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電気的に理想的なアンプ、周波数特性はDC~∞Hzでフラット、ノイズ無し、歪無し、他にも挙げればきりがありませんが<余計な事はしない>のが理想とされます。それは電子的な増幅セクションを持つマイクプリアンプにも言える事で、正しいと思います。GRACE designのように電気・電子的な性能を追求するアプローチからサウンドを極めたすごい製品ももちろんあります。

しかし、これからご紹介するのは違うベクトルでサウンドを極めたすごいやつ。周波数特性はフラットじゃないし、歪だって積極的に利用している。自由な発想で完全に出音にこだわり開発された音楽的で芸術的で魅力的なマイクプリアンプです。CoolでClearでHotでFatでMusicalでCreativeでEasyでHappyで・・・いつも形容する言葉がとても多くなってしまう「CHANDLER LIMITED Germanium Pre Amp」を技術的に検証していきたいと思います。

 

1、ゲルマニウムトランジスタを使った増幅セクション

ゲルマニウムトランジスタは 増幅度の個体差が大きく温度変化にも敏感で、現在主流のシリコントランジスタに比べると電気特性や安定度が劣っていて理想的な増幅素子ではない。ゆえに、ほぼ絶滅状態で入手性も悪い。そんなゲルマニウムトランジスタをなんでわざわざ使用するのか?それは「音に魅力があるから!」ということに尽きます。そうでなければ、こんな扱いづらい物をわざわざ使いません(しかしながら低電圧・高速動作の面では見直されハイパーなコンピュータ分野で研究されているとか)。

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どんな魅力があるかというと、その秘密は「倍音」です。ゲルマニウムトランジスタが理想的な増幅特性ではないために増幅動作に誤差が出てしまうのです。つまり「歪」が生じる訳ですが、音響学的には倍音が付加された状態となり音色変化をもたらします。もちろんシリコントランジスタも理想的な増幅素子ではありませんので倍音は付加されますし、レベルオーバーになればもちろんクリップもしますが、増幅器としてリニアリティを保って使用できる範囲が広く、歪率の小さい電気的に優れたアンプが実現できます。一方、ゲルマニウムトランジスタはリニアに使用できる範囲が狭く、大きなゲインを得ようとすると歪が増えてきます。しかしこの歪の付き方がシリコントランジスタとは違って穏やか、気付かない程度から徐々に増えてくるので倍音としてはとても扱い易く”使える”サウンドの幅が広く「音楽的にちゃんと調和する倍音」が得られるのです。Germanium Pre Ampは、その倍音を操作し多彩なトーンキャラクターを得るための特殊なゲインコントロール方式を採用し、ゲルマニウムトランジスタの魅力を最大限に引き出せるよう設計されているのです。

 

2、ゲインコントロールセクション

マイクプリアンプのコントロールと言えばGAINとOUTPUT VOLUMEとくるのが一般的かと思います。GAINでは初段ヘッドアンプの増幅度を決め、OUTPUTで出力レベルを調整します。ところがGermanium Pre Ampのコントロールは全く手法が異なるのです。Germanium DriveとFeed Backという2つのコントロールの比率でゲインが決まります、同じゲインの値でもそれを実現する比率がいくつも存在し、それぞれが「異なったトーンキャラクター」を生み出すのです。

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このグラフではPADスイッチも交えて、1kHzにおいて50dBゲインが得られるセッティング時の周波数特性&歪率特性を測定しました。

水色のラインはFeed Backを最大にしGAINを調整しレベルをとりました。周波数特性は中高域はフラットに出ています、ローエンドにかけては数十dBの増加が見てとれます。結構持ち上がっていますがその周波数は20Hzです。実際に音を聴いてみますと、楽器音やボーカルなどの音楽ソースではこの帯域は減少傾向にありますので、過剰にブーストされている印象はなく、むしろ存在感が半端ない「芯の強さ」を演出しているのが分かります。

