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Interview column インタビュー&コラム

CHANDLERデザイナー  ウェイド・ゴーク 日本独占インタビュー完全版

『まずはじめにあなたの経歴について教えてください』

『まずどうやって電子サーキットについてのエンジニアリング技術を学んだ か?という事についてですが、何時だったのかどうたったのか自問自答してしまうというのが正直なところです。ルパート・ニーブも同じような事を言っていま した。私は全て実行してしまう事で学んだものですから・・・でも古い電子回路に関する書物やトランジスタや真空管に感する本などももちろん読みましたが基 本的には実験を通じて色々と学んでいったのです。

小さい頃にはラジオの中身がどうなっているか開けて調べたりしたものです。全て自然な流れだった訳です。 その後ミュージシャンとしての活動をスタートさせたおかげで、レコーディングや回路設計を行う時に私はいつもリスナー側のポジションから音を判断できるよ うになったのです。このことはたいへん私の役に立っている部分です。確かに回路設計に測定機を利用はしますがあくまでもガイドラインにしか過ぎません。大 切なのは私のPro Toolsマシンにトラックされたその実際の音質なのです。オーディオの精巧さやオシロスコープだけで良い音は作れないのです!』

 

『なぜ?そしてどうやってCHANDLER LIMTEDをスタートさせたのですか?』

『 最初はロスアンゼルスで Brent Averillsのところで働いていたのです。彼の店でテストやリペアなども担当しました。それから遂に自分自身のオリジナルの回路設計をトライしていく 時期だと感じたのです。最初は資金も少なく流通も少しだけでした。従業員は自分一人、友達とシェアしたアパートメントで数台ずつ作り上げていったのです。 それが今では29人の従業員と4000平方フィートもあるオフィスにまで発展したのです。』

 

『アビィロードスタジオなどが生み出したブリティッシュロックサウンドの大ファンなのですか?』

『まさに大ファンです!私の最初の音楽に関する記憶はビートルズの『ア・ハード・ディズ・ナイト』の45回転盤を両親が聴いていたことです。自分は6歳くらい でこのビートルズの記憶は忘れられません。両親に感謝しなくてはなりませんね!その後ピンクフロイドも熱心に聴きました。でもアビィロードとの関連性には 何も知らなかったのです。(それを知るのは)もっとあとになってからですね。』

 

『CHANDLER LIMITED はEMIのTGシリーズで一躍有名になりましたが、何故TGだったのでしょう?何があなたをTGシリーズに向けさせたのでしょう?』

『本当に偶然が重なったんです。私はEMIが自社のための機材をオリジナ ル作成していたことは良く知っていました。15年ほど前に私は 偶然にもOdyssey Pro Soundで2台のEMI Limiterが入荷しているのを知ったのです。音を出した瞬間そのサウンドに驚かずにはいられなかったのです。とてもビンテージでスムースな音質でし た!その音は長年にわたり私の頭の中で鳴っていたサウンドで、他の機材では決して得られなかったサウンドでした!その時に自分はいつか(TGシリーズ)こ れらを製作するためにもっと入手する事になるだろうと思いました。でもそれは大変レアな機材だったのですけれども・・・。』

 

『TGシリーズの技術的な詳細はどうやって学んだのですか?』

『(自分が入手した)TG12413 LimiterとTG12428 Pre ampを研究していきました。ベーシックなTG1の回路のドローイングだけはあったのですが、それ以外はかなりの時間を費やして回路を解明していったので す。リミッターの回路は特に手ごわく正しいサウンドへの調整に時間を使いました。後に最初のTG復刻版をアビィロードが使用し彼らは大変それが気に入りま した。ちょうどアビィロードも誰かにTGシリーズの復刻を作らせようと考えていたらしく、全てがパーフェクトなタイミングで進んだのです!

