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BTL-900
テクニカルガイド

BTL-900 Technical Guide

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BTL-900はリズム・音程・強弱をしっかりと把握でき、自分が楽曲のなかでどう表現するかを演奏に反映し、より芸術性を高めるために最適なモニターヘッドホンアンプです。

ヘッドホンの欠点をクリアしたBTL(Bridge Tied Load)駆動方式を採用した高音質再生や高品位なボリュームコントロールなど、この頁ではUmbrella Company BTL-900の高品位なモニターサウンドの秘密をを技術的に解説していきます。


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BTL-900で採用したBTL駆動の動作原理はスピーカーのBTL駆動そのものです。スピーカーでBTL駆動を採用する目的は出力パワーを稼ぐ事ですが、ヘッドホンアンプでのBTL駆動を採用する理由は異なります。L Hot/L Cold、R Hot/R ColdとL/Rを完全に独立した状態で駆動する事、そこから生まれるこの大きなメリット【L/Rの共通インピーダンスの排除】 と 【グラウンド電位の安定状態を保つ】によってヘッドホンのサウンドは大幅に向上するのです。他にも、スルーレート(波形の変化のスピード)の向上、逆起電力の影響を抑制、電源電圧変動除去能力の向上などBTL駆動の利点は多くあり、その全てがサウンドの向上に貢献します。中でも特に「演奏用のモニターヘッドホンアンプ」にとって【L/Rの共通インピーダンスの排除】 と 【グラウンド電位の安定化】 は大いなる利点となります。




 L/Rの共通インピーダンスの排除

通常のヘッドホンは三極のフォンプラグとジャックでコネクションを行います。割り当てられる信号はL信号とR信号、そして共通のグラウンドです。この共通となったグラウンドはLチャンネルとRチャンネルの共通インピーダンスであり、クロストーク性能を悪化させる原因となっています。フォンプラグ&ジャックでのコネクションを使用する限りこの問題は決して解決できません。

B点は回路図上ではグラウンド電位ですが、実際にはケーブルは数オームの抵抗値を持つためB点にLchの信号電圧が発生する。これをRchのドライバーユニットから見ると位相が反転した信号がRchには加わる。つまり逆相でクロストークする状態になります。


以前に弊社コンテンツでも紹介いたしましたシングルエンドの4芯セパレート配線改造では、共通インピーダンスを大幅に排除する事ができ、性能も大幅に改善できます。しかしフォンプラグ&ジャックのコネクションであるためその部分に共通インピーダンスは残ってしまいます。


BTL駆動では+(HOT)と-(COLD)のアンプでプッシュ/プル駆動をします。LとRの経路が完全に独立していますので、信号が漏れる経路がありません。これにより従来のフォンプラグ&ジャックで行うコネクションの最大の欠点から解放されます。このコネクション方式は、クロストークの要因である共通インピーダンスが信号経路に存在せず、クロストーク性能・チャンネルセパレーションを桁違いに向上させています。

BTL-900のBTL駆動ではヘッドホンとのコネクションに4pin XLRコネクターを使用し、L/Rの信号をドライバーユニットまで完全に独立した状態で駆動する事ができます。(※ヘッドホンをモディファイする必要があります。)


【検証:チャンネルセパレーション】


BTL駆動と標準の駆動方式のチャンネル・セパレーションを実測してみます。

Rchのみに信号を与え、信号を加えていないL chに発生する信号を測定する事でチャンネルセパレーションを確認できます。今回はヘッドホンのケーブルの影響まで含めた本当のチャンネルセパレーションを確認したいので、少し工夫が必要です。写真のような簡単な測定治具を用意しました、この治具をL chのドライバーユニットの電極にハンダ付けし測定器へ接続します。

測定はR chに0dBuの信号電圧が加わるようにレベルを調整し、信号が加わっていないL chのレベルを測定しました。0dBuを基準レベルとしましたので測定結果をそのままチャンネルセパレーションの値として読むことができます。



測定結果 1、水色 = BTL駆動 / 2、緑 = シングルエンド(ノーマル) 3、黄色 = R chの基準レベル 4、
赤 = アンプのチャンネルセパレーション

まず、緑色のシングルエンド(ノーマル)から見ていきますと全体域にわたって-44dBuほどとなっており、R chに与えた信号の0.6%がL chに漏れている事になります。赤のアンプの性能との差は56dB=600倍、大幅に劣る値です。グラフのラインが全帯域にわたって均一な値である事から、抵抗成分の共通インピーダンスが支配的であると判断できますのでヘッドホンケーブルの抵抗値が大きく影響している事を裏付ける事ができました。3芯ヘッドホンケーブルの性能の限界をお解かりいただけたと思います。

