クリエイティブな音楽機材の
メディアサイト
2019年4月に発売開始されて以来、ますます販売数が伸びているEmpress Effectsのモジュラー・ペダル・システム「ZOIA」。発売から1年以上が経過した現在、ギターペダルを取り巻く状況も変化しつつあり、ユーザーが求める製品にも変化が感じられるように思います。これはもしかするとコロナウィルスによる社会や生活の変化、音楽の在り方の変化にも関連しているのかもしれません。本記事執筆時点の2020年9月現在、まだ思うようにライブコンサートやイベントは行うことができずにいます。音楽をクリエイトすることがより家や小空間にシフトした事で、多くの音楽が自分一人で展開して拡げやすいアンビエント系や、より複雑な構造を追求したトラックなどに繋がっているのかもしれません。ホームから遠くの風景へ、ホームから宇宙空間へ。弊社取扱いの製品でもChase Bliss AudioのM O O D、BLOOPERなどのグラニュラー/ルーパー系、Cooper FxのOutward V2やArcadesなどのメランコリーな空間系エフェクト、Max/MSPのランダマイズグリッチ/スタッターエフェクトが再現されたtkogのminiglitchなどの販売数が急激に増えました。バンドサウンドとはまた異なる、自宅で追求できるサウンドスケープがこのステイホーム期間とシンクロしたかのようです。
ZOIAが最初にNAMMで披露されたのが2018年の1月(https://umbrella-company.jp/contents/empress-effects-zoia-preview/)、実際に発売開始されたのは2019年4月と、実に1年以上待たされたことになります。 マルチエフェクターであると同時に、壮大なモジュラー・シンセサイザーでもあるという従来にはなかったコンセプトは、Empressの創業者でありペダル界を代表する天才的なオタクである"スティーブ・ブラッグ"の想像を絶する努力から生まれた製品です。気が遠くなるようなコード開発はもちろん、それを束ねていく音楽的なセンス(いくらコードが書けても優秀な音楽機材は作れません!)、そしてこのとてつもなく大きなプロジェクトを完成させるための優秀なエンジニア集団のチーム力があってこそZOIAという大作が完成したと言えます。
↑ 動画は深夜にソースコードを書き続けたスティーブとゾイアのトゥルー・ストーリー!
このペダルが最初に発表されたとき、私たちはNAMMの会場でこのペダルにはじめて触れましたが、その際にスティーブはこのペダルをどうユーザーに説明すべきか迷っているようでした。ギターペダルだけどモジュラーシンセサイザー、ルーパー、サンプラーにもなる、コントローラーにもなるしインテリアにもなる!そこでスティーブが使った表現が「電子楽器のLEGO」というキャッチコピーだったように思います(数年後の2020年のEmpress EffectsのNAMMブースは巨大なLEGOブースだった!)。
↑NAMM2020の会場にて。巨大レゴで作られたブースと疲労困憊し瞑想しながらうなだれる筆者。
ここ数年でモジュラーシンセサイザーは大きなムーブメントとなっていて、ヨーロッパの"Superbooth"を筆頭に世界各地でモジュラーシンセの展示会やイベントが行われるようになりました。ここ日本でも"Modular Festival of Tokyo"などのイベントが開催されており、イベントの規模も年々大きくなっているようです(今年はコロナウィルスの影響で難しそうですが)。 ただギタリストにとってはモジュラーシンセというジャンルは遠い存在で、あまり興味を持つ対象にはないように思います。「ZOIAがギターペダルだけどシンセサイザーにもなるよ」というだけの存在だったら、多くの人は興味を持たないと思います。では何故ZOIAがこれだけ熱狂的に市場に迎え入れられ、さらにロングヒットを続けているかの大きな理由は「モジュラー」という部分にあると思います。もう少し分かりやすく書くと「モジュラーシンセの発想をギターペダルに統合した単体のハードウェア」という部分が、今までになかった音楽制作機材として支持を得たのだと思います。