一度アビィロー ドと契約を結んでからは私はオリジナルデザインのデータや技術書に自由にアクセスできるようになったのです。30年以上にわたる膨大なEMIデザインの全 てに好きなときにアクセスできるのですよ!これはインディアナ・ジョーンズがアークを初めて開くみたいな不思議な感覚です!現在Chandler Limitedから発売されている全てのTGシリーズのデザインは完全なオリジナルデザインとなっており、可能な限りサーキットボードのデザインまでもが 再現されています。完全なレプリカです。』

 

『Abbey Road Plug-inについてはどのように開発が進んだのでしょうか?』

『まずコードが書ける人材を雇いアビィロードのエンジニア達と私でサウンドの違いを追いこんでいきました。最初のバージョンで既に私はとても興奮してしまったのですが、それから1年もの間コードを細かく調整してファインチュー ニングしていったのです!自分はもう15年もの間このTGリミッターのサウンドに慣れ親しんでいるのですが、プラグインのサウンドはかなり本物に近くなっていると思いますよ。何人かのアビィロードのエンジニア達は1967年からずっとTGを使っているんです!良い仕事ができたと思います!』

 

『NEVEのリプロダクションも発売されていますね。LTDシリーズはどのように生み出されましたか?』

『私の最初の真剣なプロジェクトは1073をスペアパーツから組み立てる ことでした。私は当時1073のモジュールを1つだけ所有していて、もっと欲しかったのです!しかし買うお金もなかったものですから自分で作ってしまっ たという訳です。この作業から私は沢山の事を学びました。5台のモジュールを完成させました。(このモジュールは後に Brent Averillで働くきっかけにもなっている)』

 

『Germanium シリーズが昨年から話題ですがこの素晴らしいギアのコンセプトを教えてください』

『私はゲルマニウムトランジスタを使用した機材のサウンドにいつも魅了さ れていました。しかしヘッドルームの乏しさ、ノイズの多さなどに問題を感じてもいました。最初のアイデアはこれらの問題点を解消しながらもゲルマニウムな らではのクールなサウンドを作り上げようというものでした。例えばNEVE 1057は+24Vで動作していて +22dBしかヘッドルームがありません。これではサウンドが不安定になってしまいます。しかしNEVE1057のサウンドはとても良いのです・・・・。

Germanium Preではクリップが起きるまでに+34dBもの余裕があります!+40Vでの動作を確保しています。私達のオリジナルのゲルマニウムトランジスタにより 安定したサウンドが得られるのです。これによりビッグで温かいサウンドが実現できました。』

 

『Germaniumはどのようなマテリアルに最適でしょうか?どんなメリットがありますか?』

『その音質です!音質に尽きます!私の意見はスタンダードなシリコントラ ンジスタに比較して圧倒的にスムースでナチュラルで温かいサウンドであるという事です。多くのユーザーがアナログテープマシンのサウンドや真空管機器と Germaniumの共通点を語っています。しかもそのサウンドは潰れた感じになりません。』

 

『Germanium シリーズの開発で難しかった点、工夫した点は?』

『入力トランスフォーマーとゲルマニウムアンプのバイアス調整ですね。 St.Ivesなどのスタンダードなトランスも試しましたし、TGのトランスなどのビンテージも試しましたがどれも完璧とはいえませんでした。そこで私達 は完全に新しいデザインの入力トランスフォーマーをGERMシリーズのためにオリジナル作成しました。これは企業秘密なのですが、いくつかの素晴らしい工 夫がそこにはされています。このトランスは巨大なレベルを歪なしで作れる、そしてGERM特有のローエンドの力強さに貢献しています。

また標準の入力イン ピーダンスよりも低く設定してあり音質がベターなものになっています。通常は1200オーム入力が一般ですが、300オームの入力は音質が分厚くより素晴 らしく響きます。私達の実験では明らかにミスマッチと思えるマイクですら(Germaniumでは)サウンドがベターであったのです!次にGERMアンプ のバイアシングについてです。これは本機の音質、特性、S/Nなどにおいてたいへん重要な事項でした。最高級の10ターンのトリムポットを正しくキャリブ レイトし可能な限り(非常に時間をかけて)安定した動作に仕上げました。』

 