次に水色のBTL駆動の測定結果についてですが、-96~-94dBu辺りパーセンテージで表すと0.0016~0.002%となる値で、シングルエンド駆動と比べると300倍以上のセパレーションを達成している事が分かります。グラフを見ますと値が少し上下しているのが分かると思いますが実は測定が思ったより難しく、と言うのは測定対象のL chのドライバーユニットが部屋の暗騒音や測定のために鳴らしているR chが出す音を拾い電気信号へ変換つまりダイナミックマイクとして作用しており、その信号が測定誤差の原因となっていたのです。厳密にはドライバーユニットを隔離し無響室で測定するべきですが、そんな設備は簡単に用意できませんので、R chのユニットは毛布でくるみ、他の社員が帰った後の静かなタイミングで計測を行いましが、それでも暗騒音の影響は残ってしまいましたので測定誤差となって現れています。-80、-90dBuほどの小さなものですのでシングルエンドを測定した時は電気的な漏れ信号に比べて、それが無視できる程度の割合だったために問題にはならなかった訳ですが、BTL駆動では、暗騒音が計測結果に影響を与えるレベル性能を達成している事がお分かりいただけると思います。測定結果のデータのふらつきもこの暗騒音が影響し測定誤差となったと判断できます。暗騒音の影響がなければ、アンプのセパレーション性能 -100dBu とほぼ近い値となったと考えても良いかもしれません。




 グラウンド電位の安定化

グラウンドは、電子回路上で動作の基準となる電位であり、理想のグラウンドは全ての周波数帯域でインピーダンスが0Ω、つまりいかなる場合でも電位の変動はない状態となります。しかし現実にはインピーダンスが0Ωのグラウンドは作る事ができません。一点グラウンドやベタグラウンドは、グラウンド電位の変動の干渉を抑えるため、グラウンドのインピーダンスを下げる手法でありグラウンド電位の安定のために効果的ですが、BTL駆動ではそもそものグラウンド電位の変動を軽減できるためグラウンド電位を安定状態に保つ有効な方式です。


シングルエンド駆動では、グラウンドは基準電位としての役割のほかに、駆動電流を流し込むリターン経路としての役割を兼ねています。実際の基板上のグラウンドのインピーダンスは理想である0Ωではありませんので電流が流れれば電圧が発生し、それがグラウンド電位を変動させる原因となり、基準電位としての役割を保てなくなります。電流が大きいほどグラウンド電位を大きく変動させます、ヘッドホンを駆動する電流は比較的大きいため影響も大きくなります。


BTL駆動ではHot側のアンプが吐き出した電流は全てCold側のアンプが吸い込みますのでグラウンドに負荷を駆動する大きな電流が流れません。音声信号の基準となるグラウンド電位をクリーンに安定した状態を保ち、入力信号波形に忠実なヘッドホンドライブを実現し、高解像度で正確なダイナミクスを再現します。


【検証:グラウンド電位の変化】


グラウンド電流はヘッドホンのドライバー付近で見れば逆相クロストークの原因に結びつきます。また、ヘッドホンアンプの内部で考えた場合はグラウンド電位、つまり基準電位の安定性を左右する要素でもあります。今度の検証はそれを確認するために、実際に900STを駆動し基板中央付近のグラウンドと出力端子直近のグラウンドの間に観測ポイントを置きテストしました。

900STを負荷に、0dBuを出力した時にシングルエンド出力では出力コネクター付近のグラウンドに-93dBuの電圧が確認できました。



これは入力信号と同じ周波数である事、ボリュームの上下にレベルが反応する事から駆動電流が流れる事で発生する電圧である事は間違いなさそうです。数値としては、わずか1/45,000ではありますが出力電流による電位の変動として確認できました。基準電位としてのグラウンドの役割を保つことができていない事が分かります。

BTL駆動では数値上 -106dBu でしたが信号波形は観測できず、ボリュームの上下にも変化はありませんでした。20kHzのLPFを使ってようやく何かうねっているかいないかと言ったところが読み取れます。



ヘッドホンを駆動する電流はグラウンドに流れ込む事がないBTL駆動ではグラウンド電位の変動は一切ありません、クリーンで安定な基準電位を保っている事が確認できました。

