クリエイティブな音楽機材の
メディアサイト
Fairchild、Altec、Gates、Universal Audio、RCAを代表とする古き良き時代のVari-Mu真空管コンプレッサーは、現在はManleyでオリジナル製品が製造され、ビンテージの復刻品も一部のメーカーによってハンドメイドされていますが、今回発売されたChandler Limited RS124は、Altec 436を進化させた歴史的銘機「EMI/Abbey Road RS124」を現代のレコーディングに対応できるよう更にアップグレードさせて復刻したVari-Mu真空管コンプレッサーになります。
このRS124を試すまで気になっていたことは、アタックコントロールの追加などによってオリジナルよりも設定幅が広がったことで、様々な音源に対応できるのではないか、ということでした。 オリジナルのRS124には無い、このアタックコントロールによる掛かり具合の柔軟性と、Vari-Muの特長でもあるナチュラルなコンプレッションの可変レシオによる効果も相まって、ベース、ドラム、ギターやボーカルなどにも幅広く使えるかもしれないし、初めて制作用に導入する「一台目のコンプレッサー」としても非常に良い選択肢になるかもしれない、もしかしたらそれだけのポテンシャルが備わっているのでは?と想像していました。 その確認をするために、今回は先日収録したボーカル、ベース、アコースティックギターのポップス系の素材を使い、トラッキング時のイメージで実際にRS124に通してみます。ちなみに元素材のマイクにはNeumann U87Aiを使っていて、マイクプリアンプはAMEKなどの素材もありましたが、今回は敢えて収録で評価の高かったPRE-73DLXを採用してみました。まずはA.ギターから。アルペジオでは通した瞬間に出音がリッチに!PRE-73DLXの若干素直な出音にNEVEのシルキーさとはまた異なる質感を少し加えたイメージです。そしてピークで2~3dB程度のリダクションでも、これ以上深く掛けたくないほど完成されてた気持ちの良い音になりました。アタックとリリースはステップスイッチなので、サクサク切替えながら追い込んでいくと、すぐにアタックはシリアル60050Aのポイント、リリースは2の設定に決まり、心地よい音圧感に。 設定しながら確認していたゲインリダクションのメーターは、掛かり具合にとても忠実に振れているように感じて、針の動きを見ているだけでも音楽的であることが伝わってきます。リリースのカーブが個性的なのも分かりやすく、また設定の幅の広さも確認できました。 リリースでは「Hold」の設定ができるのですが、これは特殊な使い方なので、今回の設定では使いませんでしたが、目的に合わせてとても効果的に使うことができる機能だと思います。 ということで、アルペジオ、ストロークともにA.ギターの設定があっさりと完成しました。オリジナルの素材と是非聴き比べてみてください。このギターの素材で試しただけでも、やはり使い方も限定されずに様々な楽器に使えそうな印象を持ちました。
続いてベースでチェックしてみます。バッシブのベースにPRE-73DLXのDI入力を通した音源です。御大ポール・マッカートニーのベースにも愛用されていたオリジナルのRS124ですが、今回の素材で試すと、やはり通した瞬間に非常に気持ちよい音になり、RS124が作り出す独特のコンプカーブの影響なのか、ムッチリ掛かるタイプのコンプとはまた異なり、アタックからリリースまで自然にコンプがかかり、更に出音に肉付けまでしてくれるようにも感じます。 またこのベースでは試しに積極的に深く掛けてみましたが、どれだけ深く掛けてもポンピングも起きず、ザラつくことも無く、活きたままコンプレッションされるのは、トラッキングでも安心して音楽的に使えるRS124の非常に優れたポイントでしょう。 更にここで"SUPER FUSE"を試してみます。FUSEのスイッチを右に回すだけで、いい具合にアグレッシブさが加わりました!効果的に使い分けできそうな便利な機能です。こちらもコンプの設定は変えずに"SUPER FUSE"のON/OFFの素材をそれぞれ収録したので、実際の音を聞いてみてください!!
続いてボーカルでチェックしてみます。何だか深くコンプを掛けたチェックをしたくなり、ゲインリダクションをこのメーター上でピーク時に12dBほど振らせましたが、そのまま収録しています。アタックはシリアル60050Aのポイント、リリースは3に設定しています。もう少し軽く掛けた素材も収録すれば良かったですが、試してみた感じでは、非常にナチュラル且つ存在感のあるボーカルに仕上げてくれる印象です。 やはり設定も追い込みやすいです。逆にもっと深く掛けた音作りをしたい場合でも、破綻することもなく、程よいコンプ感になるところはさすがだと思いました。仮に1176で同じように掛けたら、RS124ほどの穏やかな掛かり具合にはならないでしょう。
以上、ギターやベース、ボーカルなどモノ素材の収録、トリートメントをイメージしてチェックをしてみましたが、RS124は掛かり具合や質感を含めたサウンドだけでなく、短時間で設定を追い込みやすそうな使い勝手も含めて、安心して積極的に使えるコンプレッサーではないかと感じました。 勿論、ソリッドなコンプではないし当然万能ではありませんが、音楽的に掛けられる点ではドラムのオフマイク、キックやスネア、ブラスやストリングスなど、狙いが嵌ればかなり有効的に活用できるのかな、と思いました。 今回は試せていませんが、アウトプットインピーダンスの切替(200 or 600オーム、今回は600オームを選択)によって音色のコントロールも行えます。また2台のゲインリダクションをリンクすればステレオの素材にも使えます。2台持っていたらかなり贅沢な使い方ができそうですが、1台で十分にトラッキングやトリートメントにお使いいただけるかと思っています。 あとはレコーディングエンジニアさん、クリエイターさんなど、ご興味をいただく方には是非試していただき、ご感想を伺いたいと思います。デモのご依頼をお待ちしております!