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GRACE design m108の進化した回路設計について
by マイケル・グレース

GRACE designのm108は、新世代ハイパフォーマンスのマイクロホン・プリアンプとデジタル・コンバーションに対応すべく開発した、進化したプロダクトです。先代モデルであったm802はおかげさまで、中継車や音楽ホール、オペラ会場や放送局など、数多くのアプリケーションにインストールされました。m802は2Uのラックスペースと1Uハーブラックの外部パワーサプライで構成され、システムは頑丈で信頼性の高いものでしたが、多くの顧客は多チャンネル環境でm802を使用し、64chのシステムであれば、プリアンプのメインシャーシだけでも16Uのラックスペース、電源を合わせるとさらに8Uのスペースを必要としました。さらに重量はかなりの重さになったため、その運搬は容易ではありませんでした。また価格も高価になり、多チャンネルシステムを簡単には導入できなかったのも事実です。

私たちの目標はモダーンな録音環境において、新しいマルチチャンネルのマイクプリアンプを開発することであり、大規模なシステム構築はもちろん、プロフェッショナルスタジオやホームスタジオ、さらにはシンプルなロケーション・レコーディングにおいても、フロントエンドとして活躍できる製品を作ることでした。

私たちは過去に設計したどの機器よりも、より優れた製品を生み出せることを分かっていました。そしてm802よりも更に拡張されたI/Oとコントロール性能を持たせることもです。そして何より「信頼性」が大事であることは言うまでもありません。全ての設計プロセスでは「信頼性」が重視されています。どんなに優れたマイクプリアンプであろうとも、それが上手く動かないのなら何の意味もありません。従来モデルのm802の信頼性はとても優れたものでした。m108の設計においては更にシンプルで飾り気のない強さを意識しています。m802+ADオプション・カードの組み合わせではトータルで16ものPCBを独立設計しましたが、m108ではこれを3つのPCBに集約しようと試みたのです。これはもちろんサイズを小さくするという意味もありますが、それ以上に内部のワイヤリングを減らし、ピンやコンタクトを減らすことでもあります。m802+ADCの16枚のPCBの中では何と450箇所にピンとソケットが使用され、ワイヤーで接続されるか半田でジョイントされていたわけです。m108ではこの数を150箇所に減らすことに成功しています(もちろんADコンバーター回路を含めて)。故障の原因を減らすだけでなく、製品のコストも大幅に減らすことができ、音質的にも有利です。

最終的には私たちは2チャンネルのDAコンバーターも仕様に加えることにしました。これでレコーディングを行っている間に、リファレンス・モニタリングを行うこともできます。さらにDanteネットワークではDAコンバーターをキューミックスまたはトークバック・アプリケーションのAUXアウトプットとして使うことも可能になります。

システムをより小型で軽量なパッケージにリ・エンジニアリングし、より費用対効果の高いシステムにする事、新しい世代のコンバータ、クロック技術、デジタル制御のプリアンプ回路を活用することが必要でした。それに伴い、最新の信号フォーマットへの接続性と制御技術をデザインする必要がありました。また、従来のm802プリアンプの大規模な導入に対する互換性を保つためにもRS 422とMIDI通信も追加しています。

私たちGRACE designのマイクプリアンプは25年ものあいだ徹底して基本となる設計を変えていません。まずは必ずこの重要なリストから始めていくのです。それは「シグナル経路に電解コンデンサを使用しない」、「各チャンネル毎に独立した電源回路」、「全ての信号スイッチングにはゴールドコンタクトのリレーを採用する」、「カレントフィードバック方式の入力アンプ設計」、「精巧な金属皮膜抵抗」、「信号ルーティングの完璧な設計」、「パワーサプライのグラウンディングと完璧なEMI/RFIプロテクション」などの項目を含んでいます。

マイクロホン・プリアンプの設計を行った後に、ADコンバーター・セクションのデザインを進めていきました。m108ではADコンバーターをオプションとしてでなく、「標準装備」しています。最適なシグナルと電源回路のレイアウトをオーディオパスの中で実現することができました。