近接効果を利用したマイクロホンのセッティングではローエンドにかけて持ち上がってきますが、同様にこの帯域が充実してくる事で目の前でなっているかのような近い音像を感じる事ができます。全体的に低歪で実体感のリアルなサウンド、そんな傾向を感じます。

chandler-germanium-pre-amp-005黄色のラインはGermanium Driveを最大に、Feed Backでレベルを合わせたパターンです。グラフを見るとハイエンドとローエンドが少しだけ持ち上がっています、下は20Hz、上は20kHzにかけてほんの数dB。音楽ソースだとエネルギー的にあまり含まれていない帯域なのでこのセッティングでもナチュラルな隠し味的な効果が得られます。エンジニアさんのインタビューなどで「エアー感を出すために20kHzをブーストしています」といった記事をご覧になった事があると思います。20kHzまたはそれ以上の帯域はエアーバンドとも称されこの帯域の程よいブーストは文字通りエアー感、解放感を演出する事ができます。

Germanium Pre Ampでの、この黄色のラインのセッティングで得られるハイエンドの持ち上がりは、まさにそれに通じるものがあります。また、倍音の割合を示すTHDは高域にかけて上昇しています、10kHz以上に付加される倍音は20kHz以上ですので、さらなるエアー感を生み出します。ハイサンプルレコーディングであれば、この帯域も扱えますのでとても効果的です。サウンドに広さ、大きさ、艶を与え、アナログの良さを改めて実感できると思います。

赤のラインはINPUTのPADを有効にし、Germanium Pre Ampの増幅度を最大限に大きくとったセッティングのパターンです。周波数特性から見ていきますとハイエンドもローエンドもレベルが低下しているのが分かります。しかし、ただ落ちているのではなく、手前で持ち上がりつつ落ちています。トータルのエネルギー感は保ちつつ帯域を整理しているともいえると思います。THDの割合も全体的に多く出ていますし、出てくるサウンドはパンチの効いたホットなキャラクターを持っています。

ディストーションギターのミュートを効かせた刻みフレーズなどではスピーカーのコーン紙の動きが見えてくるような重圧な箱鳴りも気持ち良く、デジタル音源の取り込みでも倍音とレゾナンスを効かせアナログ感を上手くコントロールできると思います。

ここで挙げた例は結構極端なセッティングですので、Germanium DriveやFeed Backの調整でそれらの中間的な傾向のトーンも細かく調整する事もできます。また、アナログ機器ですので入力側のマイクや楽器機材、出力側のアウトボード機器やオーディオインターフェイスそれらの機器の入力・出力が電子バランスなのかトランスバランスなのか、出力または入力インピーダンスがいかほどなのか、これらの条件の違いでもGermanium Pre Ampのサウンドは変化します。どんな機器と接続するかでも音色をエディットできる「アナログならではの奥深さ」です。

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電子バランス機器に多く見られる高めの入力インピーダンスを再現した100kΩ負荷、古いミキサーやアウトボードに多く見られるトランスバランスの低めのインピーダンスを再現した600Ωで比較してみました。設定はGermanium Drive =4、FeedBack=10のクリアな方のセッティングの例ですが、600Ωでは出力トランスの飽和により倍音が増え、帯域も落ち着きヴィンテージ感たっぷりのガッツリしたトーンへ豹変します。ダミーロード(※)なども合わせて使うと得られるサウンドキャラクターはさらに広がります。

※ダミーロード 低い入力インピーダンスを疑似的に再現する事で出力トランスの飽和によるドライブ感を引き出すことができます。バランス出力のHOT/COLD間に適当な(600Ω程度~数kΩ)抵抗器を取り付ける事で実現できます。簡易的には抵抗器1本だけですのでケーブルのコネクタ部に仕込んでしまっても良いでしょう。BOXを用意して何ポイントか切替できても面白いでしょう。書いていて面白そうなので今度作ってレポートしたいと思います。

こちらはAPI500互換のGermanium 500mk2

こちらはAPI500互換のGermanium 500mk2

 

3、Thickモード

Thickはサウンドの線の太さを演出します、ですがただ太くなるだけではなく、しっかりと実が締まって密度が増すという感じ。このモードをONにするとサウンドがかなりハリのあるムッチリさが出てきます。美脚でくびれもあるがスレンダーすぎるサザエさんを、メリハリBodyの麦わら海賊団の航海士 ナミ に変えてしまうくらいの衝撃があると思います。低域のフィードバックを操作しているかなり強烈な効果で、ゲイン設定や負荷インピーダンスによっては発振し出すほど。少々注意も必要ですが現実的な設定の範囲では全く問題ありません。

