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Guitar ギター&エフェクター

「トレモロで音が太くなる?」技術的に分析。

トレモロで音が太くなる?

先日アンブレラのとあるコミュニティスペースで、「トレモロをかけるだけで音が太くなる」という話題が上がりました。

とあるアーティスト/エンジニアの方は、トレモロをかけた瞬間に「今まで鳴っていなかったローがアンプや部屋を揺らしてトリッピーな感覚になったことが何度も」あるとのこと。
このトレモロの現象について、「太さや艶感を出すためのデバイスとして見直してみるのもアリかも」など、しばらく話が盛り上がりました。

確かにDEMETER TRM-1Empress Effects Tremolo2を触ってみると、甘美なローエンドが加わり、どこか音が太くなったように思えます。

しかし、トレモロは周期的に音量を上下させるエフェクトです。ボリュームつまみをクリクリと周期的に回しているだけなのに、音色的な変化が生まれるのはまったく不思議。思わず自分の耳を疑ってしまいます。

そこで今回、この現象の仕組みを技術的に分析してみました。
音を聞くということの面白さが詰まった結果になったので、ぜひ最後までご覧ください。

Tremolo2(左)とTRM-1(右)

トレモロが生み出す成分と“うなり”

まずトレモロでは、入力された音の振幅を周期的に変化させる、振幅変調をかける回路を応用しています。
振幅変調をかけると、入力信号の周波数成分と、変調信号の周波数と入力信号の周波数の和の周波数と差の周波数が現れます。

例えば1000Hzの入力に、5Hzのレイトのトレモロをかけるとします。すると1000Hzに加え、995Hzと1005Hzが生成されます。
つまりトレモロを使うと、入力された音の周波数に近い周波数成分が加わるのです。

ところで、近い周波数を同時に聞くと「うなり」という現象が現れます。
このうなりの身近な例が、ハーモニクスを利用したギターのチューニングの「うわんうわん」です。
ペグを回しチューニングが合ってくると「うわんうわん」から「うわーんうわーん」
さらに「うわーーーーん」からの「わーーーーー」でぴったり。周波数が同じになり、うなりがなくなります。

このうなりの周期は2つの音の周波数の差の周波数になります。つまり二つのハーモニクスが5Hzずれていれば、5Hzの「うわんうわん」を聞く事になります。
しかし人間の可聴域は広くても20Hz-20kHzです。5Hzは可聴帯域より低いので、それ自体を聞くことはできません。実際にここで聞いているのは、可聴帯域で鳴っている2つのハーモニクス音のみです。
つまり、このうなりが“聞こえる”というのは、正確には5Hzで音が変化する周期を感じている、という事になります。

トレモロを含むOld Blood Noise Endeavorsペダル
左からVisitor, Procession, Whitecap

私たちが“聞いている”トレモロの正体

トレモロでも同様のしくみで、私たちは音量が変化する周期を感じています。
先の例では、入力信号の周波数1000Hzに対し、5Hzのレイトのトレモロにより995Hzと1005Hzが生成されました。
ここでは、それらを同時に聞いたときの5Hzのうなりを感じています(それと995Hzと1005Hzの差の10Hzも少し)。

これを人間は5Hzという超々低周波が聞こえていると錯覚・錯聴し、音が太くなったと感じていると言えるのではないでしょうか。

それでは、うなりの周期が可聴域内の周波数だった場合はどうなるのでしょうか?
ここで一つ、1000Hzの正弦波を、LFOレイト40Hzの正弦波で変調した場合の音声ファイルを聞いてみてください。

音を聞くと低い音が混ざって聞こえると思います。正弦波ではないけど40Hz 、80Hzあたりの低周波成分を感じられます。
40Hzなら聞こえる範囲だし、聞こえても不思議ではない。

ここでFFT解析波形を観察してみると、1000Hzと変調によって現れた960Hzと1040Hzが見えます。
しかし、音声で感じていた低い音の成分、その帯域にシグナルの成分は確認できません。
やはりこれも、1000Hzと960Hz、1040Hzとで生まれた“うなり”により低周波成分を錯覚していると考えて良さそうです。

聞こえていない音が音を太くする

可聴域外の音が音色に作用するというのは何とも不思議ですが、その分いろいろ可能性もありそうです。
例えばトレモロの周期をさらにLFOで連続的に動かしてみるとか、サンプリングレートを落として疑似的に可聴域を狭めてみても面白そうですね。
先述のコミュニティスペースでは、「聴こえないけど音が太くなるブースターができるかも」というような声も上がっていました。

“うなり”は、言うなれば鳴っていないので聞こえていない、けど感じている音。
トレモロは音量変化でこの“うなり”を生み出し、音を太く聴かせるエフェクトであるとも言えるでしょう。
そう考えると、トレモロを踏む場面も増えてきそうですね。

皆さんもトレモロで、「聞こえていない音で音を太くする」体験をしてみてはいかがでしょうか。

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