まず最初に書いておくべきは、Empress Effects ZOIAはまず第一にマルチエフェクターである点です。コンプやリバーブ、コーラスやディレイ、オーバードライブからアンプシミュレーターまで一通りのエフェクターを自由に並べたバーチャル・ペダルボードをZOIAだけで作れます。さらにフットスイッチに自分の好きな機能を割り当てたり(例:タップテンポ)もできます。みなさんが良く知っているマルチエフェクターと一緒です。特にEmprerssのリバーブやディレイ、コーラスなどの空間系はアルゴリズムと音質に評価がとても高いため、それらがこのコンパクトなZOIAの中に詰まっていると思えば、それだけでもかなりお得感が高いと思います。 ZOIAは、このベーシックな「マルチエフェクター」としての機能に加えて、「モジュラーシンセ」の機能が追加されています。単純にモジュラーシンセといえば「音作りの為に沢山のパッチケーブルを接続してシンセ音を作る巨大なシステム」のように思われる方が多いかもしれません。それはもちろん間違ってはいないです。でも、もう少し拡げた解釈をすると「沢山あるモジュールを組み合わせて理想のサウンドを作り上げるシステム」と言い換えても大丈夫そうです。この沢山ある「モジュール」がZOIAの中に嫌というほど入っています(笑)。「モジュール」はそれ単体で成り立っている「エフェクター」とは異なります。「複数のモジュールのコンビネーションでエフェクターを構成している」というイメージでしょうか。もちろんシンセサイザーやコントローラーも「モジュール」を組み合わせて「作れます」。エフェクターとかシンセサイザーを作る「素」みたいに捉えると分かりやすかもしれません。料理を作る「材料」ともいえるかもしれません。
以下の図は全然関係ない某ドラムシンセサイザーの資料からですが、OSCやFILTER、LFOとか色々書いてある四角いボックスが「モジュール」です。このように音を出すモジュール、フィルターをかけるモジュール、音を大きくするアンプモジュール、変調(モジュレーション)するLFOなんかが並んでいますね。ZOIAにはこんな感じの四角い箱が「嫌」というほどあります。そして各モジュールにはいろんなパラメーターがあって、いろんな要素をコントロールできます。
このあたりが理解できてくるとZOIAの魅力がじわじわ分かってきます。そうです、ZOIAは既存の「エフェクター」を並べるだけのマルチエフェクターではなく、ユーザーが自分で「エフェクターをデザインできる」機材なのです!「モジュール」を組み合わせてエフェクターを作れます。今までは単体の機能を持つエフェクターの中から気に入った1つを購入することがエフェクターの楽しみ方だったのが、ZOIAの登場によって「欲しいエフェクターは自分で作る」という新しいムーブメントが生まれたといっても過言ではないと思います。もちろんアナログ部品の組合せでオーガニックなトーンを作り出すアナログの歪ペダルやファズなんかは、本物のアナログ回路でしか作りようのないものだと思うので別に考える必要がありますが、特に空間系や揺れ/補正系、リバーブやディレイ系のエフェクト、さらに近年のペダル界のトピックの一つでもあるアンビエント、グリッチ系などのエフェクトはZOIAを応用すればかなりのバリエーションを自分でデザインして、それを演奏することができます。 さて「モジュール」です。モジュラーシンセサイザーはこの「モジュール」が沢山集まったものです。モジュールを一個買っただけでは音がでないか、ピィーとか音がでるだけです。だから沢山モジュールがないとなかなか色々できなくてあまり楽しくないかもしれません。何と何を組み合わせたらどんな事ができるのかとあれやこれやと考えるのは楽しいのですが、じゃあこのモジュール全部購入しようと計算機をはじくと・・なかなか高価になるので踏み込めないというパターンも良くあるようです。だからこそモジュラーシンセは敷居が高いなんて思われがちなのかもしれないです。でも最近ではとても買いやすいモジュラーのセットがあったり、セミモジュラーと呼ばれるある程度のモジュール構成があらかじめ1台にまとめられていて購入しやすいモデルも沢山あるのでそのようなモデルから入門するのも良いと思います。
モジュールは使用する目的によって本当に沢山存在しています。シンセサイザーの場合はまずオシレーター(発振器)とうのが代表的なモジュールです。ピーとかビィーとかポーとか波形によっていくつかの音がでて、さらにピッチが変えられます。違うモジュールからCV信号というのを受けると自動で音程や音色なんかを変えられたりします。ZOIAにももちろんオシレーター・モジュールがありますが、ギター用のエフェクターで使う場合にはあまり使いません(シンセとして使う場合は必ず使います)。 ここでは沢山あるモジュールの中からVCA(アンプ)とLFO(低周波オシレーター)でトレモロエフェクターを簡単に説明してみましょう。ZOIAにインプットモジュールとアウトプットモジュールを置いて、その間にVCA(アンプ)を置いて、LFO(低周波オシレーター)をVCAにつないであげるだけです。LFOというのはLow Frerquency Oscillatorの略で、その名の通り低い周波数の発振器です。あんまり低い帯域なので人間の耳では聴こえなかったりもします。波形もいろいろ選べます。以下のイラストのようなやつです。
