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studio foresta レコーディングエンジニア 森田 良紀 様 www.studioforesta.com
★森田さんには以前からよく機材の評価をしていただいてますが、今回はその評価していただいた機材の中から、マイクやコンプレッサーを実際に導入していただきました。以前にギターとボーカルのアコースティックな曲の収録にChandler Limited REDD Microphone、Wes Audio Timbre、SAMAR Audio Design VA37A などを使っていただいて、とても良かったとのお話を伺ったことがありましたが、その時のセッティングや印象などを改めてお聞かせください。
その時はアコースティックギターにはSAMAR Audio Design VA37Aのアクティブタイプのリボンマイクを2本使ってM/Sで、ボーカルにはChandler Limited REDD MicrophoneとコンプレッサーにWes Audio Timbreを使って録ったのですが、その組み合わせで録った音がすごく良かったんです。クライアントも完成した音源を聴いて、是非またレコーディングをお願いしたいと依頼を受けました。 昨年発売されたmooumoonのアコースティックアルバムでも同じようなセッティングで録りまして、マスタリングを担当されたエンジニアの方が「何もやることが無いくらいすごく良いミックス」と言っていたらしいのですが、このマイクやコンプレッサーの組み合わせで録ったことが良かったのだと思っています。 低域から高域までフラットに録れるリボンマイクのVL37AをM/Sで録ったことも良かったと思いますね。この組み合わせは、FULLMOON LIVEというライブ配信でも使いました。
mooumoon アコースティックベストアルバム『moumoon acoustic selection -ACOMOON-』より
moumoon 生配信ライブ『FULLMOON LIVE』より
★ボーカル用に使われたChandler Limited REDD Microphoneは、具体的にどのようなセッティングをされたのですか?
ボーカルはREDD MicrophoneからLINEプリとしてNEVE V1コンソールのノックダウンプリのconisis NVKD01を通しレベルの微調整を行い、その後Tube-tech CL1Bでレシオ2:1程度で薄くかけ、その後ディエッサーとEQとしてEmpirical Labs LilFrEQ、その後にWes Audio Timbreに繋いでいます。 REDD Microphoneのゲインの微調整をする際に、コントロールルームとブースを何度か往復して調整を詰めることは、プレイヤーのパフォーマンスにも影響が出てしまうし効率的に良くないので、それを避けるためにREDD Microphoneから一旦LINEプリを通して調整しました。
★森田さんが感じられたChandler Limited REDD Microphoneの良さは?
まず音のスピード感が早くて語尾のニュアンスもしっかり聴こえるところが良いと思います。他のマイクと比較して優れているところは、アタックをしっかり捕えていることに加えて、余韻もバランス良く捕えていることだと思います。それは「REDD.47マイクプリアンプ」がマイク本体に内蔵されていることによる効果なのか、ボーカリストも「今までに無い歌いやすさだった」という、これまで使ってきた他のマイクでは無かったような素晴らしい評価をしてくれます。
★男性ボーカルにも使われたことはありますか?
男性ボーカルにも使ってみましたが、想像通りの良い印象でしたね。声質によってREDD Microphoneのゲインのセッティングやその後に繋ぐプリアンプとの組み合わせで更に音作りが詰められると思いました。 REDD Microphoneは見た目も良いですよね。レコーディング作業をする上でブースの雰囲気作りも大切と考えているので、その場合にもREDD Microphoneの見た目はプレイヤーのテンションも上がって良いと思いましたね。音については何かのマイクに似ているとか、そういうことは感じられず、他のどのメーカーのマイクにも無かった音である点も、所有する意味のあるマイクと感じています。
★REDD Microphoneの本体には、倍音感を加える「DRIVEスイッチ」が付いていますが、実際に試された印象はいかがでしょうか?
