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Recording プロオーディオ

「リアルワールド・リファレンス」、伝説の小型モニタースピーカー Auratone 5C。

半世紀を超えて甦る“リアルワールド・リファレンス”

Auratone 5C Super Sound Cube――それは、手のひらサイズの小さな木箱でありながら、世界中の音楽スタジオに革命をもたらした伝説的モニタースピーカーだ。

1958年の誕生以来、数多くの名盤制作に使われ、音のプロたちの“耳”として愛され続けてきた。
なぜこのシンプルなキューブが、半世紀以上にわたってスタジオ現場のスタンダードであり続けているのか。その秘密を探る。

スタジオの定番として君臨した小さなボックス

Auratone 5Cの歴史は、創業者ジャック・ウィルソンが1958年に自宅ガレージで製作を始めたところから始まる。木目の小型密閉キャビネットに、わずか4.5インチのフルレンジスピーカーを収めたシンプルな構造。しかしそのサウンドは、まさに「リアルワールド」そのものだった。

1970〜80年代には世界中のレコーディングスタジオに5Cが並び、マイケル・ジャクソンの『スリラー』をはじめ、数々の名盤制作に使用された。ブルース・スウェディーンをはじめとする名エンジニアたちは、あえてこのスピーカーで80%のミックス作業を行ったという。

その理由は明白だ。5Cは“よく聴こえる音”ではなく、“実際にどう聴こえるか”を正直に映し出す鏡だった。

マイケル・ジャクソンの『Off the Wall』『Thriller』『Bad』などのレコーディングエンジニア Bruce Swedienは、Auratone 5Cスピーカーを多用していた。

ごまかしの効かない“正直者”なスピーカー

Auratone 5Cの最大の特徴は、徹底して中域にフォーカスした音作りにある。ツイーターもクロスオーバー回路も存在しないシングルユニット設計により、位相の乱れが極端に少なく、ボーカルやギター、スネアといった“楽曲の核”となる帯域が浮き彫りになる。

低域と高域は思い切って切り捨てられており、再生帯域は公称で75Hz〜15kHz程度。だがこの“帯域の制限”こそが、むしろAuratoneの武器だった。不要な共振や美化を排除し、曖昧なミックスでは簡単にバランスが崩れてしまう。まるで「何が重要な音か早く決めろ」と問いかけてくるような、最も信頼できるチェック用スピーカーとして、多くのエンジニアが頼りにしてきた。

ステレオでの確認用モニターとしてのインストール以外にも、センターに1本配置してキックやスネア、ベース、ボーカルなどの確認に使用したり、Mixでボーカルのレベルのオートメーションを書く際に利用するエンジニアも多い。まさにバランスツール!

技術ではなく、哲学で選ばれるモニター

5Cは音響設計というよりも、「思想」で作られたモニターだ。一般家庭のオーディオ環境に近い条件でミックスのバランスを判断するための“リアルワールド・リファレンス”。「この箱でしっかり聴こえるものは、どんな再生環境でも埋もれない」という信頼感は、プロにとってかけがえのないツールだった。

実際、5Cを使い始めたことでミックスの中域が明確になり、ボーカルやスネアの定位が安定したと語るエンジニアは多い。見た目は地味で装飾性もないが、音楽の核心に迫る上での“真のパートナー”として、世界中で支持されてきたのだ。

5CはTaylor Swift、The Black Keys、Adele、Lady Gaga、U2、Ed Sheeran、Coldplayなど、数多くのトップアーティストの作品で使用され続けている。Electric Lady StudiosのTom Elmhirst(写真:左)は「Auratoneは私のキャリアを通じてモニタリングの中心であり、ミキシングに欠かせない存在」と語る。(写真:右)は1980年代のPaul McCartneyと古い5Cだ。

再び、現場のスタンダードへ

2000年代に一時生産が止まったAuratone 5Cだが、創業者の孫であるアレックス・ジェイコブセンにより2010年代に復活。1980年代モデルの設計思想を受け継ぎつつ、現代のパーツでチューニングされた“新生5C”は、レンジがわずかに広がりながらも中域のキャラクターは忠実に再現されている。

「ヴィンテージよりもクリアで、でも“あの音”はそのまま」とプロも太鼓判を押し、再びスタジオの標準モニターとして息を吹き返した。

2022年にはアクティブタイプの5C Active Super Sound Cubeも登場し、現代的な制作環境にも適応した。

従来のようなパッシブでの利用に最適化されたAuratoneブランドのパワーアンプ "A2-30"も発売になっている。気鋭のプロオーディオブランドBettermaker社が丁寧に開発した完璧なパワーアンプである。

また、余談にはなるが、Auratone社はスタジオの倉庫に眠っている5Cスピーカーを救うために、ドライバーユニットの提供も開始している。現オーナーのアレックスによると「1980年代に製造されたものでドライバーユニットがネジで固定されており、円状のドライバーユニットのものである場合は多くが適合する(適合しないものもある)。1970年代に製造されたモデルは適合しない場合が多い」とのこと。スタジオレコーディングの歴史を支えた往年の5Cスピーカーに、もう一度命を吹き込みたい方は、一度試してみる価値がありそうだ。

進化するオーラトーン。左からアンプ内蔵のパワード5C、パッシブ5Cに最適化された専用アンプA2-30、交換用の5Cドライバユニット

終わりに:小さな箱に宿った本質

「小さなモニターで大きく鳴らせ」。これは音楽制作の現場で語り継がれる逆説的な教えだ。そしてAuratone 5Cは、その言葉を完璧に体現している存在だ。

華やかさはない。だが、耳に届くその音は誠実で、厳しく、どこまでもリアル。大切なものを選び抜くための道具として、Auratone 5Cはこれからも音の本質を問い続けるに違いない。小さな木箱に詰まっているのは、半世紀以上にわたる職人たちの知恵と、音を愛するすべての人へのメッセージなのだ。

オーラトーン社の輝かしいファミリーツリー。現在は創業者ジャック・ウィルソンの孫であるアレックス・ジェイコブセン氏がその伝統を受け継いでいる。Auratoneはオーディオ技術の進歩に大きく貢献したことが評価され、NAMMテクノロジーの殿堂入りも果たしている。ちなみに、モノクロのAuratone広告に登場しているのは、アレックス氏の母親だとか!

◎ AURATONE:日本語ホームページ

https://umbrella-company.jp/brand/auratone/

AURATONE:導入事例など記事一覧

https://umbrella-company.jp/contents/tag/auratone/

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