このようにLFOとCVとか呼ばれている信号が、何らかのモジュールのパラメーターに影響を与える事を、一般に「変調する」とか「モジュレートする」とか言います。イメージとしては直立不動で立ちながら歌っている3年2組の阿部ちゃんを、2年3組の野々山貝さんが激しく揺さぶるといったイメージです。揺さぶられながらも歌う阿部ちゃんはもちろんその影響を受けて音程や音量がユラユラしてしまい声のピッチや音量が上下しています。さらに阿部ちゃんをぐるぐる回してみるとドップラー効果が発生してロータリスピーカーのような揺らぎが発生しましたが阿部ちゃんは目を回してしまいました。最後にどついてみるとノイズのような奇声を発していますね。ごめんね阿部ちゃん。2年3組の野々山貝さんが阿部ちゃんの声や三半規管をモジュレートしたとも言えるでしょう。 VCAはボルテージ(V)で、コントロールされる(C)、アンプ(A)、という意味で、このトレモロの例ではLFOのボルテージ(電圧)が大きい時にはアンプの音を大きくして、小さければアンプの音を絞ります。オーディオ装置のボリュームノブを手で上げたり、下げたりしているのを、LFO信号が自動でやってくれているイメージです。LFOのスピードが速くなれば高速に音量が上がったり、下がったりします。ゆっくりなら低速に上げ下げされます。上がったり下がったりのカーブが複雑なコントロール信号になれば上下にぐちゃぐちゃに音量が上がり下がりしますね。このコントロール信号というのが皆さん良く耳にするCVってやつです。Contorol VoltageでCVですね。 説明しながらでしたが、もうあなたはZOIAでどうやってトレモロエフェクターを設計できるかが分かってしまいました!必要なモジュールを設置して、それをつなぎ合わせるだけです!これ以上説明しだすと本になってしまうので、モジュールについてはこのくらいにしておきます。ZOIAには以下の説明書リンクにあるように考えられるほぼ全部のモジュールが「嫌」になるほど入っています。そして「嫌」と言われようともモジュールはファームウェア・アップデートの度に増え続けています。そして「嫌よ嫌よも好きのうち」という有名な言葉のようにモジュールが増えていくほどに徐々に快感が増していくのです。これは実機のモジュラーシンセでもZOIAでも同じ傾向にあると思われます。「沼」という表現もよくされているようですが、ZOIAの場合にはモジュラーが増えても出費がないためそれほどの沼感はありません。
★Empress Effects 製品マニュアル https://umbrella-company.jp/manuals/empress-effects_zoia_manual.pdf
もう知識さえあれば何でも作れてしまう気分になるのがZOIAです。モジュールについて知れば知るほど、それを応用してアレもコレもできる事に気が付きます。そしてもしモジュラーシンセの実機でこれらのモジュールを全部買ったら・・・あなたの家のリビングルームの壁が全部モジュラーシンセになってしまうかもしれません。でもZOIAはこんなに小さいです(ディスプレイも小さいです!眼を鍛えるか、老眼鏡を買ってください!)。 もちろん自分で作るのは面倒だ、そういったややこしい事は嫌いだ、俺はキャベツの千切りだってやらないんだ、という人にも良いニュースがあります。 ZOIAの新しいパッチがユーザーコミュニティーで大量にシェアされています!ごく一部を除いてほぼ全て「タダ」で入手できます。つまり自分で作らない派のZOIAユーザーは誰かが作ったパッチをZOIAに読み込ませれば(SDカードで簡単にPCからZOIAにパッチを移せます)、もうこれからずっとパッチを呼び込ませるたびに新しいエフェクターを手に入れた気分が味わえます。間違いなくお金の節約にもなります。シェアパッチを自分で改造したっていいです。プログラミングみたいな暗号のようなコードをPCで書く必要もなく、誰でも簡単にモジュールを入れ替えたり、パラメーターの値を変更する事ができます。もちろんパッチの移動作業以外でPCを使うこともありません。ZOIAだけで全部できます。でもディスプレイの文字は小さいです。筆者のように老眼がキている人は頑張るしかないです。なんとかなります。見ようと思えば人間見えるものです。
弊社の技術担当がZOIAのモジュールを1つずつ説明したり実演したり、特定のエフェクターを実際に作ってみる動画などを色々アップしています。「ZOIA大学」などのタイトルでも公開していますので、ぜひ以下のリンクをチェックしてみてください! https://umbrella-company.jp/contents/tag/zoia-tutorial/