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このグラフではTHICKモードをONにしてGermanium DriveとFeedBackの比を変えてみました。ThickモードをOFFで使っても前述しましたようにローエンドは少し持ち上がる傾向を持っていますがONにするとさらにはっきりブースト、いや表現としては共振と言うべきかもしれないローエンドの強調が追加されます。Germanium Driveの割合が小さいほど共振のピークは低い周波数へシフトし共振のQは上昇する。高めのゲイン設定時にはさらに暴力的な低周波振動が得られます。とはいうものの、原音が変化した感じも不思議と少なく、量感や芯の太さはしっかり出て音像がより近くに感じられる気がします、ぜひ積極的に試していただきたいモードです。共振ポイントが20Hzよりも低いところに現れますので直接音に作用すると言うよりはアンビエントやスタジオの鳴りのような”気配”や”気”をブーストしているような印象です。

 

4、トランスバランス入出力

Germanium Pre Ampは入出力にトランスを持っています。ゲルマニウムトランジスタのS/Nをカバーするために入力トランスで音声信号を昇圧して増幅セクションに送ります。トランスはパッシブ素子でありながら交流電圧を増幅する作用を持っています。パッシブなのでノイズレchandler-germanium-pre-amp-006ス。入力トランスだけで10dB以上のゲインを確保し増幅セクションで発生するノイズの影響をとても小さくしています。別筺体の電源ユニットPSU-1で作られたトータル50V以上にもなる電源を使用しGermanium Pre Ampは動作します。内部の信号レベルを大きくとる事で高いS/N比を確保しているのです。

出力トランスはバランス出力信号を作り出すとともに、サウンドメイキングにも積極的に利用されています。トランスは構造上巻き線間に静電容量が寄生しており、高い周波数の特性が制限されます、また、巻き線のインダクタンス、磁気回路の変換ロスなどで低域の限界や歪、扱える信号レベルの限界も存在します。Germanium Pre Ampではその周波数特性の制限や歪と言った部分もサウンドのカラーリングに利用しています。

またトランスを駆動する出力回路の信号レベルがトランスの限界を超えると、倍音が増え周波数特性も狭くなります。トランスの磁気飽和による倍音は3次以上の奇数次倍音を多く含むためサウンドに派手さが増してきますが、磁気飽和が始まるよなレベルであれば磁気回路のスピードも追い付かず、高域はロールオフしてきます。振幅の制限とサウンドの飽和感、テープコンプも同じような理屈で起こりますし、音楽的には重宝される歪といえるでしょう。-10~-20 dB程度のPADを出力に利用するのもお勧めです。

 

5、プロの現場で安定して使用できる品質

増幅素子にゲルマニウムを使う上で不利となる点は素子のばらつき・個体差、S/N、それと温度に対しての安定度ですが、Germanium Pre Ampはその点もきちんとケアされていますのでレコーディング現場でも安心してお使いいただけます。
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素子の個体差は、多段のアンプモジュールを組み、フィードバックをかけて使用しますので回路全体としての素子個々の個体差は十分に小さくなっています。更にその多段アンプモジュールはBLACK BOX内に樹脂で封入され、素子それぞれの温度変化は完全にリンクし、いちど温まってしまえばそこからは安定動作を保つように工夫されています。

S/Nについてもトータル50V以上にもなる電源電圧でシグナルレベルを大きくとる事でシグナル対ノイズの比を大きく稼いでいるので安心です。

Germanium Drive、Feed Back、PAD、THICKなどの独自のコントロールの組み合わせから、実に多彩なトーンキャラクターを生み出す「Germanium Pre Amp」。マイクプリアンプの既成概念にとらわれない自由な発想と、どんな場合でも「数値や理論」より「音楽的なサウンド」を優先させるWade Goeke氏の感性が生み出した傑作。発売からすでに10年近くが経とうとしているがGermanium Pre Ampを超える独創性、音楽的なサウンドを持ったマイクプリアンプは他に登場していない。

 

 

 
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