ボーカルを録る際には、まずノーマル(DRIVE OFF)のモードで使って試してみます。ロックなどの倍音を強調してオケに負けないようにしたい場合には、DRIVEモードを使うことがあります。DRIVEモードは、声が張る際に音が歪むように感じた場合でも、オケの中で聴くと気にならず、それよりもオケに負けない力強さが出て説得力が増すような印象を持ちました。 ゲインのコントロールとこのDRIVEスイッチの組み合わせで質感のコントロールを詰められることで、幅広いボーカリストに対応できると思うし、プレイヤー側もモニターがしやすくなる分、演奏にも負担が無くパフォーマンスを発揮できると思うんです。 REDD Microphoneをステレオで使用する機会があったのですが、ドラムのトップへ使用しとても良いテイクを録る事が出来ました。 ドラムなどの出音が大きな音でもREDDの特性が良く出ていて、シンバルなどのアタック感はしっかり録れているのに五月蠅く感じない、とても自然なサウンドでした。まだ1本しか購入出来ていませんが、後々はステレオでも所有したいマイクの一つになりました。
★REDD Microphoneの導入を決められたポイントは何でしょうか。
「歌いやすい」と言ってくれたことが、最終的に購入の一番の決め手になりました。Chandler Limited REDD Microphoneはボーカリストが気に入ってくれるマイクだと思います。
★ありがとうございます。ではWes Audio Timbreについてはいかがでしょうか。
以前にWes AudioのBeta76を試した時にはとても良い印象で、ボーカル録音用のコンプレッサーを探している人にも、1176タイプのコンプレッサーとして迷わずBeta76を薦めているほど良いものでしたね。STA-LEVELタイプのTimbreが新たに発売されることを知ってから、今まで長く使ってきた1176タイプとはまた違う掛かり方のコンプレッサーとして気になっていました。 自分はVari-Muタイプのコンプレッサーを持っていなかったこともあって、購入前にTimbreのデモ機を試して初めて聴いた時には感動しました。導入してからは気に入ってよく使っています。TimbreはビンテージのSTA-LEVELの質感を求めている人には少し印象が違うかもしれないですけど、TimbreはハイファイなWes Audioらしさが感じられて「元気になって存在感を作り出す」ような音を求める人にはすごく合うと思います。 楽曲や使う目的にもよると思いますが、コンプ臭くなく聴きやすく歌いやすいコンプレッサーとして、お薦めできる製品だと思います。
★Wes Audio Timbreはボーカルのレコーディング以外では、どのような楽器の収録に使われていますか?
ベース、アコースティックギターなどにも使っています。薄く掛けたり深く掛けたり、リダクションの具合で印象も変わってきて、音を前に出したい場合に使えますね。ベースの収録時には、サイドチェインの機能がとても便利に使えます。 比較的楽器を選ばずに使えそうに思えますが、特にアコースティックギターの収録時にコンプ臭さを出さずに音を前に出したい場合には、かなり良い仕事をしてくれます。
★ありがとうございます。続いて、SAMAR Audio Design VL37Aについてはいかがでしたか?
VL37Aは昔のリボンマイクとは全然違って、高域から低域までフラットに伸びていて、これでしか録れない耳馴染みの良さと柔らかい質感がありますね。ぱっと聴いた時の印象はリボンマイクなのにハイエンドに伸びがあると感じると思いますが、ローエンドまでバランス良く自然に伸びていることにも気が付くと思います。 またリボンマイクとは思えないS/Nの良さもあるし、コンデンサーマイクでは捉えられないようなローエンドの量感も、邪魔に感じさせずにとても音楽的に捉えてくれて、このマイクもプレイヤーが演奏しやすく感じてくれるようです。
★先ほどのChandler Limited REDD Microphoneをボーカルに使われたFULLMOON LIVEとはまた別の機会に、ボーカルにもSAMAR Audio Design VL37Aを使っていただいたことがありましたね。ボーカルにリボンマイクを使う場合、高域の伸びは敢えて抑えてローエンドの量感を狙うような、敢えてコンデンサーマイクとは違った目的というイメージを持っていましたが、VL37Aを実際にギターやボーカルで使われてみて感じられたことは?
