『これは普段はMIXでプラグインと併用することが多いですね。アウトは 「Class A Transformer Output」を好んでいつも使っています。EQはQもかなり狭くできて設定幅がかなり広いので、各コントロールにクリックがついていたらマスタリングに も使える製品だと思いました。』
『EQとしても積極的に使っていますが、DSセクションは重宝しています。声を 張った時に耳に痛くなるような声質になる場合は、このディエッサーを使えば楽に抑えられるんです。例えば声を前に出したい時には、HF LIMを入れてると高域が多少丸まって、中域が強くなって前に出てくるんです。この機能はEQと一緒になっていて、EQの後にDSをかけたりDSの後に EQをかけたりできるし、扱いやすく凄く良いですね。』
『NEVEモードも使ってます。NEVEはザックリして気持ちいいような音になるのが良さだと思うんですけど、それを再現できるのは面白いですね。ちょっと印象を変えたい時には設定を少し変えればいいし。DIを使う場合にもEQをかけられるので便利ですね』
翌日も歌録りだったので、今度は説明書をしっかり読んでからディエッサーと Shelf EQを積極的に使ってみました。Shelf EQはかなり良いですね。この部分だけでも目的の音に近づける事が出来ました。またディエッサーも「サ行」の気になる所を上手い具合に抑えることができま した。この機能はかなり使えると思います。プラグインのそれよりもかかり具合が音楽的に感じました。後日HF LIMを楽器の録りで使用しましたが、説明書の通りFATSO譲りの適度なテープコンプ感を得ることが出来ました。元々オマケ程度と考えていた Dynamics Sectionはいつも使いたくなるような機能ですね。
EQにおいてShelf EQはまさにビンテージEQのような質感で音をよりリッチなサウンドにしてくれました。4Band EQはQ幅調整によって、音の微調整から積極的な音作りまでカバー出来るポテンシャルを持っていると感じました。また、2系統の出力ですがトランス側はま さにトランスサウンドというに相応しい出音でした。これらの組み合わせで様々な使い分けが出来ると思います。Dynamics SectionはプリEQ,ポストEQと挿入箇所を変えられるのも便利でした。
プラグイン全盛の今にアナログのEQ?と思う方もいると思いますが、プラグインは画面上に数値が出てしまう関係上どうしても目からの情報が入る為、耳が騙されてしまいがちですが、やはり耳だけを頼りにツマミを回すこの感覚はアナログでないと得ずらいものだと思います。
このLilfreqはプラグインのような多才な機能、使いやすさとアナログの 良さを併せ持っている機材と言えると思います。私も今回音作りの楽しさを再発見出来たような気がしました。もちろん今回試用して気に入ったので今では手放 せない機材として録音、Mixと大活躍しています。
DietressorやFatsoのダイナミクス技術を盛り込んだアナログEQ
EMPIRICAL LABSのDistressor(EL-8)は、1996年リリースという新しめの機材ですが、個人的にはスタジオに入れば必ず使うコンプとなっていま す。今回チェックするLil FrEQは、同社からリリースされた1ch EQ。シンプルなデザインのDISTRESSORとは対照的な、アルミ削り出しの小さなつまみが16個も並ぶパネルは、個人的には“?”な印象です。しか し、使ってみないとわからない、そして本番で使わないと真理は見えてこないというのが私の持論であります。試用ではなく、本番のミックス・ダウンでベー ス、ギタ、キック、ボーカルなどにインサートしてみました。で、その感想は・・・・・はっきり言いましょう。これ、いいです!1つ1つツマミを触るたび に、“おぉ、なるほど!”と納得させられ、非常に楽しく積極的に音作りができるEQ・・・・・というか、EQの枠を超えたサウンド・プロセッサーです。
アナログ・ハーモニックスを加えて音やせを回避するハイパス・フィルター