次のタスクは、 m108がサポートする必要があるすべてのサンプルレートとクロックソースを処理するクロッキング・システムでした。低ジッター、そして高いジッター除去能力は、このクロック設計において最も重要なパラメータでした。私たちは、最新世代のDSPLL(Digital Synthesized Phase Locked Loop)に基づいてこのクロック。システムを設計しました。このタイプのクロック・システムは、ジッタが100fs以下(12kHz〜20MHz)と驚くほど低くなっています。

オーディオ帯域では、その固有のジッタは理想的なVCXOベースのクロックほど低くなりますが、いくつかの利点があります。デジタル合成されているため、クロックはワードクロックが失われた場合でも、出力周波数を保持するようにプログラムすることができるのです。ワードクロックが復元されるとクロックはスムーズに再度ロックされます。

また、DSPLLではそのループ帯域幅を500mHzに設定することができるので、外部のクロックのジッターを最大限リダクションすることができるのです。ジッターのリジェクションを1/2Hzまで確保しながらも、素早いロックタイムを実現できます。

これらはアナログPLLでも実現することができますが、大容量のコンデンサ、洗練されたスイッチング・デュアルバンド幅の回路、PCBスペースの確保が必要で、コストも大きく膨らむことになります。それだけで1Uシャーシスペースは埋まってしまうでしょう!マイクプリ、ADC、クロックのコア回路の設計、デジタルI/O、制御系、電源回路設計、そのどれもが全て重要なエンジニアリング・プロジェクトでした。

デジタル・プロセッシングのエリアでは、ADAT、AES3、USBなどの複数の出力フォーマット、そしてI2SがDanteオプション・モジュールのために必要とされました。また、低レンテンシーのデジタル・ミキサーを内蔵させました。これでADCチャンネルはUSB経由のコンピューター(またはDante)からのステレオ・リターンにミックスすることができるようになります。私たちの技術開発チームは、これをXMOSプロセッサーで実現することに成功しました。m108のメインプロセッサーは、クロックとコンバーターの構成、マイクプリアンプの制御、温度管理、ユーザー・インターフェイスなど、すべての内部システムの管理をマネージメントしています。

これらのタスクに加えて、メインプロセッサーは外部との通信を行います。RS485 / RS422、MIDI、イーサネットによるコントロールはすべてメインプロセッサーで管理されています。m108のプロセッサーには、ミニ・ウェブサーバーが内蔵されているため、プリアンプは標準のWebブラウザー、またはスタンドアローンのMacやWindowsのコントロールア・プリケーションからリモート制御できます。これらは実質的なソフトウェアを完成させる作業に終始しました!メインプロセッサは、フロントパネルのユーザー・インターフェイスも管理しています。このインターフェースをデザインするにあたって、初めてm108を使用するユーザーであっても、幅広い設定とパラメーターを、シンプルに直感的に操作ができるようにすることを最終的なゴールとして設定していました。

レコーディング・エンジニアが集中して作業ができるように、セッティングは素早く見つけられ、迅速に実行できなくてはなりません。

パワーサプライをマイクプリアンプと同じシャーシに収める事も大きなチャレンジだったといえます。従来の60Hzのリニア電源では、微弱信号に対してノイズの放射が大きく、従来のm802に外部パワーサプライを採用した大きな理由となっていました。

そこで私たちは、カスタム設計されたスイッチモード電源を使用することにしたのです。これは、とても軽量かつ効率的で、オーディオ・スペクトルに全くノイズを発生させません。しかし、スイッチング周波数で超音波ノイズが発生するため、シールドとフィルタリングをパーフェクトに設計することで、この電源からの放射ノイズ、および伝導ノイズを除去することに成功しています。

結果、私たちはこのGRACE design m108の完成度をとても誇りに思っています。
会社の歴史の中で最も大きなエンジニアリング・プロジェクトであったことは間違いありません。
GRACE design m108が持っている「品質」と「信頼性」は、全てのレコーディング・エンジニアが「最高の芸術作品」を生み出す瞬間に貢献できると私は信じています。

文:マイケル・グレース
電子回路設計者であるマイケル・グレースは、GRACE designの設立者、同社のチーフ・デザイナーでもある。

 

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