アコースティックギターはプレイヤーが普段聴いている生の音に近く、ボーカルで使った時にも想像していた以上に良かったんです。moumoonの低いトーンの曲では、ボーカルのYUKAさんのローエンドの質感の良さが特に際立って感じられました。リバーブの乗り方が低域の具合までリッチな雰囲気で、コンデンサーマイクとは全然違ってVL37Aでしか録れない良さを感じましたね。こういう静かなアコースティックの曲には、すごく合うと思いました。 使ってみるまでは、ここまでボーカルの雰囲気を良く捉えてくれるとは思っていなくて、実際に採用できるほどの音だとは思っていませんでした。従来の定番コンデンサーマイクとも昔のリボンマイクとも違うイメージで使えるマイクだと思います。 アコースティックギターには補正のEQも殆ど使うことなく、マイキングだけで音作りを詰められそうな、生音とも違和感の無い音で収録できます。暫く時間が経ってから、再度ギターの収録で使ってみた時にも、やっぱり良い!と再認識できたんです。 VL37Aは今まで無かったタイプのリボンマイクで、新しい発想で幅広い楽器の収録に対応できると思うので、是非持っておきたいマイクだと思いました。まだSAMAR Audio Designのリボンマイクの音を聴いたことが無い方でも、動画を観ていただければ「リボンマイクなのにこんな音で録れるんだ!」と思っていただけると思います。
moumoon 生配信ライブ『FULLMOON LIVE 2017 April』より
★ありがとうございます。生音に近い音で収録できるのは、様々な楽器に使えそうなほど魅力的に感じましたが、ボーカルとギター以外の楽器では試されましたか?
先日、ドラムのトップマイクにも使用してみましたが、ドラムキット全体の空気感もしっかり拾いつつ、シンバル系は耳に五月蠅くない自然なサウンドで録音出来ました。普段はライドシンバルにもマイクを立てる事が多いのですが、今回は普段のコンデンサーマイクと同じ様な所にセッティングしているにも関わらず、追加のライド用マイクが必要無いくらいの自然な音のカブリ方で、ミックス時には最終的にライド用マイクは使用しませんでした。マイクを減らせる事で位相の乱れも減る為とても素直なドラムサウンドになったと思います。 また、ミックス時にはVL37Aの自然なサウンド且つ下から上までのワイドレンジな音により、EQとCOMP処理のしかた次第でクリアに聞かせる事もハードに聞かせる事も容易に出来ました。お陰でミックス時間の短縮にも繋がりました。 今後暫くはドラムトップ=VL37Aという組み合わせで録音することが増えそうです。
★お話を伺っていて、森田さんはレコーディングの段階で音をしっかり作り込んで録る、という印象を持ちましたが、最後にレコーディングでこだわっていることがありましたら、お聞かせください。
レコーディングの作業では、いつもできる限りアナログの段階で完成形に近い音に作ってからPro Toolsに録りたいと思っています。A/Dするまでにどれだけ音を作り込むかによって、出来上がった作品の音の仕上がりって全然違ってくるんです。マイクプリでレベルの調整だけしてPro Toolsに録って、プラグインのEQやコンプレッサーなどを使って全て音を作り込んだような素材と比較して、本当に差が大きいんです。 仮に高級なADコンバーターを使っていても、一度A/Dしてしまった音は、その後にインサートでいくら良いハードウェアを挟んだとしても、元の音以上にはならないんです。「録り音が良ければ良い」と聞きますが、それはA/Dされる前に音を作るか、A/Dされた後に音を作るかによって大きな差が出てくると思います。 自分はDAWに収録された素材に対して、少し補正するような目的でプラグインを挟むイメージで使っています。特にプラグインのEQで「カット」するデメリットは少なく感じているので、収録時にハードウェアで少し派手目に作って録ったとしても、もしそこまで必要が無かった場合にはプラグインでカットしながら補正するようにした方が良い結果になるように感じています。 そういう自分の機材の使い方から考えても、Chandler Limited REDD Microphone、Wes Audio Timbre、 Samar Audio Design VL37A、は、積極的に使いたくなるアイテムだと思っています。
★ありがとうございました。
・Chandler Limited REDD Microphone http://umbrella-company.jp/chandlerlimited-redd-microphone.html ・WesAudio Timbre http://umbrella-company.jp/wesaudio-timbre.html ・Samar Audio Design VL37A http://umbrella-company.jp/samaraudiodesign-vl37a.html