『"Gain"と"Feedback"そして "Pad" と"Thick"の相互関係について教えてください。』

『"Gain" と"Feedback"こそがGERMANIUMシリーズのサウンドの核になります。これは実際にゲルマニウムトランジスタを採用したことよりも重要な点 かもしれません。FeedBackはプリアンプのオペレートに最も変化を及ぼします。入力への出力のフィードバックは通常サウンドへの変化が大きいため回 路設計では固定されるのが普通です。しかし私達は実験中にこの変化をプリアンプの機能として残すことにしました。このエフェクト効果により高域、低域のレ スポンスに変化がつけられます。また倍音の調整も可能になります。FeedBackを低めに設定すれば高域の伸びと倍音の少ないクリーンで抜けの良い音に なります。またFeedBackを高めに設定するとレベルが大きくなるだけでなく、倍音成分が強調されます。フルにすれば10-20倍の倍音まで得られる のです。そして高域を丸くし低域が力強くなります。

ノブの調整によりAPIのようなクリーンな感じから、分厚いNEVE的なサウンドまで操れるようになり ます。またGAIN(ゲルマニウムドライブ)と組み合わせてインタラクティブな効果も生み出せます。GAINを上げれば低域を強くすることができますので、その時FeedBackを下げればハイエンドのアクセントや倍音は少なめ、更にローエンドの力強い最高のサウンドが得られます。更にPADと THICKスイッチが加わりバリエーションが無限大になります!両方のコントロールを上げた時のローエンドと倍音の増加、ハイエンドの丸みを多くの人たち が絶賛してくれました。例えばマイクのサウンドが少しブライトな印象であればFeedBackを少し上げてみればよいのです。もしシンガーの声が少し細い 線であればGermanium Drive (Gain)を少し多めにします。これだけです。EQも使いません!

ThickスイッチはローブーストですがDriveとFeedBackに インタラクトに影響します。例えばThickスイッチがインでローエンドが強調されたときに、更にDriveをあげればマッシブな低域が得られます。実は 自分はエレキギターに最高だと思ってサウンドデザインしましたがドラムやベース、ミックスバスにも使えます!』

 

『Germanium Tone Control EQ(GTC) ではパッシブとアクティブの両タイプEQを混在させるユニークな手法がとられていますね。GTCの設計コンセプトについて教えてください。』

『私の最も好きな機材はEMIのTG、NEVE、PULTECの3つで す。GTCの開発背景にはEMI以外の私のお気に入りの機材のサウンドを融合させるという狙いがありました。GTCはNEVEやPULTECのコピーでは 決してありませんが明らかにそれらのサウンドを持ち合わせています。PULTECのローエンドやコントロール間の相互作用、そしてNEVEの中高域など私 の好みのサウンドが融合されています。GTCは各バンドにインダクターが採用され分厚く太いローエンドとクリアーな高域の両方を得られます。』

  『GTCのアクティブEQサイドのQのキャラクターについて教えてください』

『PRESENCEコントロールの各周波数は最も音楽的に有効なエリアに スポットを当てています。通常300/500/800Hzは鋭いQでマディな中域に有効です。1200/3300はQもミディアムです。4100 /6200/8300はワイドでスムースな高域のブライトネスに最高です。またTREBLEセクションのベルカーブ設定ではPRESENCEセクションの Qよりワイドな設定になりますのでスムースでフレキシブルなトーンコントロールが可能です。例えばPRESENCEの8300とTREBLEの8k2を比 較すれば周波数は同じでも(Qのシェイピングが違うので)全く違うEQ効果になるのです。またTREBLEバンドではシェルフタイプのカーブを選択するこ ともできますので広がりのある美しいブライトネスを調整可能です。』

 

『GTCのパッシブEQサイドの"Independent Mode" と "Interactive Mode"について教えてください』

『インタラクティブモードはPultecタイプの機能でブーストとカット が同時に行われる特殊なモードです。コントロールの相互性により素晴らしいサウンドマジックが得られます。例えば70Hzをブーストし、240Hzをカッ トしたとすると200-350Hz付近の真ん中がカットされ70Hz付近は持ち上がります。理論的には70Hzをブーストして200-350Hzを少し カットしたのと同じかも知れませんがサウンド的には他にはない音質になるのです。