結論を先に言ってしまいましたが、各部の説明をして行きましょう。まず入力 は、リア・パネルにバランスのライン入力(XLR&TRSフォーン)があります。そしてフロント・パネルには、アンバランス&ハイインピーダンス 用にDI入力が装備されています。バランス入力よりイニシャル・ゲインが+10dB高く、Inputの+20dBのゲインと合わせると30dBのゲインが あり、標準的な出力の楽器であればプリアンプは必要ありません。COUNTRY MAN Type 85の方がクリーンで良い場合もあると思いましたが 、ベースでは本機の方があらあゆる局面でいい結果が得られると感じました。 続くハイパス・フィルターは、-18dB/oct、カットオフ周波数は30~330Hzで8段階の設定が可能。DISTRESSOR譲りのアナアログ・ ハーモニックスを加える回路により、カットオフ周波数付近の音やせを防ぐ仕組みになっています。実際ベースなどでは30Hzのハイパスを入れると、余分な 超低域を切りつつも低域の張りが出る感じとなり、非常に使い勝手がいいです。
音色のポイントをつかみやすいEQ テープ・サチュレーションの再現も可能
さて、次は本命のEQセクションです。まずはHiが4kHz、Lowが120Hzの2バンド・シェルビングEQがあり、その右に4バンドのパラメトリックEQが並んでいます。シェルビングとEQの各バンドは個別にバイパスが可能です。 4バンドEQのスリケンシー・セレクトとQカーブには“N”と“○”が印字されていますが、この位置はNEVE 1073のMid EQフリケンシー・セレクト(7.2/3.2/1.6/0.7/0.36kHz)とQカーブ特性を表しており、この位置にツマミを合わせることにより 1073の特性を再現するというものです。1073にも個体差があるので、本機でその感じが出せるかと聞かれると正直何とも言えませんが、シミュレーショ ン具合など気にならないほど、本機は単体のEQとして良くできています。 実際の音作りでは、シェルビングEQでの全体的なトーンを作り出し、4バンドEQでさらに追い込む感じで使うといい結果が得られました。特にパラメトリッ クEQのQカーブは一般的なQカーブよりも変化が大きく、このつまみを回すことにより多彩な表情を見せます。また、音色のポイントをつかみやすいEQなの で、有効なイコライジングに楽にたどり着くことができると思います。 さらに、その右にはダイナミック・セクションがあります。コンプのスレッシェルドとその検知周波数を指定するフィルターがあり、EQ前とEQ後どちらにも インサートできるようになっています。使い方は、コンプをかけいたい帯域を選び、かかり具合をスレッショルドで設定。ディエッサーとして使えるのはもちろ んですが、広域のピークをクリーンに抑える、あるいは注意機にコンプをかけひずみ感を増やして存在感を足すなど、ディエッサーの領域を超えた使い方ができ ます。そして、このLil FrEQのウリの1つとも言えるのが、HF LIMボタン。これは同社のFATSO EL-7に搭載されているのと同じ高周波専用のソフト・ニー・リミッター/コンプレッサーで、アナログ・テープのサチュレーションを再現する機能です。 ON/OFFスイッチのみのシンプルなものですが、音が遠くなったり、レンジが狭くなることなく、高域にプレゼンスが足され存在感が増すのはさすがです。 最後は、出力端子について。リア・パネルには電子回路によるトランスレス出力とトランス出力があります。トランスレス出力は色付けの無いクリアな音質、そ してトランス出力は重厚な音質です。このトランス出力は非常によくできていて、“トランスレスを使う人はいるのかな?”と思うほど、説得力のある音が出力 されてきます。
ほめちぎったレビューになってしまいましたが、唯一難点があるとすればつまみ を回したときの感触が価格相応ではないこと。1chで30万円弱ということは、2chではGMLやAVALON DESIGN、MANLEYなどの高級EQと同価格帯になります。もちろん音にはそれだけの価値はあるので、そこだけは改善してほしいと思いました。3U 程度で余裕あるレイアウトにした、2ch仕様&クリック付きのマスタリング・バージョンが発売されるのを、つい期待してしまう私です。