな空間に生まれ変わります。音像もかっちり現れ、定位もはっきり判り、これぞま さにリファレンスモニターヘッドホン。今までの900STもモニターヘッドホンだったのに、この改造バージョンこそがモニターヘッドホンだったのだと気が付きます。
特に低域への効果は特筆すべきものがあります。本来、ケーブルの共通インピーダンス による逆相クロストークで低域はボヤけ、キックのタイミングやベースのピッチは曖昧で演奏者にストレスを与えていました。ケーブルカスタマイズ後は周波数 的な解像度だけでなく、時間的な分解能も大幅に改善されています。リズムや音程も正確に把握でき、さらに自分が楽曲の中でどう演奏すべきかがパーフェクト に見えてきます。これが演奏クオリティを向上させ、結果として、良い音・良い作品につながります。
正に「サウンドが見えてくる」。オリジナルをさらに進化させた素晴らしい音像と音質を「見る」ことができるようになりました。
良いヘッドホンモニター環境を実現するためにはヘッドホンだけでなくヘッドホンアンプも 重要です。最近では各メーカーからたくさんのヘッドホンアンプが発売されていますね。私も過去にいくつかヘッドホンアンプを設計してきましたのでアンブレラカンパニーでも近いうちに作りたいと思っています(販売開始しています!900ST専用のBTL駆動ヘッドホンアンプ BTL-900はこちら)。
実際にカスタマイズのBefore/Afterを比較してみました。
L/Rのセパレーションの向上を確認するためにヘッドホンアンプのL chのみにテスト信号を入力し、ヘッドホンプラグのグラウンドとドライバーユニットのグラウンドの間にどれ位の電圧が発生しているか、周波数をスイープしグラフにしました。
カスタマイズ前のノーマル状態の900STはLRのセパレーション値が -40dB(最初測定した時には「何かの間違いか?」と思ってしまいました。しかしながら、測定方法・測定ポイントは合っている・・・)。 確かに-40dBなのでした。ケーブルの実測抵抗値は1.1Ωでした、1kHzの公称インピーダンスは63Ωだから分圧比 [=1.1Ω/(1.1Ω+63Ω+1.1Ω)]を計算すると約0.017となる。-40dBは1/100、計算値ともほぼ一致するのです。
-40dBのセパレーション値、つまり1/100・・・・とは少々がっかりする数値 です。DAWとかで再現できる方はぜひやってみてください、0dBで音を出して、フェーダーで40dB絞ってください、聞こえますよね?こんなに相互の チャンネル間で漏れが生じているのです。
アナログミキサーのPANポット、どんなお粗末な回路でも60dB以上はアイソレー ションできますし、逆にそれ位はないと使い物になりません。ところが900STではLいっぱいの100にしたつもりが70-80位の定位で聞こえてる事に なってしまいますので音場が狭くなるのは当然です。CDのダイナミックレンジは96dB、40dBのアイソレーションでは到底再現し切れません。
カスタマイズ後の900STは-80~-90dB付近に推移し十分なアイソレーショ ンを得ています。高域にかけて少し悪くなっていますが、これは芯線間の静電結合の影響でしょう。1/100のさらに1/1000で1/100000これだ け稼げれば十分、もう別次元、ヘッドホンの構造上、限界の数値だと思います。実際に音場の広がり、定位の再現性は大きく改善されていますし、そればかりか 奥行き感、時間的な分解能も向上しています。
手間はかかりますが、わずかな材料費でこんなに良くなる、費用対効果を考えるとこの改造をしない理由が見つかりません。作業時間は約一時間、ケーブル配線については少々難易度が高いとは思いますができる方は是非チャレンジしてみてください。
こちらをご覧ください
https://umbrella-company.jp/contents/tag/900st/
改造にチャレンジされる方はどうぞお役立てください。
販売ページはこちら→ http://www.gizmo-music.com/?pid=107349539