何故PULTECがこのデザインで特許を持てたか、その秘密はこの素晴らしいサウンドにあるのでしょう。オリジナルのPULTECデザインでは1つのプリセット周波数(ブーストとカットの組合せ)しか選べませんでしたがGTC では個々の周波数が選択でき、更に組合せられます。あのビンテージPULTEC EQの素晴らしいサウンドをあなたのトラックに最適なポジションへとフレキシブルに選択できるように設計しました。インディペンデントモードはスタンダー ドなコンソールEQと考え方は同じです。スタンダードなEQとしてGTCならではの滑らかなローエンドを調整できます。』

 

『Germaniumシリーズには新製品の予定がありますか?』

『もちろんです!Germanium Maximus(チャンネルストリップタイプ)などを今後リリースしていきたいと考えています。』

 

『それ以外の製品シリーズの新製品予定はありますか?』

『沢山のEMIユニットが製作のプランにあがっています。その中にはEMIの初期真空管機器もリストされていますよ。』

 

『あなたが近年取り組んでいるというコンソール卓について教えてください』

『私達が開発を進めているコンソールは19"のラックマウントユニットになっています。基本的にユーザーは自分の持っている全てのアウトボードをそこに組込み可能なのです!TG Channel MKII, LTD1, GERM ToneなどのCHANDLER製品はもちろんNeve, API, and SSL Xlogic などをチャンネルモジュールとして自由に組み込んで、BUSSモジュールなどで統合します。特に先にあげたGermanium MaximusやZener Bender Channelに対してコンソールを構成するために開発しています。これはUNIVERSAL CONSOLE と私達が開発ネームをつけている製品で画期的な製品になります。

8バスセットアップで各チャンネルでキャラクターの違うモジュールタイプを使用するなどア イデアも広がります。例えばBuss 1-2が EMI TG, Buss 3-4が GERMANIUM, Buss 5-6 がAPI, Buss 7-8が SSLなどというとんでもないコンソールも組み立てられます。コントロールルームもフレキシブルな構成です。例えばですがDangerous SR/STやCranesong Avocet などを簡単にシステムに取り込めるようにも考えています。この事によりデジタルインターフェイスはもちろん、多数の出力やサラウンドへの拡張などがイー ジーに行えるのではないかと思います。もちろんChandlerの製品は縦型のパネルを用意してコンソールに組み込めるように工夫するつもりです。

↑開発中のコンソールプロトタイプ

Chandler製品だけでも以下の製品をこのコンソールにフィットさせたいと考えています。

■GERMANIUS MAXIMUS GERMANIUM Channel
■Zener-Bender Channel
■TG12345 mini channel (ビートルズのコンソールに搭載されていたPre&EQの完全レプリカ)
■GERMANIUM Tone Control
■LTD1
■TG Channel MKII

*GERMANIUM pre amps と TG2 をバススロットで使用することも可能

これだけでも多大なフレキシビリティーが実現できると思います。シンプル なPre+EQ構成、EQだけ、ゲルマニウム、シリコン、アクティブ、パッシブ、DIをコンソールチャンネルに実装など・・・更にNEVEやAPIや DAKINGなど最高のアウトボードを自由に搭載できるのです!プロトタイプ開発に取り組んでいます。』

 

『将来どんな製品を開発していきたいですか?』

『プラグインの開発は楽しかったのでまたやっていきたいと思っています。また現在私はマイクロホンについて色々な実験を行っています。そして真空管機器についても同様です。』

 

『あなたの素晴らしいCHANDLER製品が音楽シーンに影響を与えているでしょうか?』

『私はChandlerの製品を使っているユーザーからどれだけクリエイ トされる音楽やレコーディング方法が機材によって変わっていくかを聴いています。私は自分が良いと思えるサウンドをこれからも追求して機材を開発していく つもりです。それは自分が使いたい機材です!もし自分がその機材にお金をつぎ込んだ時にハッピーになれる機材しか作りたくないのです!』

 

『ありがとうございました』

Chandler-Limited_wade_goeke

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