駆動方式が根本的に違うためセパレーション性能など他の要素の変化が大きくグラウンド電流の影響だけを切り出し判断する事が難しく、この事がサウンドにどう影響しているかは、とてもお伝えしづらい項目であります。グラウンド電流の影響は、例えるならスピーカースタンドと音への作用は酷似していると思います。エンジニアの方であれば、スピーカースタンドの重要性をご存知だと思います。このグラウンド電位の安定性についてはその事と似ています。安定しないスピーカースタンドでは振動板の反作用に負けスピーカーの実力を発揮し切れません。がっしりと安定したスピーカースタンドを用いてセッティングした場合のサウンドの違いは体感している方も多いことでしょう。BTL駆動のヘッドホンシステムも同様に電気信号の足場を固め、反作用となるグラウンド電位の変動が生じない動作となりますので、サウンドの違いとしてのイメージもその事と似ていると考えます。





 実際のサウンドへの効果

共通インピーダンスの排除により拡張された空間表現の高さはシングルエンドと比較すると明確な違いが現れます。一枚のスクリーンをイメージしてみて下さい。そのスクリーンに鳴っている楽器の写真を、サウンドイメージの2種類の軸、周波数特性に依存する上下方向のイメージ軸と、定位に依存する横方向のイメージ軸に当てはめてプロジェクターで映してみます。スクリーンがヨレていたり曲がったりしてすると基準となる軸も変形し、そこに映した楽器は、位置がずれたり形がゆがんでしまいます。スクリーンがきれいな平面であれば楽器の絵は元の通りの位置と形に正しく映し出します。後者がBTL駆動のサウンドイメージ、さらにスクリーン自体もBTL駆動では上下も左右もより大きく広い事を付け加えておきます。

例えば、サイドに定位させたアコースティックギターはシングルエンド(標準フォンプラグ)では中高域はしっかりサイドに定位しますが、低域はぼやけて若干センターに寄って聞こえます。これは周波数帯域毎にクロストークの量や発生原理に違いがあるために定位が周波数特性を持っている状態で音像の位置や形は乱れます。BTL駆動ではクロストークはどの周波数帯域においても劇的に改善されています、定位も周波数特性を持ちません。上下方向の軸も横方向の軸もゆがみがなく、楽器の音を正しい位置に正しい姿で描き出します。例に挙げたアコースティックギターであれば、弦の音・ネックの音・ボディーの音に位置のずれがなく、アコースティックギターの像を結ぶのが分かります。オートパンで揺らしている電子楽器音は低域から高域まで揺れ幅がそろい、移動する音像の中心がはっきりと見えてきます。BTL駆動では、他のパートのプレイが正しい姿で再生され、「シングルエンドでは気が付かなかったけど、このギターこんな弾き方してるんだ!」という新しい発見や刺激があるはずです、「それなら、音色を変え、こんな感じでリードを弾こう!」と自身の演奏内容や表現方法、音作りの方向性などが見えてくるようになります。BTL-900が「最高の演奏」を引き出すためのツールとなります。

グラウンド電位の安定状態を保つ事が、どれだけ忠実な再現性を持つのか。楽器がどこで鳴っているかを正確に把握できるようになる事が共通インピーダンスの排除による効果だとすれば、グラウンド電位の安定状態を保つ事は楽器がどう鳴っているかを正確に伝える事です。ここでのキーワードは「二つの意味で優れる解像度」。一つはより微細な音まで表現する事ができるかという静的な分解能。もう一つは時間軸に対しての動的な分解能。デジタルオーディオのサンプリングビットとサンプリング周波数の関係と言いたい事は似ています。静的な分解能は残留ノイズ対信号の関係であるS/N比やダイナミックレンジ、異なる周波数を同時に鳴らした時に干渉されずに再生できるのかを表す相互変調歪。動的な分解能は例えば信号がない状態から信号が出力される時、または信号がなくなる時のような瞬間的な動作の移り変わりの部分でどのような性能を持っているか、瞬発力やスピード感、基音・倍音の発音のタイミング。基準電位であるグラウンドの安定状態を保つ事ができるBTL駆動ではこれらの性能を向上させ、個々の楽器の発音タイミングつまりリズムやグルーブを正確に感じ取る事を可能にしました。例えば、ベースとドラムをモニターしながらギターを重ねていく場合、従来のシングルエンドではあいまいになりがちなベースとキックの関係も、BTL駆動ではベースのアタックとキックのアタックも明確になり、「ジャストなキックに対してベースは前ノリでプレイしているんだ!」といったリズム隊の意志やグルーブを感じとる事で、「自分のギターはこう弾こう!」と演奏へのアプローチが明確になるのです。

他のパートのクリアさはもちろん、自分の音の明確さにも驚いていただけると思います。ライブステージで返しの音が悪くて演奏しづらかったという経験があると思います。モニターのミックスバランスももちろん重要ですが、その音質もとても重要で、演奏のし易さを大きく左右します。この事はレコーディングモニターにも当てはまり、楽曲のクオリティー・芸術性をも支配すると言えるでしょう。BTL駆動でのモニターは他の音に埋もれることなくくっきりとした輪郭、ピッチやリズム、演奏のニュアンスや音色も細部まで明確に確認できます。ダビングする際にも過度に自分の音量を上げなくてもストレスなくモニターでき、最終的なミックスバランスを見据えてモニターし演奏する事が可能です。

またその事はサウンドメイキングの面でもたいへん有効です。モニターヘッドホンで聴いている音は通常マイクを通したレコーディングされるべきサウンドです。他のパートが入った状態でアンプやエフェクターの設定なども追い込む事で仕上がりに違いが出てくる事でしょう。レコーディング・エンジニアの仕事ですが、宅録環境で自分がそれを兼ねて作業する場合はとても大きなメリットとなると思います。他のパートからインスパイアされた自分の演奏もノリやニュアンス、息づかい、そして音色を忠実に聴き取る事ができ、それはまるで“音の鏡”のように機能します。自身の演奏を厳しくチェックし音楽性の高いベストテイクを引き出します。また、それを各パートで感じとり、プレイすれば楽曲全体の芸術性や完成度をより一層高めていく事ができると思います。

BTL-900は最高の演奏を引き出すための演奏者用のモニターヘッドホンアンプです。最高のヘッドホンシステムとするためにはヘッドホンが必要です。そのヘッドホンにはサウンドの好みや装着感などで様々な選択肢があると思います。その中で私どもがパートナーとして選んだヘッドホンはSONY MDR-CD900STです。MDR-CD900STはレコーディングモニターとして求められる多くの条件を高いレベルでクリアしていますし、何より自分たちが大好きなヘッドホンです。MDR-CD900STの性能を十二分に発揮すること、それはシングルエンドでもBTL駆動でもヘッドホン側の状態・条件は異なりますがどちらもMDR-CD900STで最高のモニターができるように細部を追い込みました。MDR-CD900STとの組み合わせで、特にBTL駆動でご使用いただく事をお薦めいたします。より多くの方にBTL駆動の素晴らしさを体感して頂きたいと考えています。MDR-CD900STのBTL駆動対応化モディファイについての詳細はこちらをご覧ください。



高音質ボリュームコントローラーICのMUSES72320を採用しました。可変レベル幅は0.5dBステップで正確なレベル設定、左右のレベル誤差0.05dB以内を実現する高精度、広い電源電圧設計による低歪・広ダイナミックレンジを特徴とするICです。可変抵抗器を用いたボリューム回路とは違い音量による音質変化がありません。左右のギャングエラーもなくどんな音量でも定位を乱す事はありません。また、ボリュームコントロールプログラムはBTL-900のためにバージョンアップされ、Maximum Gainを高く選択した際もゲインアップする必要のない小音量値では、アッテネーションのみを行うため最小のノイズ値を保ちS/N比を向上させました。Maximum GainはフロントパネルのGainセレクターで3段階に設定できます。











 進化したアクティブグラウンドサーキット

中点分割の定説とされる回路を変化させ、オーディオ回路としての動作にバイパスを施しサウンドをメインに構成を追い込み進化しました。


 電源ON/OFF時のポップノイズをカットする出力MUTEリレー

電源投入時はMUTEリレーが働き不快なポップノイズを排除、電源OFFの際も内部電圧の低下を検知し、いち早く出力リレーを動作させ不快なノイズをカットします。また、シングルエンドヘッドホンはプラグの構造上、抜き差しの際に出力ショートとなるため回路を保護するため一定時間のMUTEを行います。


 ロックタイプDCプラグの電源アダプター

付属する電源アダプターのプラグとDCジャックは抜け落ちを防止できるロックタイプを採用。スタジオ現場での事故を防ぐプロフェッショナル仕様です。



 XLR/TRSコンボジャックバランス入力、RCAアンバランス入力

+24dBuまで受けられるバランス入力端子にはコンボジャックを使用しXLR/TRSいずれのコネクションにも対応しています。RCAアンバランス入力とはフロントのINPUT SELECTにて切り替え式、3ポジションの中央にはMUTEポジションを設けました。



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